file7:洞窟のその先へ
飼い犬のタロウを失って以来、初めて海に入った貫太郎。少しずつ確かめるように慣れていった。そして、日中泳ぎの練習をしながら、夏の日々が過ぎていった。
毎日海へと挑むうちに、僕の泳ぎは考えていたよりも早く上達していった。鈴原が言うには塩水では体が浮きやすいのだそうだ。過度な恐怖心も無くなっていた。むしろ海で泳ぐことが楽しみにさえ思えていた。
こうして向かえた帰る日の朝、僕は鈴原に起こされて目を開けた。どうやら夜が明けたばかりらしい。蚊帳から出て縁側に立つとまだ外は肌寒く、昨日庭で茄子の馬を焼いた跡は薄っすらと霧で覆われていた。
「約束した秘密の場所に連れて行ってあげる」
着替えを済ませた僕は、顔を洗う暇さえも許されずに家を出た。早朝の田舎道を急ぎ足で進む鈴原。僕は眠い目を擦って彼女の後に続いた。
「なぁ、何処に行くんだよ」
カブトムシ狩りでもさせてくれるのだろうか。向かう方角は通い慣れた海と違い、森を指していた。しかし、いくら尋ねても鈴原は黙っていた。さらに横へ並ぼうとすると少し足を早めた。表情さえも隠しているようだった。
ほどなくして僕達二人は森の中に入った。そして何重にも覆い茂るヤブを掻き分けた先にそれは存在した。
「この中に入るのか」
ポッカリと口を開けた大きな洞窟を前にして、僕は息を呑んだ。
「ここは昔、防空壕として使われてたんだって」
入り口の端には何やら石像らしきものとお供え物のような置かれていた。線香やロウソクの燃え跡もあった。それらが僕を一層不安にさせた。
「ねぇ」中に入ってから鈴原が提案した。「手を繋がない?」
確かに目が慣れていないせいか、中は薄暗く今にも転んでしまいそうだった。それに洞窟がどれだけ深いかもわからない。僕は表向き渋々というかたちで了承した。
「突き当りを右に行って、そのあと左。最後に二番目の穴へ入る」
ブツブツと念仏のように唱える鈴原の小声、そして彼女の手の感触がひとりではない証だった。ぼんやりと姿が見えるようになると、だいぶ気分は楽になった。けれど、逸れてしまったときの事を考え、僕は耳に入る言葉を暗記しようと努めた。
複雑であったが、洞窟自体は短かった。そして眩い出口の光に包まれたその末に、ようやく僕らは目的の場所へと辿り着いた。
僕はポツリと呟いた。
「ここが秘密の場所?」
「うん。そうだよ」
綺麗でしょう、という鈴原の問いに僕はうなずいて答えた。
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