3-2(プロローグ2).
ギネリア王国はヨルグルンド大陸の最も南にある国の一つだ。南にはヨルグルンド大陸の最高峰であるアガイデラ山が聳え、その麓にはイデラ大樹海が広がる。この世界で最も危険だと言われている場所で、その浅層は冒険者たちの活動の場でもある。
ヨルグルンド大陸の中央を縦断する中央山脈を挟んでギネリア王国の東側にはキュロス王国がある。中央山脈の南端とその麓に広がる大森林が途切れる部分で、東西に延びる街道が両国を結んでいる。街道のさらに南はイデラ大樹海だ。
ギネリア王国の北側から北西にかけては草原地帯や砂漠、そして国境を接しているタタロニア王国を始めとしたいくつかの小国がある。それらの小国を合わせて中央諸国と呼ばれる。その先がヨルグルンド大陸最大の国家ガルディア帝国だ。ルヴェリウス王国はそのさらに北だ。
西は神聖シズカイ教国と国境を接している。神聖シズカイ教国は、初代勇者アレクが魔王を倒したあと隠遁した場所と伝えられている。彼の恋人で魔王との戦いで亡くなった大賢者シズカイの亡骸が葬られた場所でもある。
イデラ大樹海に近いギネリア王国の南側には東側からラワド、テルツ、ベツレムの三つの街がある。その中ではテルツが一番大きい。どの街にも冒険者ギルドがあり冒険者で賑わっている。イデラ大樹海は魔物の宝庫で冒険者の活躍の場だ。
ルヴェリウス王国のガドア大森林に近いカルネが冒険者の街と呼ばれているのと同じだ。この世界では魔物の素材や魔鉱石は必需品であり、それらが手に入りやすい場所に冒険者は集まる。
三つの街の一つベツレムは鉱山の街だ。この世界ではすべてのモノに魔力の素である魔素が含まれているが、中でも特に魔素の含有量が多い金属であるミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの3種類のは魔鉱石と呼ばれている。
ベツレムに近いイデラ大樹海の浅い部分に比較的規模の大きなミスリル鉱山があり、そのためベツレムは鉱山の街と呼ばれているのだ。大樹海の浅いところとはいえ鉱山は非常に危険な場所にあるため、鉱夫だけでなく鉱山を警備する冒険者も多く住んでいる。
ギネリア王国のラワドとテルツを結ぶ街道をテルツに向かって走っている一台の馬車があった。
ラワドはギネリア王国の南側の三つの街の中でもっとも東にあり隣国であるキュロス王国との国境に近い街だ。ラワドとテルツの間は馬車で3日といったところだ。
その馬車はあと数時間でテルツに到着できる辺りを走っている。
「オスカー様、あれを」
オスカー・シュタイアーは、馬車の向かいに座っている従者デリクが指さす方を見る。
道を外れた、草むらの向こうで魔物と戦っている人影が見える。
冒険者だろうか?
