【コミックス8巻発売】番外編.そのころオリオン王国では
ヴィンセントとエリザベスが新婚旅行に出発する、数週間前――。
オリオン王国では、リーシャがうきうきと迎えの準備を進めていた。
留学でも、ヴィンセントとエリザベスの結婚式でも、ウルハラには行っている。ヴィンセントやエリザベスにも会っているが、彼らがオリオンにやってくるのは初めてだ。
「せっかくですからオリオン王都の名所を見てもらったり、オリオンらしいものを……そうだ、オリオンは夏でも涼しいですし、新婚旅行の後半は秋から冬になるでしょう。セーターを編みましょう!」
案内したい名所や名物料理を書きつけていたリーシャはぽんと手を叩いた。
リーシャの言うとおり、オリオン王国はウルハラ王国の北にあり、標高の高い土地もある。さらに今回の新婚旅行はオリオンからさらに北、アンカレス王国まで足をのばすそうだから、肌寒い天候もあるかもしれない。
「我ながらナイスアイディア!」
ガッツポーズをするリーシャを、マリウスがにこにこと見つめている。
そんなマリウスを、気配を消して忍びよったレオハルトがにこにこと見つめているのだが、二人の時間への侵入者にマリウスは気づいていないし、リーシャももうあまり気にしていない。
以前にヴィンセントが想像したとおり、マリウスと思いを通じあわせたリーシャは胸いっぱいの幸福と妃教育の忙しさとでレオハルトのイビりをものともしなくなった。
慣れたというのも大きな理由だが、それ以外にも理由はもう一つ。
「え……そのデザインで行くの?」
背後から声をかけられ、リーシャは顔をあげた。
ドン引きの顔をしているのはレオハルトだ。しかも、リーシャに難癖をつけるために……ではなく、めずらしく心底からのドン引きに見える。
澱んだ視線はリーシャの手元にそそがれている。
リーシャはもう一枚紙を出してきて、ヴィンセントとエリザベスに贈る手編みのセーターの図案を考えているところだった。
当然ながら、『おそろい』がいい。そして新婚旅行でもあるから、結婚したての二人のアツアツな愛情を前面に出したデザインで。
紙の上には、大きなハートに『LOVE』『新婚』と描かれた恐るべきデザインの図案が二つ、できあがりつつあった。
「大丈夫です。細かく見えますが難しくはないですよ! 編めます!」
下級貴族の、しかも末っ子に生まれたリーシャは炊事や裁縫といった実用的なスキルも身につけている。セーターを編むことくらいはなんてことない、と胸を張った。
「いや、そうじゃなくて……その柄が――」
さすがに可哀想なんじゃないか、とレオハルトが口にする前に、マリウスがやってきて覗き込む。
「ああ、いいじゃないか。新婚の幸福感がよく出ている。きっとおふたりもよろこぶだろう」
「そうですね。ぼくもそう思います、マリウス兄様」
ほほえむマリウスにレオハルトも笑顔になった。
とんでもない手のひら返しだが、それを知る者はレオハルト本人以外はいない。
これが、リーシャが王宮で穏やかに暮らしている理由だった。
リーシャがいるところにはマリウスがいる。
マリウスの前では、レオハルトのイビりは発動しないのだ。
ただしそれは、ツッコミ役がいなくなるということもである。
(このセーターは本当にどうかと思うけど……兄様がいいと言うなら、まあいいか)
もう一度、『LOVE新婚セーター』の図案に視線を落としつつ。
マリウス>>>>>(越えられない壁)>>>>>ヴィンセント・エリザベスの宇宙の法則に従い、レオハルトは口をつぐんだ。
明日7/15(火)、コミックス8巻発売です!
結婚式編が無事決着し、新婚旅行編開幕です!
原作小説ですと結婚式で終わりなのですが、もう少し続けてもいいよ~ということでシナリオを書き下ろしました。
おやまだ先生が描いてくださった『LOVE新婚セーター』も出てきます!
(最高すぎてリーシャが編んでいたら…という妄想ネタを書きました)
新婚生活~新婚旅行でヴィンセントとエリザベスのイチャ度が増していますので、ぜひお楽しみに♡
書き下ろし短編『新婚生活は夫婦それぞれ』付きの電子限定特装版もあります。
こちらもよろしくお願いしますー!