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ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
最終章-しんのせかい-
82/84

全てが正しい

少し前、“血塗りと血染めの螺旋階段”で愛星芽部が、ライノセンスを、一撃で殺害した頃。

愛星芽部は落胆していた。


「ちょっとはやる様になったと思っていたけど、見込み違いだったみたいね。まぁそれならそれで良いんだけど。“メルトロス”解除。」


“慄然する十二の咆哮”を解除すると、ライノセンスの死体は支えを失って床に俯せで倒れた。

それに怯える事なく近付く芽部。

そして彼女はライノセンスの頭に手を置いた。


「一回でネビロスを抜けます様にっと。引き剥がす。それこそ我の神格。“エクソルキズモス”。」


愛星芽部が使ったのは“異質なる(エクソル)交霊の先覚(キズモス)”。

対象の中の者、若しくは対象その者を引き剥がす術式兵装だ。

彼女はそれで神悪魔『ネビロス』を引き剥がすつもりらしい。


「………………わお!やったぁ!一発成功!」


どうやら一回で成功したらしく、年相応に喜び、年相応に無邪気に笑顔を浮かべた。

こうしてみると、最強と言われる魔術師も可愛いものである。


「ネビロスも手に入ったし、そろそろ出ようかなぁ。“カロスバベル”解除。」


彼女がその言葉を口にした瞬間世界が歪む。

壁には亀裂が走り、床は大きく捩曲げられる。

窓ガラスに罅が生えた所で暗くなり、気付けばそこはテレビ塔の上だった。


「んー。やっぱり外の空気は美味しいわぁ。人が周りにいないから尚更ぁ。ん?」


繰り返すが、そこはテレビ塔の上だ。

基本行く必要がないので行くための階段すら設置されていないテレビ塔の天辺。

そこに人がいるだけでもおかしいのだが、彼女は更におかしいものを見付けた。


「ワンちゃんじゃない。いやぁ可愛い。今はそんな格好してるのね。」


愛星芽部がニヤリと笑うと、驚いた事にその犬は笑い返した。


「じゃあ、あたしの中に戻りないなベリアル。そして望みを叶えさせてよ。“メルトロス”。」


出現させた“慄然する十二の咆哮”を犬に突き刺そうとする芽部。

犬は避ける事をせず、それを受け入れた。

犬に切っ先が刺さった瞬間、まばゆいばかりの光が発せられ、そして犬は消えた。


「オッケー。お帰りベリアル。」


それだけ言うと芽部はテレビ塔から飛び降りた。

180mからの自由落下。

普通に普通の人間が死んでもおかしくない高さだ。

普通の人間なら、だが。

芽部は特に何をするでもなく地面に激突した。

土煙が舞い、彼女の安否を隠す。


「さてと、皆までの距離は……んん?ジェイクが近付いて来てるなぁ。なははぁ、やっぱり君が一番の切れ者だったね。」


涼治も遅れて近付いて来ている。

全く馬鹿だな。

……半径500m以内にネビロス、カマエル、サブナク、キマリス、ヘルエムメレク、ヘベルメス、ラファエル、そしてベリアルが揃った。


「じゃぁやろうか―――」


「させない!」


「いったー!痛いじゃないジェイク!」


声はジェイカー・リットネスの物。

投擲されたのは“神の代理人”だった。

それは的確に、愛星芽部の心臓があるであろう位置に突き刺さった。


「……確かに心臓を貫いている筈だ。」


「貫かれてるわよ。全く酷いわね。」


「酷い?全人類を殺そうとする事よりも、ですか?」


「勿論。」


唯我独尊、彼女を超える存在はいない。

故に彼女を殺す事は全人類を殺す事より酷い行い。


「……笑わせるな芽部。お前を倒して本当に終わらせる。」


