自然が行う完全排他
「やっほー涼治くーん。生きてるねー。」
間抜けな声と共に毬が現れた。
「ああ。あんたも生きていたとはな。」
「勿論私も生きてます。」
「頼子ちゃん。」
可愛い女の子も現れた。
心配はしていなかったが、それでもほっとした。
「良かった。無事だったんだな。」
「もちのろんだよ。私がそんな簡単に死ぬ訳ないでしょ。私を殺す気がない相手なら尚更ね。」
「殺す気がない……?それってどういう意味なんだ?」
「そのままだよー涼治君。私は頼ちーを殺す気はないし、頼ちーも私を殺す気はないのー。」
「そうだけど頼ちーは止めてよ毬ちゃん。」
「……はあ?」
話が全く読めてこない。
[どうやら頼子と大城毬は仲が良い様だな。]
それは分かったが、と。
ベリネにコールだ。
相手はジェイカーさん。
……そういえば爽の奴は!
<ジェイカーさん!>
<おっと。いきなり大きな声は止めて下さい更月君。>
<すみません。あの、ジェイカーさんは今何処に?>
「んー?黙っちゃってどーしちゃったの涼治君?」
空気の読めない毬にジェスチャーで黙れと伝えてジェイカーの返事を待つ。
<君や中代さんと同じく愛の国にいるよ。>
<それは良かった。なら早く合流して―――>
<すまない。>
<……え?>
<爽と紳は先に逝ってしまった。私の力不足です。>
……爽がネフィリムの所に送られたと聞いた時点で覚悟はしていた。
はっきり言って、爽ではネフィリムには勝てない。
それに紳さんも。
相性の問題が大きい。
爽は刀と鎌の術式兵装しか持っていなかった。
紳さんは銃と召喚の術式兵装しか持っていなかった。
シェミハザの持つ“煉獄に咲く晩年華”と“天より堕ちた集合体”を相手取るのは不可能に近かった筈だ。
……クソ。
一日で仲間を、友達を3人も失うなんて。
<ネフィリムは私が倒しました。後は毬とライノセンスですが……。>
<毬についてはどうやら解決した、というより最初から問題ではなかった様です。>
<……?よく分かりませんがそれならいいでしょう。ではライノセンスですね。早く探して……何ですって?>
<ジェイカーさん?>
いきなりジェイカーさんは話を切った。
[……どういう事だ。]
何がだ?
[我々神クラスの悪魔や天使は、魔術師の中にどれ程の名を冠す者がいるかを感じる事が出来る。それは距離があっても出来る訳なのだが……。]
なのだが?
[いや、ジェイカー・リットネスの言葉を待とう。奴もメタトロンから聞いた様だ。]
<すみません。メタトロンが話し掛けてきたので。>
<それはいいんですけど、何なんですか?>
<芽部の中にネビロスが移った様です。>
<それって、つまり芽部はもうライノセンスを……。>
殺した、のか?
いや、そうは限らないか。
確か芽部は相手の中の者を引き剥がす術式兵装を持っていた筈だ。
それを使えば……ってあれ?
<サリエルはどうしたんですか?>
<帰った様です。つまり芽部はライノセンスを既に殺したと、そういう事でしょう。>
<ですよね。>
という事は全ては解決したのか。
“ExtraMaxWay”は発動されない。
何だか呆気ないが、終わった……のか?
[ふむ。貴様も腑に落ちない様だな。]
ああ……。
ネビロスを引き剥がしたのは強力な悪魔だから。
自分で持っておきたかったから引き剥がした。
なら何故サリエルは帰してしまったんだ?
“最たる元始の欲たる瞳”も“月の支配”も“栄光の手”も、どれを取っても強力な術式兵装だ。
何故それを手に入れなかった?
ネビロスは悪魔で、サリエルは天使だから?
……違う。
思い出せ。
ネビロスとサリエルには悪魔と天使という決定的な違いの他に、些細な違いがあった筈だ。
……まさか!
<ジェイカーさん!ネビロスは―――>
<……。>
切れた……!
「クソ!」
「ありー涼治君何処行くのー!」
「更月さん!?」
走り出した俺に続いて毬と頼子ちゃんも走る。
「変な奴だと思っていたが……!」
「何の話なの?」
見た目によらず走るのが結構早い頼子ちゃんが俺に問う。
「話は後だ!とにかく急いで芽部を―――」
「待ったー!」
「ぐお!?何するんだ毬!」
脚がいきなり止まる。
いや体全体がぴたりと、まるで一時停止でもされたかの様に止まった。
「何で今“脳電”が出て来るんだ!」
「……嵌められたねー。」
「何……っ!?ぐ……!なんだこれ……!?」
体を浮遊感が包む。
まるで無重力帯にでも来たかのような感覚だ。
いや、無重力帯なんて行った事ないけどね。
[そんな馬鹿な事を言っている状況ではない。]
そりゃそうだ。
「何が起きた?」
「違うよ更月さん。今から起こるんだよ。私達は大きなミスをしていたんだね。」
「ミス……?いやそれより起こるって……!」
「……そう。自然が行う完全排他、ExtraMaxWayの発動だよ。」
「ぐ……。」
体から力が抜けていく。
立っていられず私は地面へと倒れた。
「あと……少しという所で……!」
なんとか顔を上げ、そして私を見下ろす人を睨みつける。
「んふふ。やっぱり侮れない相手だったぁ。」
「芽部……!今すぐ、発動を止めろ。」
「嫌ですー。……自然を愛したい。不自然を憎みたい。それが我が望み。“自然が行う完全排他”。」
「―――」
……すまない。
ベルサーチ、紳、爽君、更月君。
私は―――
「……くくく。そして人は去った。この俺ベリアルの勝ちだ。あっははははははははは!」
ジェイカー・リットネスは死に、愛星芽部は笑う。
この、人類が消え去った大地の上で。




