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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ18 シアワセレシピ
324/365

ソツギョウシケン

アクセスありがとうございます!



 翌朝、登校したカルロスはまず理事長室に赴いた。


「朝早くに失礼します師匠殿。本日は相談があって参りました」


 書類に目を通していたジュダインへ、挨拶もそこそこ切り出す。


「……ふむ」


 真っ直ぐな瞳を向ける弟子を一瞥し、ジュダインは手にした書類を置いてディスクに両肘を付いて微笑を浮かべる。


「ようやく、ユウスケの刺激的な土産話をしてくれるのかな?」


 ジュダインもまたカルロスの心に迷いがあると気づいていた。しかしソフィへ忠告したように必ず話してくれるだろうとあえて見守る立場を取っていた――が


「残念ながら違います」

「ん?」

「いえ、まだお伝えすることが出来ないと言い換えましょう。この話はボクがユウスケくんへ感想を述べてようやくお伝えする権利を得る。でなければ彼の拘りを無視してしまう、そういった内容なので」

「……よくわからないね」

「当然でしょう。なんせユウスケくんのお土産なので」


 嬉しそうに強調するカルロスにジュダインも納得して笑ってしまう。


「ではどのような相談かな」

「資格を得るためです」


 改めてジュダインが問いかけるとカルロスは表情を引き締めた。


「その為に必要な成長を、ボクなりに考えた試練とでも言いましょうか……とにかく、師匠殿のお力添えを貸して頂きたいのです」



 ◇



 料理コンテスト開始の午前八時、最初に選出されたグループの中にカルロスは居た。


「――昨日言ったこと、忘れてないだろうね」


 隣の調理台にはロイの姿。同じグループで直接勝負ができると意気込んでいるようで闘争心がひしひしと伝わっている。


「もちろんさ。キミがボクを卒業試験として意識してくれていること、誇りに思うよ」


 対しカルロスは普段通りの自然体。


「ただ申し訳ない。ボクが意識すべきはキミだけじゃない」


 しかし内に秘める闘争心は、料理に対する情熱はここにいる誰よりも熱く。


「学院生全て――それがボクにとっての卒業試験だ」


 誰よりも高い集中力で望んでいた。



 ◇



 午後五時前、コンテストの結果が張り出される講堂に学院生が集まる中、閑散とした校舎内をメゾは歩いていた。

 迷うことなく進む先には第四調理室。今日は授業もないので使われなかった教室は日の落ちた野外と同じく真っ暗で。

 それでも構わずメゾは教室のドアを開け、暗闇に向けてため息を吐いた。


「私、今日ほどあなたをバカだと思ったことはないわ」

「……褒めないで、くれたまえ」


 すると弱々しい軽口が返ってくる。


「でも残念ね。二番煎じは驚けないわ」

「それは……残念」


 やはり返される軽口に呆れつつ電灯のスイッチを点けると、教室の壁に身体を預けて座り込むカルロスの姿。コンテストが終了して一時間が経つというのに調理服姿のまま、精根尽き果てたように息も絶え絶えで。

 それもそのはず、カルロスは第一グループから最終グループと全てのコンテストに参加したのだ。誰がどのグループに選出されたかまで発表されていないのをいいことに、食事も摂らずに休むことなく八時間も。

 もちろん調理を終えた生徒らが入れ替わることで徐々にその事実は知られていくも、普段から奇行の多いカルロスのやることとさほど気にとめる者はいなかった。

 だが審査をする理事長や教員は気づいているのに注意されなかったこと、同じグループで調理をした際、これまでにないカルロスの集中力を目の当たりにしたメゾは一つの答えを導き出して彼の足取りを人伝に聞いてここに訪れた。


「で、ユウスケの真似事をした感想は?」

「……正直……ここまで疲れるとは、思わなかった」

「情けない。彼は二時間も長く、一二品も多く調理をしても平然としていたわ」

「そうだね……あらためて、ボクの未熟さを痛感させられた……」

「……どうしてこんな真似事をしたの?」


 くぐもった笑いを漏らすカルロスに近づき、見下ろす形でメゾが問う。

 ジュダインが黙認し昨夜話題に上げたばかりだ、今回の奇行が優介を意識したとメゾには分かった。ただ大事なコンテストで、今さら同じような調理をした理由までは分からない。

 確かに最近のカルロスには迷いがあった。

 それでも今日の彼はこれまでで一番の集中力だった。

 まるで何かを試しているような姿に、どんな理由があるのかを知りたかった。


「……ボクはね、ユウスケくん……もちろんカナンくんにも、ライバルと認めてもらえたことが嬉しかった」


 視線を向けたままのメゾに対し俯いたまま、カルロスは吐露していく。


「ボクの誇りさ……失いたくない」


 それは懺悔のように、前に立つメゾを女神に例えて告白する。


「だから……ユウスケくんの土産……悪巧みを素直に賛同することができなかった」

「悪巧み?」

「とても素敵なね。実現すればきっと、ボクは師匠殿も辿り着けなかった新しい料理道の先を見れられる。だからこそ……拘った」

「…………」

「師匠殿さえ考えつかなかった、思考の料理人のユウスケくんだからこそ開拓できた道。なのにボクがその道を歩んでもいいのだろうか? ただライバルの示した道に便乗するボクはライバルたり得るのか? ユウスケくんの導き出した成長の場に、苦もなく立つボク……そんな関係、もうライバルとは呼べない」


