第二百九十三巻目 変人
「世界を変える?」
「最初は口だけで、周りは僕のことを変人扱いしたよ。僕も変人であることを自負した」
「じゃあ、今も口だけ……というわけじゃないだろ?」
「僕は世界を変えようと思ってから死ぬ気で勉強を始めた。自慢じゃないけれども僕は頭は意外と切れるほうで、成績はぐんぐんと伸びていった」
「おぉ、すごいじゃないか」
「その後国立の帝都大学に入って教授のもとでいろんなことを学んで修士課程も撮った。だけれども自分のちからを活かすには、自分の力を利用して成り上がっている上の人間を動かさなければいけないと思った。そのときようやく政治の道に行かなければいけないと覚悟した」
ノートをもちだして俺に渡して見せる。
「それは、僕にとって思い出の品なんだ。信長くんにも思い出の品の1つや2つぐらいあるだろ?」
「まぁ」
「そのノートの中には僕の受験の頃の日記や、辛かったときに書いた詩、偉人の名言。そして将来どんな国にしたいのかそんな事を書き連ねていた」
スコッチを一口含み、キリッとした目で話す。
「でもね、国は僕のことを排除した。もちろん僕はワガママで傲慢なだめな独裁者ならばいたしかないだろう。だけれども、僕は国民に対して考えを説き、理想の世界への考えを共鳴していたのだ。これを国が排除するのはおかしな話なのだ。僕は政党も作った。一度はこの国のトップになり、ようやく理想の世界を作れると思った」
「思った?」
「だけれども、僕は国の手のひらの中でただ転がっていただけだったんだ」
部屋は誇り臭く、薄暗かったがどこか燃え上がるような炎があるように思えた。そして、その炎はこの部屋を明るくするのはもちろんのこと、この部屋以外、外までをも明るくしようとしていた。
その根源が見つかったのは今、この瞬間だった。
「僕は国を追い出された後、影の中で生きる生活を歩んでいた。だけれども君が来たことによって全てのピースは揃った」
「――ピース?」
「偉大なるこの国に対して、新たなる秩序を。これが僕らのスローガンだ」
「……」
「信長くん。私はね変人というものは二種類存在すると思っているんだ」
「変人に何がいるっていうんだ?」
「1つはただ単に変わっている変人。変わった言動や変わった考え方をただ語っているだけ。しかし2つ目の変人はそれらを語った上で行動を起こして、本当に言葉を現実にしてしまう」
「じゃあ、お前はどっちだって言うんだ?」
「まだ僕は前者の方だよ」
グラスに残っていたものを一気に飲み干し、勢いよくグラスを床に落とした。グラスはきれいに弾き割れた。
「でも、今から後者になりに行くんだ」




