3-1(プロローグ).
第3章の始まりです。
あらすじにも書いた通り、第3章はこの物語一つのクライマックスとなる第4章に向かって、盛り上がっていく章になります。ここまで読んでくださっている方は是非第4章まで物語を追ってみて下さいね。
「エリル様、あれほど言ったのに予定より3ヶ月以上も遅くなった理由をお聞かせ願えますか」
エリルはサリアナの質問に直接答えず「留守の間、ジーヴァスとメイヴィスの動きはどうだった?」と尋ねた。
「ジーヴァスには変わった動きはありませんでした。真面目にエリル様の代行を務めていたように見えます」
「見えます?」
「インガスティはまるでジーヴァスの影のようにそばにいましたからいいとしても、ルドギスとアグオスが何をしているのかまでは分かりません」
「ふむ。一応調べさせてはいるんだろう」
「はい。おそらくルドギスはルヴェリウス王国で情報取集しているのではと思うのですが、アグオスについてはさっぱりです」
「まあ、アグオスも人族の国で何か活動してるんだろう」
「ゴアギールでジーヴァス派を増やそうとしているのかも」
「その可能性もあるか・・・」
そこでサリアナは一段声を潜めると「ちょっと前からメイヴィスの姿が見えません。人族の側近もです」と報告した。
「性懲りもなく何を企んでいるのやら、いつかも勝手に人族の街に魔物を嗾けていたな。おおかた今回も似たようなことを企んでいるんだろう」
「エリル様、あの人族の眷属ですがどう思います」
「どう思うって、メイヴィスの固有魔法で眷属にしたんだろう」
「あの固有魔法は死者にしか使えません」
サリアナの言う通りあれは死体にしか使えない。メイヴィスの固有魔法は有名だ。当然サリアナ以外の四天王たちもあの側近の正体についてはいろいろと想像しているだろう。もちろんエリルもだ。
「そうだな」
サリアナがあれほど気に入っているのだ。人族としてはなんらかの力を持っているのだろう。エリルはイデラ大樹海で会ったハルとクレアのことを思い出した。特に異世界人だというハルのことを。
「それでエリル様、イデラ大樹海で何があったのか、どうして魔王城への帰還が3ヶ月以上も遅れたのか話してくれるんですよね」
「いいぞ」
エリルは大樹海に転移してすぐに自分と同じように転移してくる気配に気がついたことから話し始めた。サリアナは様々な表情を見せながらエリルの話を聞いていた。何度も口を挟みそうになったが、そのたびにエリルに制止された。エリルが魔王城へ帰還したところまで話が終わり、サリアナは質問することを許された。
「エリル様、確認しますが、そのハルとかいう異世界人と思われる人族に闇龍の剣を与えたって嘘ですよね」
「いや、嘘ではない。ハルにやった」
サリアナは一瞬言葉を失ったが、すぐに立ち直ると「あれは」と言いかけたところをエリルが自分で言葉を継いだ。
「あれは魔王の伴侶だけが使える秘剣だ」
「エリル様、結婚されたのですか?」
「うーん、どうだろう」
「どうだろうって」
「ハルに、私を永遠に好きでいるというような意味のことを言わせるように誘導した」
「それで」
「とりあえずハルにキスしてみた」
「キス!」
「ああ、それでちょっと魅了の魔法を使ってみた」
「いや、あれは知性あるものには効果がありません! せいぜい下級の魔物を多少興奮させる程度の効果しかないはずです。しかもエリル様は魅了魔法はあまり得意じゃないはずですが」
「そうなんだが、なんかそれでハルが気を失った」
「ええ! 魔物にさえ大して効果のないエリル様の魅了魔法で・・・ですか?」
「サリアナ、なんかとても失礼なことを言われてる気がするぞ。まあ、それなら私の本物の魅力の効果だったんじゃないかな。ほら、私ってかなり魅力的だろ」
「・・・それで」
「その後、目を覚ましたハルに闇龍の剣を渡してみると、なんとハルは剣を抜くことができた」
エリルとサリアナは顔を見合わせる。
「それだけですか?」
「ああ、それだけだ。間違いなくハルは闇龍の剣を抜いた」
「・・・」
闇龍の剣はこれまで魔王の伴侶しか使えなかった。だが、エリルやサリアナも正確にその仕様を知っているわけではない。代々の魔王に伝わっている魔族の秘宝であることは知っている。だが、いつからそれが伝わっているのかも含め謎も多い。まあ、おそらくは例の文明が関係しているのだろう。
「とにかくハルはあの剣を使えるようになった。あれはハルとクレアがイデラ大樹海を脱出する手助けになるだろう」
