第二百九十二巻目 世界を変えようと
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「どうだい? 面白い内容だろ?」
「確かに面白い内容だ」
うん、確かに面白い。だけれども、なぜこいつはこの手紙を今の今まで持っていたのだろうか? 俺には正直分からない。こいつはよく訳の分からないやつだが、話を聞く限り、無駄なことをするような人間には思えない。もちろん、面白そうだからという事でこの手紙を持っていたというのも考えられるが、それでもなんだか腑に落ちない。
「織田君。君はどうやら私がこの手紙を今の今まで持っていたのかについて疑問を持っているね?」
「まぁ、多少は」
「正直、そんな疑問はとてつもなくくだらないものだ。人の考えを覗こうとするのは浅ましい考えだ」
「……すまない」
「別に謝ることはない。誰だって人の考えや気持ちを覗きたくなったり、想像したくなったりするさ。ただ、まぁ教えることにしよう。なぜ、私がこれを常に持ち続けていたのかを」
スコッチをグラスに入れ「飲みたまえ」と差し出す。
「私はさっきも言った通り子供の頃にこの手紙をある人から手に入れた。くだらないものだと最初は思った。だから最初の頃は自分の机にほっぽいて置いた。だけれども、高校に進学するときに何気なく自分の部屋を掃除してたら、この手紙をまた見つけて読み返してみたんだ。もちろん内容が時間によって変化するわけはないからくだらない事には変わらなかったが、一つだけあの時とは違う感情を持ったんだ」
「違う感情?」
「うん。僕が高校生になろうとしていた当時は東京オリンピックから百年を記念していて色んな世の中が色めきだっていた。もちろん僕の周りも、先生も政治家も色めきだっていた。そのころから少しずつ日本という国はおかしくなり始めていったんだ」
「ほーん」
「そして、私も少し大人びた発想を持とうと、政治に興味を持ち始めたところだったからこの手紙を読んであることを思ったのだ」
鈴木は席から立ちこういった。
「世界を変えようと」




