劣等感
「詰まらなくなかったわよ。展開は読めていたからぁ。“カロスバベル”の縛りを受けていた筈なのに、最初から負ける気だったなんて。やっぱり侮れないわぁ。」
「ジェイカー・リットネスか。確かに殺意とかは全く感じなかった。」
「彼も主人公になったとして何もおかしくないレベルよ。更月涼治がいなきゃ彼が主人公だったかもね。」
“血塗りと血染めの螺旋階段”の最上階。
5、6階同様此処もまるで新築の様な綺麗さだ。
それは誰も此処まで上がった事がない事を意味している。
「そゆこと。ようこそあたしの始めての人。」
「誤解を生みそうな発言は止してくれ。俺には今楽しく喋る余裕なんてない。今すぐにでも君に切り掛かってその可愛い顔をずたずたにしてやりたい気分なんだ。」
「だったら早くそうしなさいなぁ。次が詰まってるからあたしも急ぎた―――」
「ならその通りにしてやる。」
話し終えるのを待たず、芽部まで一気に距離を詰める。
そして躊躇いなく芽部の首を切り裂く。
当然血が噴き出し、真っ白い床が赤く染められた。
「だからって話してる途中に切り掛かってほしくないわね。」
「っ!」
発せられた声に思わず飛びのく。
……いくらなんでも有り得ない。
“修復”を使ったにしても早過ぎる。
「……喉を斬った筈なんだが。」
周りを見渡してみる。
床は確かに赤い。
「安心なさいなぁ。あたしは首を斬られたし、血もちゃんと出た。でも塞がったぁ。ただそれだけよ。」
「安心なんて出来る訳ないだろ。」
どういう事だ……?
頭を潰されても生きていた事に関係があるのか。
……それだ。
「いくら“修復”が体を完全に直す呪文だとしても、死んでたんじゃ意味がない。だが理事長室で君と戦った時、俺は君を確かに殺した。そう、死んだんだよ愛星芽部は。」
「そうね。あの時は死んだぁ。」
「そして“今回も”死んだ。」
「正解正解。中々いい観察眼ね。」
「どうも。」
死んだ。
なのに生きている。
愛星芽部はワレラじゃない。
「つまり君は傷を治してもいなければ直してもいない。ただ単純に復活しただけなんだ。」
「御名答。あたしのロストルケミスは、そういう術式兵装を持っているの。」
……有り得ない。
いや、有り得てはいけない。
神の僕である天使、だけでなく悪魔。
彼等が人間に不死を与えるなど有り得ない。
何故なら彼等は生と死を深く重んじるからだ。
だから彼等は俺達魔術師に武器と防具を与える。
殺す為に、生かす為に。
生と死を身近に感じさせ、その尊さを俺達に教えるんだ。
「そんな奴らが、絶対に死なない、例え死んだとして復活させられる様な術式兵装を持つ訳がない。ラファエルの“洗練すべき加工の修復”が精々の筈だ。」
「ロストルケミスはそもそもの悪魔じゃないから持ってるのよ。それだけは教えてあげる。」
「何?どういう意味なんっ?!ぐ……!」
腹に重い一撃。
「これは……ドルイトスの裂掌底……!」
「そう。彼は使わなかったけどね。」
裂掌底は対象の内部、つまり内臓を傷付ける技だ。
俺の内臓、詳細に言えば胃は破裂している筈だ。
「内臓破裂したのに随分冷静に解説するわね。感心感心。」
「冷静な、もんか。これじゃ美味い物を……食べられない。」
「大丈夫。死ねば元に戻るから。」
「死んで、たまるか!」
「おっと。」
“最上たる所以の鎌”を召喚して切り付けたが、軽く避けられた。
「君は……く。一度この鎌で斬られている。つまりだ、あと九回斬れば……ロストルケミスなんて言う有り得ない悪魔を消す事が出来る。」
「………………ぷ。なはははははははぁ!そう思ってるなら可哀相ねー!にゃははははは!」
「なん……何だ。何がおかしい。」
「ロストルケミスはね、あたしの悪魔なのよ?ハルパーは既存の雑魚にしか効かない。そうでしょ?」
「……?」
意味が分からない。
「でしょうね。知らなくていい事よ。じゃあ最後に得る物を教えたげる。」
「うわ!がふ!?」
足払いからの腹部への回し蹴り。
ドルイトス並みの体術だ……!
「まぁって言っても最後は殺すじゃなくて殺される側だけどね。」
「ぐ……あ……。」
背中から嫌な感覚が腹に抜ける。
「メル……トロスだと。」
「そ。壁に設置しておいたの。」
「驚く、べきは……君のキック力だな。宙に浮いた男一人を、一撃で5mも離れた壁まで飛ばす……なん……て……。」
「伊達に最強の魔術師じゃないのよ。……もう聞こえてないかぁ。じゃあ教えたげる。最後に得る物、それは負けて殺されてで得る劣等感。よっわいラスボスだった事。」




