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3-3(プロローグ3).

「ここは・・・?」


 ユイが目を覚ますと、見慣れない天井が見えた。

 どうやら、ベッドに寝かされているみたいだ。

 

 ここはどこだろう?

 訓練の時間は大丈夫かな?

 

「ここは、俺の屋敷だ。お前は、テルツとラワドの間の草原でオークの群れと戦っていて・・・その後、倒れたんだ。覚えてないのか?」


 ユイは上体を起こして、そう話かけてきた男を見た。

 20代後半くらいの茶色い髪の男だ。


 この人の屋敷? 


 ユイは男を観察する。なんとなく品がある。王宮ほどではないが部屋の調度品も贅沢な感じだ。そんなことを考えていると、ユイの記憶がだんだんはっきりしてきた。


 そうだ!


 クレアさんに襲われて、ハルが私を庇って魔法陣を起動させて、私・・・思わずハルのところに、魔法陣に飛び込んで・・・。


 それで・・・気がついたら森の中で・・・必死で魔物を倒してたら、森の外に出て・・・。

 何日もその辺りをさまよって、ハルを探した。探し続けた。

 方向感覚も無くなって、ずいぶん歩いたような気がする。


 でも見つからなくて・・・。


 ユイの大きく澄んだ瞳からポロポロと大粒の涙が零れた。

 男はしばらく、泣いているユイをじっと見ていたが、「そろそろ名前くらい教えてくれてもいいんじゃないか?」と聞いてきた。


「ユイといいます。助けて下さって・・・ありがとうございます」

「ユイか。いい名前だな。俺は、オスカー・シュタイアーだ。さっきも言ったが、ここはテルツにある俺の屋敷だ。まあ正確には親父の屋敷だがな」


 さっきも屋敷って言ってた。オスカーは貴族なんだろうか?

 いきなりユイのことを呼び捨てにしているが、自然で嫌味な感じはない。


 「とりあえず、食事を持ってこさせる」


 オスカーはそう言って部屋を出た。

 そういえば・・・ユイはやっと自分がものすごく空腹であることに気がついた。


 しばらくすると、メイドらしき女の人が、部屋までスープやパンなどの簡単な食事を運んできた。

 ユイは食事を取ると、少し落ち着いてくるのを感じた。

 その後、メイドの女の人に言われるまま風呂に入れられ、丁寧に着替えまでさせられた。


 オスカーの指示なのだろう。

 

 オスカーは再び部屋に入ってくると、ユイをベッドに座らせ、自分はベッドの脇に椅子を持ってきて座った。


「だいぶ元気になってきたみたいだな」


 そう言いながら、オスカーは、しばらくユイを見ていたが満足そうに頷いた。


「もう少し事情を聞かせてもらいたい。ルヴェリウス王国とか言っていたが、ユイはルヴェリウス王国の出身なのか? だとするとそんな遠くからどうやって、なんのため、ギネリアまで来た?」


 ユイは、どこまで本当のことを答えていいのか迷った。

 オスカーは、貴族みたいだ。

 可能であれば、ハルを探す協力を頼みたい。

 でも、ルヴェリウス王国は異世界人の存在を秘密にしていた。

 クラスメイトに迷惑はかけられない。

 異世界召喚やルヴェリウス王国のことについては秘密にしておくべきだろう。


「ルヴェリウス王国の出身ではありません」


 これは、本当のことだ。


「それ以上の詳しいことは事情があって言えません」

「そうか、誰か人を探しているようだったが?」

「はい。助けて頂いたのに、事情をあまり説明できなくてすみません。ただ、あの場所で人を探していたのはその通りです」

「だれを探していたのかな? たしかユイと同じ年くらいの男の子と言っていたが・・・」

「私の・・・婚約者です」


 これも嘘ではない・・・はずだ。ハルはユイのそばにずっといると言ってくれた。


 ユイの答えに、オスカーはちょっと驚いたような顔したが、「この美しさだ。そういうこともあるか」と呟くと、「ユイはずいぶん若いようだが、その年で婚約者と言うと、貴族なのか? ユイが持っている杖もずいぶん高価なものに見えるが?」と尋ねて、はベッドの横に立て掛けられている杖を見た。


 この杖は、ユイが光の聖杖をマツリに譲った代わりにルヴェリス王国から貸し与えられたものだ。ユイも賢者と言うことで、コウキの光の聖剣やマツリの光の聖杖に次ぐ高価なものが貸し与えられた。杖の上部に嵌められている宝石のようなものは魔石だ。ユイが貸し与えられた杖についている魔石は、迷宮産で純度も高く大きさも申し分のない高級品である。杖がなくとも魔法は使えるが、杖には魔法の発動速度や威力を上げる効果がある。


「私は、貴族ではありません。その杖は、さるお方から、貸してもらっています」

「ふむ、いろいろと秘密が多いようだな」

 

 オスカーは、これまでのユイの話からユイの事情とやらを色々と想像する。


 ユイは、貴族ではないと言うが、あの杖はかなりの高級品だ。 

 やはりユイは貴族だろう。

 それもおそらくルヴェリウス王国の・・・。

 何らかの事情でルヴェリウス王国を婚約者とともに追放されたか、逃げてきたか、そんなとこではないか。

 いや、ここがギネリアとさえ知らなかったから、護送でもされて来たのかも知れない。

 ルヴェリウス王国に居られない事情があり、ルヴェリウス王国から遠いギネリアまで運ばれて来た。


 オスカーの想像はさらに先に進む。


 普通なら都合の悪い者は殺せばいい話だ。

 殺されもせず、こんな遠くまで追放されたと言うことは、もしかすると王家の関係者なのか・・・?