「魔族の秘宝なのに、それを人族に・・・」
「まあ、後で返してもらえばいいじゃないか。とりあえず今はハルしか使えないんだから」
エリルはあのときのことを思い出す。ハルが闇龍の剣を抜いたときには驚いた。あんなことで本当に剣が抜けるとは・・・。まあ、それだけ自分のキスにすごい効果が、魔族の秘宝の効果を発動させるほどのすごい効果があったのだろうとすぐに納得したのだが。
それにしてもハルは本気でエリルと契ったのではと勘違いしていた。まあ、ハルのことは気に入ってはいたが、エリルとてそんなに安い女ではない。なんせ魔王なのだから。エリルは今にもハッハッハッと魔王らしく哄笑したい気持ちをなんとか抑えた。
「それから私の固有魔法をかけておいた」
「固有魔法ってどの?」
「相手にかけれるは一つだけだぞ」
エリルは魔王になる前から固有魔法を四つ持っている。その一つである気配を消す魔法はハルたちの動向を探るのに役立った。空中浮揚の魔法もハルたちに見せた。そしてハルにかけたのは味方の身体能力強化を上げる魔法だ。上がるのはちょっとだけだし、その効果も永続的なものではない。まあ、四つの中では一番役に立たない魔法だ。
「あまり意味がないのでは」
「そうだな」
だがエリルが思うにハルには自信をつけさせることが必要だった。イデラ大樹海から人族が二人で脱出する。普通に考えて不可能に近い。だが二人には普通でないところもあった。ハルは異世界人だしクレアは人族としては破格の身体能力強化を持っていた。
エリルはそれでもまだ不足だと思った。それで、できるだけのことをしてやろうとう異例な方法で闇龍の剣を与え、さらに固有魔法をかけた。ハルはあれを魔王の加護だと思っている。だが魔王は神ではない。むしろ神から加護を授かっている身だ。魔王の加護など存在しない。
だが、それでハルが少しでも自信を持ってくれれば・・・。
それにハルは異世界人で闇龍の剣だって抜いたのだ。
何が起こるか分からないじゃないか!
ハル、クレア、生きてイデラ大樹海を脱出して見せろ!
エリルは二人と過ごした3ヶ月を思い出して笑みを浮かべた。
本当に大樹海を脱出できたら。それができたら本当に婿に迎えてやってもいいかもしれない。なんせ闇龍の剣を抜いたのだから。だがハルは、エリルの前で僕にはすでに心に決めた女がいると力説していた。自分を前にして、しつこくそんなことを言うハルにちょっとカチンときたので、少し意地悪な言い方をしてしまったのはエリルも反省している。
魔王エリルはその外見通り、ちょっと子供っぽかった。
「とにかくサリアナ、私はハルとクレアのことが気に入ったし人族との融和策に役に立ってくれると思ったから、二人の手助けをして闇龍の剣まで与えたのだ。そのことを忘れないでくれ」
「分かりました」
サリアナは、それでも人族の二人がイデラ大樹海を生きて脱出するのは無理だと思っていた。その場合、魔族の秘宝たる闇龍の剣をどうやって取り戻すか、そのことにサリアナが頭を悩ませていることにエリルは気がついていない。
★★★
この先どうすべきなのか?
日本からの転移にまだ知らされていない秘密があることは、あの校章を存在を知ったときから理解していた。だが、さすがにあの病気のことは・・・。王国の説明なんて信用できない。
許せない!
これからどうすべきか。俺一人で何ができるのか。慎重に考える必要がある。ルヴェリウス王国側に協力者が欲しい。あの、ルクニールという魔導技術研究所の助手はどうだろう。気が弱そうに見えるが・・・。あとは・・・やはりクラネス王女か。だが、クラネス王女自身利用されている気もする。何も知らない可能性のほうが高い・・・。
せめてハルたちがいれば・・・。いや、ハルたちならきっと生きている。まだ希望はある。
もうあれから・・・10ヶ月? いや、もっと経つのか・・・。
落ち着くんだ。動揺して判断を誤ってはならない。
最近になって、やっと一時の怒りに任せた感情を制御し、多少冷静に考えることができるようになった。
まずは、残った全員の団結がこれまで以上に必要だ。とにかく全員で団結してできることをやる。絶対に王国の思い通りになどならない。
毎日の訓練のおかげで、俺たちはかなり力を付けてきた。
あとは・・・やはり、そろそろ王国側にも協力者がほしいところだ。
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