「無理じゃないかなぁ。やっと完全な愛星芽部になったんだからぁ。」


「……何だと?」


「破壊は恩恵。受け入れて消滅。“哲学巨塔(ハルマ)”。」


「っ!?」


一瞬発砲音、と言っても鉄砲の様なちゃちな物ではなく、軽機関銃の様に鈍く重い物だ。


「……やはり、勝てないか。」


ジェイカー・リットネスは、現れた戦車が放った機関銃の弾を腹に撃ち込まれた。

弾は貫通していて、腹から背からと血が流れ出ている。


「“チョイス”使ったんでしょうけど、無駄だったわね。」


「あと……少しという所で……。」


はい省略。


―――この、人類が消え去った大地の上で。

「ジェイカー・リットネスか。中々の男であった。このベリアルの下に付けてもいい程にな。“でしょ?さてと、じゃあラスボスを倒しに行こうかぁ。”」


「ラスボスだと?それは俺の事じゃないのか?“いやいやぁ。あたし達にとってのラスボスは……って来た来た。”」


「ジェイカー……さん……。」


やはりだ。

毬と同じ様に、ジェイカーさんは息絶えている。

背中に撃たれたような傷があるが、これが原因ではない。


「原因は“エクストラマックスウェイ”。あたしが唱えたあたしの願いを叶える呪文だよ。」


「て言う事は、やっぱりあんたが“自然が行う完全排他”を使ったんだな。」


「あり?思ってたより冷静だね。もっと怒ってると思ってたのに。」


冷静?

冗談じゃない。

爽、紳さんに続きジェイカーさんと毬を殺された。

それで冷静でいられる訳がないだろう。


「しかしまぁあれよねー。セナリアは良い仕事してくれたわぁ。君にサブナクを受け継いでほしいとか言って同化させるなんて。ねえ?最後に裏切られた気分はどうかなぁ?」


「……別にどうとも。今更何を言った所で何がどうなる訳でもない。事態が好転する事もない。」


「じゃぁ、終わりにする?」


「……阿呆抜かせ。間違った事をやったあんたを、最後に残った人類代表の俺が何とかしなければ、先に逝った皆に顔向け出来ない。だから、正しい事として、あんたを殺す。」


「正しい事と間違った事ね。確かに確かぁに、世界的に見ればそれは確定的ね。君が正しくてあたしは間違っている。でも考えて欲しいんだけど、世界的って言うのはつまり絶対的って意味。絶対的に考えればそれは正しい事は正しい事になるし間違った事は間違った事になる。そんなのは当たり前過ぎて誰でも分かるわぁ。でも今私達はこの世に二人、つまり個人と個人、二つしか考えはないのよ。つまり絶対的に考える事は、此処だけで言えば“絶対的”に間違った事なの。じゃあどうすればいいかぁ。簡単よね、相対的に考えればいいのよ。そうすれば正しい事は正しい事だけでなく間違った事と捉えられるし、間違った事は間違った事だけでなく正しい事と捉えられる。さて、此処で問題になるのが“全人類、私と君、ついでに大地の子以外をこの世から消したのは果たして正しい事か間違った事か”な訳だけど、どうだろう。私は正しい事だと考え、君は間違った事と考えている。そして君はこう言う訳よね。間違った事に決まっている。それが絶対的な答えだからと。でも今はその絶対的な考え方自体が意味消失している。そこで相対的な考え方が答えを示す訳ね。そして私はそれを正しいとしている。ならぁ、それはどうしようもなく正しい事なのよ。」


「いくら言っても屁理屈は屁理屈だ。理屈になれない、それこそ戯れ言にすら成れない成り損ないの成れの果てだ。大体、どうしようもなく正しい事だと考えるあんたのそれは、絶対的な考え方じゃないか。……どんな言葉を並べようと、どれだけ言葉を並べようと、何にしたって俺はあんたを許さない。」


