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file8:秘密の場所

朝早く千博に起こされた貫太郎。しばらくついていくと、昔は防空壕にも使われたという洞窟があった。暗闇の中、手をつないで歩いたその先には……

 プライベートビーチと言うべきだろうか。決して広いわけでも、ヤシなど特別な木々が生えているわけでもない。ただ、誰もいない白い砂浜に宝石みたいな青い海が当たり前のように存在した。

 僕らは海に入るわけでもなく、並んで座ったまま青い空を眺めていた。はしゃぐことはしなかった。綺麗過ぎて、とてもそんな気になれなかった。ただ眺めているだけで満足に思えた。

「この海ね、若い頃にお父さんがお母さんにプロポーズした所なんだ」

 不意にそれまで口数の少なかった鈴原が話し始めた。それから小さな溜め息をひとつ吐き出し、沈んだ気持ちの理由を打ち明けた。

「ずっと一緒にいようって。また一緒にこの砂浜に来ようって約束したんだって」

 そう約束したのにな。鈴原は呟いた後口を尖らせて貝殻を放った。

 両親の約束は鈴原にとって叶うことがない願い事でもあった。悲しみや葛藤の末にふたりが出した決断は尊重しなければならない。それはわかっていた。しかし、理性だけでは納得しきれないこともあるのだ。

 この砂浜は鈴原にとって両親の思い出が詰まった宝物でもあり、また同時に深い傷でもあった。それを教えてもらった自分は彼女のために何ができるのだろう。何をすべきだろうと僕は困った。そしてひとつの考えが頭に浮かんだ。きっと悪くはならない。あとは行動に移せるだけの勇気があるかどうかの問題だった。

 僕は意を決して口を開いた。

「また来年、ここに来ようよ」

「えっ?」

「だから、また来年ここへ来ようぜ。二人で」

 言葉にしたその後で、僕の鼓動は速くなった。心臓が強く打ちつけるたびに焦りが大きくなり、不安が増大していった。

 なかなか返ってこない答えに、鈴原の反応が気になった僕は声を絞り出すようにして尋ねた。

「嫌か?」

「ううん。そういう訳じゃないけど」

「じゃあ……また転校するのか?」

「ううん。お父さんはきっともう引っ越ししないって。違うの」

 おもむろに立ち上がり、顔を隠すようにして鈴原は何歩か前に出た。僕からの位置では日焼けした腕で涙を拭っているように見えた。

 もしかしたら余計に傷付けてしまったのではないか、と動揺した僕を安心させるように、鈴原は笑みを浮かべて振り返った。

「やっぱり、石井に教えてよかった」

 このときのことは今でも忘れない。青い空に白い砂浜、確かに秘密の海は美しかった。しかし、それを上まわるほど鈴原の笑顔は貴重に思えた。とても輝いて見えたのだ。

「そうだ! 忘れてた」

 太陽を直視できないのと同様に、純粋な感情に対する免疫が備わっていなかった。なんとかしようと、僕は話題を逸らした。

「いつだったか、ノートに描いた猫の絵。あれにヒゲを付け足してくれよ」

 なんだか気になっちゃってさ、と言った僕に鈴原はシッシッシッと笑った。涙が出てしまいそうなほど胸が一杯で、それを隠そうと僕も無理に笑顔をつくってみた。この瞬間が幸せなのだと感じた。それは振り返ってみても間違い、確かなものだった。


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