 徐々に悔しさが滲む声にメゾも拘りを理解する。

 ライバルとは切磋琢磨し合い互いを高めていく関係。なのに一方的に手を引くようなパワーバランスになればライバルではなく師弟関係に近い。

 なら優介のライバルでいたいカルロスがその悪巧みとやらに賛同できないのも頷ける。


 だが――


「呆れた……そんなことで迷ってたの?」


 メゾはため息と共にカルロスの苦悩を切り捨てた。


「だってあなたの大好きなライバルが一番拘ってるのはお客さまへ美味しい料理を提供する事よ。なのにそれを可能にする場を見て見ぬ振りをしているあなたが、彼のライバルと胸を張って言えるの?」

「……そうだね」

「なにより、その悪巧みが何だか知らないけど、あなたを誘ったのなら彼にとってライバルの存在が必要だからでしょ? 無碍にすることこそ彼のあなたをライバルとして認めている心を否定してるわ」

「まったく……その通りだ」


 容赦ないメゾの追求を心地よくカルロスは聞き入れた。

 言ってしまえばライバルなど眼中にないのだ。

 優介は何より目の前にある食材と、器具と、調理と向き合う。

 そして食す者と向き合い続けている。

 必要とあればライバルに協力を求める。結果として成長できるなら、食す者が満足してくれるなら、それが料理人にとって一番だから。

 だからなりふりかまわない考えが思いつく。

 もしジュダインがこの悪巧みを知れば、自分たちが出来なかったことだと手放しで褒め称え、羨ましがるだろう。


「迷うことなんてなかったんだね……ボクが拘っていた誇りを失わない方法は、師匠殿を越える為には、最初から賛同すること。迷うことは両方の資格を失うも同意」

「その通りよ。なにを今さら」

「本当に今さらさ。だから今回のコンテストで学院生全てを相手取り、かつ最後まで心を込めた料理を作り、主席を取る。それがボク自身が制定した試練であり、資格を取り戻す方法だと決めた。もし乗り越えた時は――」


 不意に鳴り響くメロディにカルロスの口が閉じられ、聞き入っていたメゾも肩を竦めてポケットからスマホを取り出し


「おめでとう」


 ディスプレイを見詰めて呟き、スマホをカルロスに向けた。


 自分に代わり結果を見届けたテーラからのメールは自分が一一位、メゾが七位、そして カルロスが一位との報告と、これからまた同じクラスで学べることを喜んでいる内容。

 ゆっくりとその文面に目を通していたカルロスは安堵の息を吐く。


「ボクは卒業試験に合格したんだね」


 そして立ち上がり、初めてメゾと視線を合わせ微笑を浮かべた。


「今日で学院を去るよ」


 告げられた突然の別れにメゾは目を見開き、結局嘆息する。


「……やっぱり二番煎じ」

「分かったんだ。ボクが今いるべき場所はここじゃない。来たるべき未来に備えて己を高めることだと」

「その方法は?」

「師匠殿に付き添い助手として世界中で料理をするんだ。これまで以上に徹底的に教えを受けること、ユウスケくんやカナンくんには出来ない高め方だ」

「……そう」


 目を輝かせて語るカルロスにメゾは何も言えない。

 いま心にある『寂しい』との感情を言葉にしてはいけない。


「残念ね。せっかくバレンタインに義理チョコをあげようと思ってたのに」

「もう貰っているよ。少し早かったけどね、昨日のホットチョコミルク……本当に美味しかった」

「ならホワイトデーは期待してもいいのかしら」

「もちろんさ。もし可能であれば、その時にはユウスケくんの悪巧みの話も添えよう」

「あら、ここで話してくれないの?」

「まだユウスケくんへ感想を述べてないからね」

「なにそれ」


 互いにクスクスと笑い合う。残された時間を惜しむように。

 そしてカルロスは表情を引き締め、歩を踏み出す。

 メゾも通り過ぎるカルロスに振り返らない。


「ユウスケにカナンさん……あなた達がどんな場所に立とうとしてるかは知らないけど」


 代わりに口から出たのは伝えたい想い。


「私がただ……憧れてるだけで終わる女だとは思わないで」

「ああ……楽しみに待っているよ」


 その想いに歩みを止めることなく返事を残し、カルロスは調理室を後にした。


 二人の間に『さよなら』との別れの言葉は必要ない。



 ◇


 感想を述べなければならないね。

 あの時、口にしたかったボクの意思を。


 手紙で伝えよう。

 ユウスケくんにだけでなく、カナンくんにも。


 二人一緒に伝えることこそが、ボクらが対等のライバルである証になるから。



 ◇



 二月一四日


 仕事を終えたカナンは自分宛の小包と封書を開けた。

 小包はテーラとメゾから。

 同梱されていた手紙を読むにどうやらバレンタインの感謝チョコらしい。

 そして封書はカルロスからの物で、予感めいたモノがあり気後れすることなく封を開けて簡素な便箋に目を通していく。


「……そう。これがアナタの感想なの」


 やはり予想通りの内容に、カナンは物悲しげに呟いた。



 

普段はおちゃらけなカルロスが格好いい……メゾとの今後も気になりますが、優介のお土産に対する答えを見つけました。

なので次回はもう一人、カナンがどのような答えを出すか、また優介のお土産はなにかをお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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