「許さないからなんなのかなぁ更月君?別にあたしは許しを請う気なんてさらぁさらぁないけど?」


「許さないから俺はあんたを殺すんだ。人がその存在を存在たらしめるのに必要な事が何か分かるか?」


「さぁ何それ。あたしがあたしである事を証明する必要なんてないわぁ。だって、あたしはあたしだもの。」


「分からないだろうな。何たってあんたはそれを拒否しているし、何よりそれをしていた奴らを根刮ぎ根絶させたんだから。」


「ふむう?そこまで言われても分からないなぁ。正解は?」


「簡単だ。生きる事だよ愛星芽部。」


集約、結合、実現。

影に形を。

影の(スキア)王冠(ステマ)”。

切り裂こうか、腐る断絶。“多角鋭式(たかくえいしき)六頭(ろくとう)霊影刃(りょうえいじん)”。

着ようか、全てを阻む腐食の鎧。

千からなる(レックス)死因の共鳴(コロージオ)”。

右手に影を司る剣、左手に腐食を司る刀、そして腐死の鎧を身にまと……!


「そっかぁ。君は悪魔と同化してるから、他の中の者も無事なのねー。強い術式兵装ばっか……って、何で泣いてるの?」


「……いや。」


そうか。

確かに、愛星芽部を止めるなんて不可能に近かった。

例えそのままだったとして、こいつはすぐさま呼び戻してしまう。

だから彼女は―――


「彼女は、何?」


「……此処から先は俺とセナリアだけの思い出だ。踏み込ませない。」


「あらそ。まぁいいわぁ。後で殺した後に覗くからぁ。絶叫。“メルトロス”。絶対的最強防御神。“オリハルコン”。」


慄然する(メル)十二の咆哮(トロス)”に“規律に纏いし(オリ)堅牢なる装甲(ハルコン)”か。

全力を試す上でこれ程優れた術式兵装はない!


「さぁ来なさいなぁ。一撃目は鍔迫り合いといきましょう。」


「いってやる。ただし鍔ぜり合いにはならないがな!」


“多角鋭式六頭霊影刃”解放“腐食の王(サブナク)”。

両腕と両脚に“攻撃”星100。

一気に解放して芽部までの距離を詰める。


「あらぁはや―――」


「遅い!」


“腐食の王”を振り抜き“慄然する十二の咆哮”を打ち砕く。

次いで“影の王冠”を振り抜き“規律に纏いし堅牢なる装甲”を切り裂く。


「―――!」


愛星芽部は声に鳴らない悲鳴を上げて、地面に倒れた。

……ありがとうセナリア。

お前がサブナクを俺に受け継がせたのは、確かに“自然が行う完全排他”を発動させるという理由もあるんだろう。

しかしだ、芽部なら例えサブナクが帰ろうと直ぐに召喚させ同化する可能性が高い。

なら、俺に受け継がせた方がいい。

何故なら、悪魔がいるお陰で、俺と同化している名を冠す者は帰らずに済むから。

俺を助ける為に、お前は俺に……。


「理想論ね。気持ち悪過ぎて死にたくなる。」


「そうだな。確かに真実は知れない。だけど、俺はあんたと違って人間を信じられるんだ。」


「……は、なははははははは!信じるったって!もう此処には信じる奴なんていないじゃない!それとも、君は人間ならあたしみたいなのでも信じるって言うの?!」


「……。」


そんな事は決まっている。


「ああ。」


「……っ!」


「信じてやる。けどやっぱり許しはしない。死んで殺して、次の世界で仲良くしてやるよ。」


「……涼治く、……あ。」


「だから殺し合おう。最後に残った人類とし……って芽部?」


芽部は宙を仰いだ状態で停止している。

……これじゃ俺が一人で話してて恥ずかしいじゃないか!

[冗談はその辺にしておけ。ようやくラスボスの登場だ。]


「く、くくく。あっははははははは!その通りだ悪魔ぁ。このベリアルの登場、この世界のフィナーレが登場するんだよ!」


……覚悟はしてきた。

だから俺は死なない……いや負けない。


「ああ、フィナーレだな。あんたを殺して俺が勝つ。」

残り2話です

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