第二百九十五巻目 希望
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あれは、僕がまだ違う政党に入りたての頃……と、いってもそのころはまだ大学生だったから、手伝いみたいな感じだったけれども、ある時ね、貧民街に行ったんだよ。
日本に貧民街があるなんて、もしかしたら信長くんは信じられないかもしれないけれども、実際にあるんだよ貧民街っていうのは。
そこに初めて政党で成果を作るために、支援で行ったんだけれども、その時に出会った子供たちが、今上にいる子たちなんだ。
その子たちはね、僕たちの顔を見るなり体を震わせて手を握り合っていたよ。
僕はね、その光景を今でも忘れられないんだ。
その時は、その時の議員が貧民街を視察して、その町の有力者と話をして、対策を練るという格好だけ取って、そのままとったけれども、思えば僕が政治家として本当に活躍したと思ったのはこのことが始まりかもしれない。
そこから僕は、どんな手を使ってでも政治家、いや国を動かす存在となり、この国を豊かに素晴らしい国にしなければならないと決意したんだ。
有力政治家に献金を送ったりもしたし、正直な話犯罪まがいのこともやった。汚い手を使いすぎて、僕は地獄に落ちるかもしれない。だけれども、何もこの世界に生まれた子たちがこの世界で地獄を見る必要はないんだ。その一心で働き続けたよ。
そして、政党を抜けて僕の意見を聞き実行できる人間をそろえた政党を作った。それで、選挙で大差をつけて当選することができて、晴れて与党となり、念願だった日本のトップになることができた。
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「……それで、そこからお前は好きなように国を動かすことができたんだろ?」
「はは……それができれば苦労しなかったよ。そこから僕はsらに上の人間たちに気に入られようと、政策を実行していって、ある程度の権力を僕一転に集中するように仕向けた。これで、本当の意味で日本のトップに上り詰めることができた……できたと思ったんだ」
「?」
「信長君、本来ならだれもが覚えているはずなんだけれども、戦争という単語に思い当たる節はないかい?」
戦争……戦いとかならいろいろしたことはあるけれども、戦争というものはない。
「……いや、ないな」
「君だからね……仕方ないよ。僕がようやく権力を掌握して、国を動かそうとしたときに、いきなりこの国が攻撃を受けたんだ」
「!?」
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「おい、どうなってるんだ!」
「総理、落ち着いてください。今情報を集めてますから」
前代未聞のことだった。超長期的に非戦線状態だった日本は、突如として攻撃を受けた。それも、国や組織ではなく謎の存在にだ。
調査をしたけれども、結局のところ情報出てこなかったけれども、僕らはその存在と長期間にわたる戦闘状態に入ったんだ。
そして、夏の終わりの頃、首都は崩壊して焼け野原となり、僕が政治家を目指した原点でもあった貧民街もすべて消えてなくなった。
そこから、僕の求心力低下して、国賊と言われるようになり、今のように追われる立場になった。
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「そんな時に、僕のもとに集まったのは原点を与えてくれた、子供たちだったんだ。僕はそこから彼らにしっかりとした文字を教え、言葉を教え教育を施した。宗教学の話をしたときに、子供たちが僕のことを神様ともてはやすようになり、教祖という名前が定着したんだ」
「……」
「僕は正直追われる立場になってから絶望しか感じてなかった。だけれども、こんなに求められていることを実感すると、やる気が出てくるんだ」
「……一つ、質問をしてもいいか?」
「なにかな?」
「その、戦争が終わったというのは分かったんだが、その謎の存在に勝つことはできたのか?」
そう聞くと、顔が引きつったまま固まり、しばしの間沈黙が流れた。そして、深呼吸をして
「勝ち負けはついてない。いつの間にか彼らは姿を消したんだ。だから正体もわからないってこと」
「なるほど……」
「でもね」
「?」
「今だと何が原因かわかる気がするんだ」
「原因がわかるのか?」
「もちろん、確実ではないけれども、予測はつくんだ」
「時空探査実験。いわゆる、タイムトラベルの研究だよ」




