第二百八十六巻目 扉を開ければ
『どうだい? 少しは私のことを信用できるようにはなっただろう?』
「いや、まったく」
『おや、それは残念だ。しかし、君にだって目的があるはずだ。たとえ私の部下に無理やりここまで連れてこられたとしてもこの町にやって来たという事はそういう事だろ?』
「まぁ……そうだが」
『なら、私を少しでも利用するほうが君にとって得策ではないだろうか? 私はこれでも団体の長をやっているものだ。だから無駄な言葉を話すつもりはない。もし君に疑問があるのであれば私はそれに答えよう。そして、君はその答えを頭にとどめ行動を決めればいいではないか』
「……まぁ、それも一計か」
『何事もやらずして避けるよりかは、やって後悔したほうがいい。避けてしまえば経験を積むことすらできないが、やってしまえば一度経験を積んだことになり、さらに後悔をすればさらに経験を積むことになる。これほどお得なことはないだろう』
「……」
『扉の鍵ならすでに開いている。というか、閉めたことは一度もない。さぁ、興味のうちに扉を開くのだ!』
なぜだか、言葉に妙に説得力があるように感じる。よくよく考えてみれば非常に薄っぺらいことはわかるのだが、はったりをかますだけあれば十二分に有効なはずだ。
たとえこれを避けたとしても、やらねばいけぬことがある。ならばこの声の主の言う通り、この扉を開けることにあけることにするか……。
そして俺は、この普通の扉の柄に手をかけまわし開けた。慎重にゆっくりと、もし相手が何か攻撃を仕掛けてきたとしても、すぐに対処できるように身を構えながら。
そして、扉を全開に開いたときに俺の目にしっかりと見えたのは、明るい部屋に両腕を広げて笑顔で俺を待ち浴びていたように立っている、声の主の姿だった。
「ようこそ、わが友よ。ようこそ、われらが希望よ」
どうやら教祖様のようだ。