パーティーを組まずに一人で戦っている。戦っている相手は人型の魔物のようだ。結構数が多い。ゴブリンだろうか? いや、あれは・・・。
「オークの群れか? 多いな。助けに行くか」
だが、オスカーとデリクを加えて3人でも、あの数では・・・。
小柄な人影を囲んでいるオークは20匹以上はいる。人型魔物最弱のゴブリンでも3人で20匹はそこそこきつい。ましてオークとなると・・・。ゴブリンもオークも下級に分類されている魔物ではあるがゴブリンよりオークのほうが数段強い。ゴブリンが下級の下ならオークは下級の上といったところだ。
それでも、ここで助けに行かないわけにはいかないと判断したオスカーは、御者に馬車を止めるように指示した。オスカーはデリクと二人で馬車を降りるとオークと戦っている小柄な人物の方に向かって走った。
「女性のようですね」
「あー、しかも若い」
「助けは・・・いらなそうですね」
「・・・」
デリクの言う通りだ。確かに助けはいらない。
その黒髪の少女は、オスカーたちの見ている前で、オークを魔法で次々と倒していく。魔法の発動速度が速い。オークは、なんとか少女に近づこうとするが、少女の魔法と素早い身のこなしについていけず、その数を減らしていく。
「な、なんだあれは!」
突然現れた炎の竜巻が10匹以上のオークを飲み込み跡形もなく燃やし尽くした。初めて見る魔法だ。あの少女の固有魔法だろうか。火属性と風属性の両方の特徴を持っているようにも見えたが・・・。
魔術師はソロで魔物を狩るのには向かない。普通は剣士など前衛の後ろで魔法を使うのがその役目だ。しかし、この少女は魔術の発動速度が速く威力も高い上、魔術師にしては自身の身体能力も高い。いや、ありえない。あれでは、まるで身体能力強化しながら魔法を使っているみたいじゃないか・・・。
結局オスカーとデリクは、魔術師の少女が一人でオークの群れを殲滅するのを見ているだけだった。
「すごいですね」
「この辺の冒険者に、あんな凄腕の魔術師なんていたか? しかも、あれほどの美少女なら噂になってると思うが・・」
「ですねー」
「まあ、凄腕の魔術師で美少女だ。お近づきになっておこうぜ」
オスカーたちが近づいて行くと、黒髪の美少女は、「あなたたちは?」と訝しそうに、問いかけてきた。オスカーたちを警戒しているようだ。
近くで改めて見ても若い15才くらいだろうか?
やはり、このあたりでは見たことがない顔だ。
「あんたが、オークの群れと戦っているのが見えたんで、助けに来たんだが・・・助けはいらなかったみたいだな?」
「助けに・・・ありがとう」
「その若さで、たいしたもんだ。名前を教えてもらってもいいかな? あー、おれはオスカー、こっちは俺の従者のデリクで、テルツで冒険者をやってる。野暮用でラワドまで行った帰りだ」
「テルツ? ラワド?」少女は、オスカーの問いには答えず、この辺で、自分と同じ年くらいの黒髪の少年を見なかったかと逆に尋ねてきた。
オスカーが、見かけたのは、お前だけだと言うと、少女は、ひどくがっかりしたように大きくため息をついた。
同じ年くらいの少年?
恋人とでもはぐれたのだろうか? それにしては若すぎる。弟かなんかか?
少女を良く見ると、かなり疲れている様子で顔色も悪い。それに、身に着けている冒険者風の服は、なかなか良いものに見えるがひどく汚れている。
オスカーは少女の戦いぶりに目を奪われ、これまで気がつかなかったが、少女は何か思いつめたような顔をしている。
「お前どこから来たんだ? 誰を探しているんだ?」
オスカーが尋ねると、少女はしばらく考えていたが、反対に「ここはどこ?」と聞いてきた。
「ラワドとテルツの間だな。近いのはテルツだ。俺たちはテルツに向かっているが、今日中には着ける予定だ」
「テルツ?」
「まさかとは思うが、王国3番目の都市を知らないのか?」
「王国って ルヴェリウス王国のこと?」
「ルヴェリウス王国だと!?」
オスカーは、驚きで思わず声が裏返ってしまった。
「ここはヨルグルンド大陸の南にあるギネリア王国だ、ルヴェリウス王国は大陸の北の端、ここから最も遠い国と言ってもいい」
オスカーにとってルヴェリウス王国は物語の中の架空の国とそう違いはない。知識として知っているだけの国だ。魔族領と隣接していて、いつも魔族と戦争しているという不幸な国らしい。勇者が現れる国としても有名だ。
「ヨルグルンド大陸・・・それじゃあ・・・また違う世界に飛ばされたわけじゃないんだ・・・」
少女は、少しほっとしたような表情をして、小声で何か呟いている。
いったい何を言ってるんだ?
それに、ますます顔色が悪くなってきており、明らかに調子が悪そうだ。
「お前大丈夫なのか?」
「・・・ルを、探さ・・・ない・・・・・と・・・」
何かを呟いて、歩き出そうとした少女は、ふらついたと思ったら、オスカーたちの目の前でばったりと倒れた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




