表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
第八章-愛の国-
63/84

世界的避難勧告

<ああ。では予定通り始めてくれ。作戦終了後5分程で出宮真が迎えに行く手筈になっている。……いや大した事じゃない。俺と芽部、生き残った方と戦うってだけさ。芽部にとっては鬱陶しい取引きだろうが、俺には一等良い物だ。じゃあまた後で。ああ楽しもう。人類が消えるまでな。>


ライノセンスは口元に笑みを浮かべる。

C.D.Cの動き方のせいで少しばかり計画は早まったが、まあ問題ないだろう。

世界が終わり始めるまであと4時間。

非常に楽しみだ。


「ユーラシア大陸をネフィリム。アフリカをセナリア。TASCを毬。掛かる時間はおよそ3時間程といった所だな。いやあ楽しみ楽しみ。」


そしてライノセンスは街に出る。

「……不味いです。」


「ふああ……ん?」


時刻は朝8時54分。

場所はC.D.C本部。

いつもの面々にプラスで頼子ちゃん。

どうしてこんな朝早くからいるかと言えば、まあ非常事態だからだ。

いつライノセンスが動くか分からないので、という訳だ。

そんな訳だから俺は欠伸をしている。

頼子ちゃんは何やら深刻そうな顔で不味いとか言ったな。


「何が不味いんだ?この林檎結構美味いと思うんだけど。」


「林檎は美味しいよ。私が言ったのはそれじゃなくて、ライノセンス勢の事だよ。」


「何か動きがあったのですか?」


室内に緊張が走る。

そしてジェイカーさんは頼子ちゃんに尋ねる。


「今世界を『検索』したんだけど、大陸毎に一人ずつ配置されてる。TASCに大城毬、アフリカにセナリア・ベイグラント、ユーラシアにネフィリムだって。」


一人ずつ配置……。

何をする気だ。

[さあな。頼子の言う通り美味しい事ではなさそうだ。]

昨日頼子ちゃんが検索した時は全員HAJACKにいた。

それが今は各大陸にいるとはどういう事だ。


「何かをするのは確かですね。問題はその何かだが、分かりますか中代さん。」


「ううん分かんない。」


「ですよね。」


「私達も行きますかジェイク。」


聖書を読んでいた紳さんがそこで顔を上げて話に入ってきた。


「悪くない案ではありま―――」


そこでジェイカーさんの言葉が途切れた。

壁にかけてある、電源の切れたFtvが映像を表示したからだ。

映像の中には無表情な女性アナウンサー。


『臨時ニュースのため全世界のFtv並びに映像機器に転送しています。現在時刻午前九時一分四十四秒、HAJACKを除く四つの大陸で広範囲に渡る破壊行動が行われています。ユーラシア大陸では魔術師が召喚したと思われる巨人が、アフリカ大陸では触れると体が壊死を起こす靄の様な物が発生、TASCでは一般人とイヴと魔術師が武装蜂起して建物を破壊しています。これを受け世界安全協定委員会会長は、全世界の一般人に世界的避難勧告を発令しました。速やかに各国地下シェルターに避難して下さい。魔術師、イヴ、並びにワレラにつきましては事態の収集に当たられたし。繰り返します。魔術師、イヴ、並びにワレラは事態の収集に当たられたし。』


そこまで言った所で映像は途切れ、Ftvは沈黙した。


「成る程。こういう事でしたか。」


苦笑いを浮かべるジェイカー。


「神にでもなったつもりですかね彼等は。此処まで来ると人災ではなく天災の域です。決して人間が行っていい物ではありません。」


赦すまじといった具合で怒りを示す紳。


「中々面白い事をやってくれるな。」


ニヤニヤ笑う爽。


「TASCと言えば国際協議会館。アフリカと言えば強族鎮圧対策委員会館。ユーラシアと言えばセブンリッジラビリンス……。これらを造るのに幾ら掛かったか計算しなくては。」


出資者でも無いのに掛かった費用の心配をする金石。


「……ユーラシアで暴れているのはネフィリムの術式兵装“天より堕ちた集合体(ネフィリム)”。TASCの武装蜂起は毬が操っているんだ。アフリカの靄は、セナリアの仕業なんだろうけどどうやっているかは分からない。纏めると、非常に不味い事態だって事だ。」


冷静に分析する俺。


「あ。今セブンリッジラビリンスが一部破壊されました。」


実況をする頼子ちゃん。

皆、感情を顕わにしている人もいるが、落ち着いている様に見える。

しかし違うだろう。

動揺が心を満たしている筈だ。

有り得ないだろ、と。

ネフィリムは言っていた。

単純な破壊は好きではないと。

殲滅などはルーチンワークになるから嫌いだと。

……あいつに矜持って物は無いのか。

[いやそうでもない。神杉紳も言っていたが、此処までいくと最早これは天災の域だ。それに、奴は人を殺さない様にしている。]