 それならこの美しさも納得できるし、この若さで婚約者がいるというのも分かる。

 そこで婚約者と二人、逃げ出したはいいが、はぐれてしまった・・・そんなところか。

 ユイを見つけた辺りは、イデラ大樹海に近い。

 婚約者の男は可哀想だが死んでいるかもしれない。

 

「それで、ユイ、これからどうするんだ?」

「はい。婚約者を探したいです。とても大切な人なんです。ハルという名前で、私と同じくらいの年で黒髪です。なにか知っていることはないでしょうか?」

「その名前に聞き覚えはないな。ハルとやらは何をやっているんだ? 貴族なのか?」


 ユイは考える。もしハルが、この辺りで一人で生きていくとしたらどうするだろうか? 冒険者になるしかないのではないか。冒険者としての活動なら訓練の一環として行っていたし冒険者証も持っている。


「冒険者になっているかもしれません」

「そうか。テルツは冒険者の街だ。イデラ大樹海に近いからな。だが俺はハルという名前は聞いたことがない。最近来た冒険者とかなら、俺が知らない可能性もあるが」

「そうですか。とりあえず、私はハルを探しながらここで冒険者をします。私ができるのはそれしかありません」


 ユイがこの世界に来てやってきたことは訓練だけだ。生きていくためにできることは冒険者くらいしかない。幸いテルツは冒険者の街だという。冒険者をしながらハルを探す。ユイが冒険者として名を上げればハルがきっと見つけてくれる。ハルは頭がいい。ユイがむやみに移動してハルを探すより、ハルのほうから見つけてもらうのがいいだろう。うん、冒険者として有名になってハルに見つけてもらう。


 それが正解だ!


 そう考えたユイは、やるべきことが決まって少し元気が出た。


「冒険者か。オークを倒すのを見ていたが、かなりの腕の魔術師に見えたが、ユイは冒険者なのか?」


 オスカーは、ユイの美しさにすっかり忘れていたが、ユイはオークの群れを一人で討伐していた。 ユイは、やはり貴族ではないのだろうか? いや、自分だって貴族の三男坊だが冒険者をやっている。


「はい。一応C級の冒険者です」

「なるほど。その若さでC級とはたいしたもんだ」


 C級といえばベテランの冒険者だ。ユイの魔術は、なかなかのものに見えた。いやなかなかどころではない。むしろあれはC級どころかA級と言われても納得しただろう。ユイの魔法の腕とルヴェリウス王国を追放されたことに何か関係があるのだろうか?

 オスカーは、なかなか考えが纏まらないことに落ち着かない気分になったが、とりあえずこの美しい少女を手元に置いておきたいと思った。


「ユイの希望は分かった。実は俺も冒険者をやっている。ユイと同じでC級だ。一応シュタイアー家はそれなりに知られた貴族だが、俺は三男坊で、兄貴二人は至って健康で二人とも妻子もいる。というわけで、まだ独り身で自由な身分の俺は冒険者をやっている。家のものは厄介者の三男坊だと思っているだろうが、気にしてない」


 オスカーは、そう言って笑うと「そこで提案がある」と続けた。


「俺は、俺のパーティーに腕のいい魔術師がほしいと思っていた。どうだユイ、俺のパーティーに入らないか? その上で、お前の婚約者の行方も探せばいいだろう?」


 ユイは、オスカーの提案について考えてみる。

 ハルを見つけるというより、ハルに私を見つけてもらう。そのために冒険者としての名声を上げる。さっきそう決めた。そもそもユイは生活するために冒険者くらいしかできない。

 

「オスカー様。お言葉に甘えてもいいのでしょうか?」

「もちろんだ。それに当面住む場所として、この屋敷の一室を提供しよう」

「いえ、そこまでお世話になるわけには・・・」


 ユイは固辞したが結局オスカーに押し切られた。

 貴族であるシュタイアー家の三男坊に、あまり逆らうのは、これからハルを探す活動にマイナスになってもと心配したからだ。


 ユイは、夕食の席でオスカーの家族に紹介された。

 そしてオスカーはユイが同じパーティーで冒険者として活動することを説明し、しばらく屋敷に滞在することを家族に了承させた。

 シュタイアー家の主人であるクラウディオ・シュタイアーやその奥方たち(3人いた)は、快くユイを受け入れたように見えた。オスカーの兄たちも同様だった。本人のいうには勝手気ままに冒険者をしている三男坊らしいが、家族はオスカーには甘いみたいだ。ただ、クラウディオは、ユイの容姿を値踏みするように、じっと見ていた。


 こうしてユイは、ギネリア王国第三の都市テルツで冒険者となった。 

 三人称で、ユイとオスカーそれぞれの視点から書くのは難しかったです。

 少しおかしなところがあるような気もします。後で直すかも。

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