再三誤算
さて、良く分からない貴方のために説明しよう。
俺はC.D.Cの部屋にいたのに何時の間にかセナリアと毬の前にいた。
……何を言っているかさっぱり分からないな。
俺も何が起きたのか分からない。
「まー説明してあげるとねー、出宮が“SpaceFlight”を使って空間ごと君達を此処に移したんだよ~。凄いねー♪」
「凄いが納得いかない。」
セナリアと毬がツーマンセルという事は、ネフィリムとスマタカシもそれのはずだ。
いや、奴らがツーマンセルなのは大体予想出来たか。
大体、スマタカシは戦力として数えていない。
さっきの会話にもスマタカシは出てこなかったしな。
納得いかないのは、先にも述べたがセナリアと毬がツーマンセルという事だ。
これは凄まじく誤算で、面倒な事になった。
いやいや、考慮に入れてなかった訳ではないが、それにしたってだ、毬が誰かと共同戦線なんて。
……な?
まるで想像付かない。
「久しぶりって程でもないわね涼治。あの熱いベーゼ以来ね。」
「熱いとかベーゼとか言わないでくれ恥ずかしい。」
しかし此処は一体何処だ?
今更だが周りの状況について説明しておこう。
端的に言えば森だ。
細かく言えば木が大量。
ま、やっぱり森なんだな。
HAJACKにこんな所があったか。
[再二誤算と言った所だな。全く、筋書通りなのかもしれんが気に食わん。]
え?
「此処は愛知県。来たくなかった愛の国だよ。更月さん。」
「マジですか頼子さん。」
「マジよ。愛の国なんて素晴らしいネーミングの所に来たくないなんて、満ち足りているのね涼治。」
「……ま、少なくとも全人類を殺そうとする奴よりは満ち足りているだろうな。」
「あはは。言うわね。」
……。
[どうした?]
……爆発していいですか。
[成る程そういう訳か。激しくならない様気を付けろ。言っても無駄かもしれないがな。]
ああ、無駄だな。
「答えろセナリア。人類を滅亡させて一体何になる。」
「何に、ね。そうね、何になるのかしら。」
「俺は冗談を言っているんじゃない……!」
「何になるかは分からないけど、人類が滅亡したとして、困るのもまた人類しかいないのよ。ああでも、動物にとって種の保存こそが最も優先すべき事だから、神様には怒られちゃうかもしれないわね。」
冗談めかして言いながらセナリアはころころと笑う。
「だから!冗談で言っているんじゃない!なんで人類をぶっ殺そうなんて考える!それがどれだけ大変な事か、分かって言っているのか!?」
「……。」
今度は呆れた様に手を広げた。
呆れたいのはこっちだ。
「この世は美しい。彼はそう言ったの。そして何故美しいか、それは自然が広がっているから。自然こそ真に愛する対象で、それ以外なんて取るに足らない瑣事だわ。」
「それと人間を殺すのに何の関係があるんだ。」
「……分からない?私は自然が美しいと言ったの。大体、この理由はネフィリム辺りに聞いたんじゃない?」
確かに聞いた。
だが納得などしていない。
「納得出来ないのね。分かったわ。ならお話ししましょう。」
何処から取り出したのか、机と椅子が生じ、彼女はそこについた。
「さ、毬とそこの原点使いちゃんも来なさいな。紅茶でも飲みながらゆっくり話し合いましょう。」
「……了解した。」
ただし、やるのは話し合いじゃなくて説得だ。
席につくと、これまた何処からか紅茶が生じた。
湯気と、香しい茶葉の香りが広がる。
「アッサムよ。ミルクとお砂糖はお好みでどうぞ。」
「……。」
「毒なんて入ってないから安心なさい。愛星芽部や原点使いちゃんならまだしも、貴方にそんな物出したらころっと逝っちゃうでしょ。」
……頼子ちゃん?
「セナリアさんの言う通り安心していいよ。毒は入ってない。」
と、自分の目の前の紅茶にミルクと砂糖少々を入れて飲んだ頼子ちゃんは言う。
「なんなら私のと更月さんの交換する?ミルクとお砂糖は入れちゃったけど。」
「それはどんな御褒美だ。」
「え?」
「いや何でもないです。」
安心らしいので俺もミルクと砂糖を入れて飲んでみる。
変な苦みは無い。
舌をピリピリさせる刺激も無い。
喉が焼ける様な感覚も無い。
毒だからと言って苦いとか刺激があるとは限らないけど。
大体俺は毒を含んだ事などないのだから当然味とか知らないし。
「んー。セナリアの紅茶は何時飲んでも美味しいね~。」
「ありがとう毬。じゃあ話しましょうか涼治。」
「ああ。と、その前に聞きたい。ジェイカーさん達はどうしたんだ。」
「ジェイカーさんは紳さんと一緒にHAJACKね。」
つまり愛の国に送られたのは俺と頼子ちゃん……。
「おいちょっと待て。爽はどうした。」
「爽はネフィリムと孝ね。」
「な……。」
「はいストップ。」
「ぐ!?」
セナリアの言葉を聞き立ち上がった俺は、中腰の格好で止まった。
いや“止められた”。
「此処で貴方達と話すのは意味があるからよ。他の面々と離す意味がね。」
「くそ!離せよ!」
「あははー。私達は触ってないよ~♪」
[“盗みし九十九代の録音”がまだ残っているか……。些か面倒だ。]
盗みし……なんだって?