何で分かる。

[頼子が実況しているからだ。]

あ、そういえば。


「ユーラシア大陸の内訳ですが、負傷者三億二千五百四十四万十四人。内軽傷者三億二千四百三十四万十四人。重傷者百十万人。でも早急に治療が必要な方はいません。」


[という訳だ。加減をしっかり弁えている。]

……みたいだな。


「次にTASCなんだけど、操られた側とそれ以外のイヴ、魔術師、ワレラ連合軍の衝突で、死傷者一億八千七百九十七万六千五百三人。内軽傷者一億三千万。重傷者五千七百万。重篤者九十七万。死者六千五百三人。」


「死者まで出たなんて……。」


いや、普通に考えればそれが当然だ。

大規模な、言わばクーデターの様な物が起きれば死人だってでる。

人外である魔術師、イヴ、ワレラまでいるのだから尚更。

毬は操った奴に戦えとしか命令していないのだろう。

それは死人が出て当然。

[貴様は相変わらず甘いな。そんな物は言い訳にもならない。これは大城毬のせいで起きた事だ。]

……確かに甘いな。

どうして毬についてはこんなにも甘いのか。

俺にもよく分からない。


「アフリカは……。殆ど“絶滅”です。」


「……は?」


絶滅?

絶滅って、恐竜は絶滅したとかに使うあの絶滅か?

[さっきから言えているではないか。]

いや、まあそうなんだけど。


「絶滅とは、恐竜は絶滅したという絶滅ですか?」


ジェイカーさんが俺と寸分違わぬ例を挙げて頼子ちゃんに聞く。

そして彼女は頷く。


「……ジェイク。」


「ええ分かっています。分かっていなくても、どの道魔術師も召集されているのですから行かなければならない。いや、それを抜きにしてもこの暴挙を許す事など出来ない。……私達は正義の味方ではありません。当然悪でもない。魔術師です。魔術の行使者であり、一般人とは格が違う。故に魔術師は須く魔術を管理しなければならない。ですから彼等を、殺してでも止める。」


「分かっています。では早速反重力浮遊式高速車の手配を―――」


「んー、その必要はないかなぁ。」


「は?」「おや。」「おやおや。」「ち。」「シャリシャリ。」「芽部ちゃん。」


誰もいなかった空間から突如として発せられた声に、俺達は六者六様の声を上げた。

声の主は最後に頼子ちゃんが呼んだ通りに愛星芽部だ。


「あんた今まで何処に行っていたんだ。」


「まぁちょっとね。」


「それで、必要ないのは何故ですか芽部。」


「頼ちゃんは分かってるよね?」


「うん。出宮真が動いて全員を回収。HAJACKに集まってきてる。」


「そうなのか。」


それは都合が良い。

罪の清算を直ぐにでもしてもらう。

[ふ。気合いが入っているな。私も楽しみだ。果たして貴様等がどんな終わりを迎えるかがな。]

ハッピーエンドだよ。

必ずそれを迎えてやる。


「成る程。確かに必要ありませんね。なら、こちらも動きます。涼治君と頼子さんは毬をお願いします。紳と爽君はセナリアさんを。私はネフィリムを叩きます。芽部は、当然ライノセンスですね?」


「ええ勿論よ。」


と、心底可笑しそうに笑いながら芽部は言う。

……何か嫌な予感がする笑い方だ。


「よろしい。では行動に移す前に、円陣でも組もうか?」


「何を悠長な事を、と言いたい所ですが、良い案だと思います。」


「俺も紳に賛成。」


「シャリシャリ。俺も賛成。ま、何もやらずに待つだけだけどな。」


「私も賛成だよ。」


「じゃあ俺も。」


椅子から立ち上がり、ジェイカーさんを筆頭に皆が円になり手を重ねていく。


「……芽部はどうしますか?」


「私はパス。写真撮っといてあげるよ。」


一体何処から持ってきたのか、今は生産が中止された“一眼レフ”というカメラをこちらに向けてきた。


「では、何か一言ずつくらい言っておきますか。怨みは特に無いですが、ネフィリムを殺し、必ずExtraMaxWayの発動を食い止めます。」


「天災を神だけの所有物に戻すために戦います。」


「世界を次に繋げる。ただそれだけだ。」


「金は天下の回り者。」


「大地を守る。人間を守る。それが大地の原点使いの役目だよ。」


「……絶対に死なない。皆だ。」


俺が締めた所で重ねられた手は一度下に下がり、そして上げられた。

そして、気付くと俺の目の前にはセナリアと毬がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