[記憶の操作もか。些か所ではないな。]
「とにかく座りなさい。どうせジェイカーさんと紳さんもその内愛の国に来るわよ。それまで爽が生きている事を祈るのね。」
「く……!」
そうだ、ベリネ。
これで何とか連絡を……。
[当然使用出来ないだろうな。そもがそもそも此処は立入禁止区域だ。BetweenLINEは引かれていないだろう。]
くそ……再三誤算だ。
[仕方ない。此処は大人しく奴らとの話に興じろ。]
……分かった。
「ようやく座る気になったわね。それで、何を話すんだっけ?」
「お前が人類を滅亡させる理由についてだ。ベイグラント家がその昔から“ライノセンス”と呼ばれる奴と関わりがあるのは知っている。なら、お前のそれはただの、なんだ、恒例行事なんじゃないか?お前に人を滅亡させたいなんて願望は無く、さっきの言葉も子供の頃に言われて頭の中に残った先入観じゃないのか。」
「確かに先入観が全く無いと言えば嘘になるわね。子供の頃から父は言っていたわ。何時か来たるべき時が来るってね。でも先入観が100%かと言えばそうじゃない。私は何時だって私の意思で動いているし、それを阻害されたら何であろうと腐らせる。分かったかしら、私は私の“意思”で動いている。自然は美しい。ならば不自然な人間は美しくない。誰だって醜く不出来な物より美しく素晴らしい物の方が好きでしょう?」
「醜いからって必ずしも不出来という訳じゃない。人間だってそうだ。確かに俺も人間は不自然だと思う。環境破壊をする、同族を詰まらない理由で殺す、剰えその行為を許可する。不自然だし、醜い種族である事は否定出来ないししない。だが、その人間達だって初めからこうだった訳じゃないだろ?あの夢の頃の人間の営みは、自然との共存が無ければ確立しなかった。人はその昔は自然だった。なら、その血筋を引く俺達は100%不自然という訳じゃない。」
「泥にワインを一滴混ぜても泥のままだが、ワインに一滴泥を混ぜればそれは泥になる。という言葉を知っている?混ざればその時点で飲めた物じゃない。この場合ワインは“自然”だけれど、泥は“不自然”じゃないわ。それに一滴でもない。分かるかしら?」
「……泥は人が進化の過程で得た知識、だな。」
「御名答ね。頭が冴えている人って好きよ。」
え。
[話に集中しろ。余計な茶々を入れると尺が。]
尺とか言わないでくれ……。
「働くより奪った方が楽。奪うならいっそ殺してしまった方が楽。騙せば儲かる。偽れば儲かる。脅せば儲かる。この場合の泥はこう言った凡そ人の道徳から掛け離れた知識。こんな物が混じったら、本当にもうどうしようもないわ。樽を壊してワインを流さなくちゃいけないレベルでね。」
「人が得たのはそんな知識ばかりじゃないだろ。もっとこう、自然を保護する技術だとか―――」
「まず以てそこからおかしいのよ。自然が何時保護を求めたのかしら。人が木を切り倒し、焼き払い、有毒ガスを発生させ、工業廃水を垂れ流す。こういった事をした結果から得たのがそれらの技術なのではないかしら?本末転倒も良い所ね。そうは思わない涼治?」
「ぐ……!」
[口が達者なお嬢様だな全く。説き伏せるのは難しそうだ。]
いやまだだ!
「……。」
まだだとは言ってみせたが、ダメだ。
何も思いつかない。
[となれば、武力行使しかあるまい。不自然な人間を支持する側なのだ、貴様から仕掛けるのが礼儀だろう。]
顔は見えないけどさ、あんた今笑っているだろ。
[さあな。]
ま、いいけど。
「私は何時でもいいよ更月さん。」
「分かった。」
「あら。話はもうお終いなの?」
「ああ。俺じゃお前を説得出来ない。降参だ降参。口喧嘩一本勝負はセナリアの勝ち。次は―――」
集約。結合。実現。影に形を。
「戦争だ。」
“影の王冠”。




