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第五章

  第五章☆青・ホログラムオルゴール

 その後何事もなく数日が過ぎた。

やがてプリズム星調査隊の乗組員たちは自由の身となり、それぞれが身の置き方を考える段階になった。

しかしアルフレッドにはコロニーに生活拠点がないため、部屋捜しをまずしなければならなかった。

「とりあえず部屋がみつかるまで俺の処にでもいたらいいよ」

とヒロキが気さくに言ってくれた。

アルフレッドはその申し出をありがたく受けた。

「物騒なのも、男二人いりゃ、なんとか対応できるかもしれないしな」

部屋のセキュリティにアルフレッドの認可コードを手続きしながらヒロキはそう言った。

アルフレッドにとって、ヒロキの言葉は、かなり気休めになった。

 高層ビルの立ち並ぶ中、ヒロキの部屋はそんなビルの一室にあった。

朝が来ると、耐圧ガラス張りの外壁が透明に変わり、コロニーの人工太陽の光が室内を照らす。

どのビルの外壁ガラスも外側から見ると、鏡のように輝き、周囲の景色を映し出していた。

「ここが、リゲル恒星系、か…」

アルフレッドは思わず感嘆の声を出した。

 「こんにちは。ヒロキいる?」

昼頃ひょっこりファナが訪ねてきた。

「あら、アルフレッドも一緒なのね」

男二人はおたおたした。

「えーと、俺は新居捜しに行かないと…」

「え?そーか?そーいえばそーだったな」

アルフレッドはヒロキとファナの会話を邪魔したくなかったので、気をきかせて外出することにした。

新しい住まいのついでに新しい仕事も捜したいところだったが、今はまだ気がかりなジラルドの救助の許可がおりていなかった。コロニーの中央管理局に打診してはいるが、いっこうに許可がおりない。

いらいらしてもしかたがないので、アルフレッドは申請している住居の空きがないか確認した後、時間をつぶすために街の中をぶらついた。

「ジラフのやつ、今頃持っていた煙草を全部吸いつくしてるだろうなぁ」

そんなことを思い、煙草を十カートンまとめ買いした。ジラルドの吸っていた煙草はポピュラーな銘柄だったので、捜すのにそう手間どらなかった。

アルフレッドはついでに銀色のライターを買った。

煙草のついでになにげなくショーケースに目を落としていたら、店の主人がいくつもライターをとりだしてみせたのだ。

「このライターなんかは、昔地球で航海するときに使った、風が吹いても火が消えにくいものですよ」

と、すすめられた。

ライターを買ってからも店内を見て回っていると、アルフレッドが興味を示す度に店の主人がわざわざ一通り説明してくれた。いいカモだと思われたのかもしれない。

「そっちのは何ですか?」

「ああこれね。これは昔、地球のスイスという国で使われていた多機能ナイフだよ。赤いさやに白十字のロゴ入り。十三種類の工具が収納されている。…そういえば地球の二十世紀に流行したドラマの中でも小道具で使ってたなぁ…。『マクガイバー』とかね。知ってるかい?」

なんだかよくわからなかったが、便利で面白そうだったので、アルフレッドはそのナイフまで買ってしまった。

「いつかそのドラマを見てみますよ」

ときさくに告げて店を出た。

結構時間つぶしにはなったが、それでもヒロキの部屋へ戻るにはまだ早すぎるような気がして、彼は空中公園へ足を運んだ。

   ☆

 ヒロキの部屋に入ったファナは言葉巧みに彼と会話した。表向きは好意がある様子で、その実、中央管理局の命令で、ヒロキが隠し立てしている事柄を聞き出そうとしていた。

中央管理局の検査の結果、プリズム星での出来事をみんなある程度話しはするものの、気まずい事を隠す傾向が見られたそうだ。

その中で特にヒロキは何か重要なことを黙っているふしがある、として目をつけられていた。

(それはジラルドやプリズム星の遺跡であった出来事などで、彼は検査をうまくきりぬけたつもりでいたが、コロニーの精密な機器にはあからさまに動揺が記録されてしまっていたのだった)

ヒロキは自分が疑われているなんて微塵にも思っていなかったので、ファナの来訪を心から歓迎した。

ヒロキの屈託ない性格に、ファナは内心とても胸が痛んだが、これも仕事なのでしかたがない、と考えた。

ヒロキは機械類の扱いがとてもうまいだけあって、専門的なことを聞かれると、とても楽しそうに話をした。

「あら、それは何?」

荷物の少ない殺風景な部屋の中で、みかけが女性が化粧に使うコンパクトに似たものがファナの目についた。

「ああ、これね」

ヒロキはひょいとそれを持ち上げると、ボタンを押した。

ふたが開き、異星人の少女が歌を唄っているホログラムが現れた。しばらく音楽が流れる。

「これ…、あなたが造ったの?」

ファナは本心から感心して聞いた。

「うん。…曲名は何だっけな?アルが好きな曲で、ライト/イズなんとか」

「Light is Right…ね」

「そうそう。唄ってる歌詞はプリズム星人の言語だから、俺はどんな歌詞かは正確には知らないんだけどね。なんか、こう、きれいだろう?」

「ええ。…あの、よかったらこれ、しばらく貸してくれないかしら?調べてみたいの」

「調べる?…まぁ良いけど」

「あの星であった出来事、どんなささいな事でもいいから思い出したら教えて欲しいの。私はずっと上空で待機してただけだったから、なんだかつまらなくて…」

「そうかい?何でも聞いてくれてかまわないよ」

そう返事しながら、ヒロキは内心、アルフレッドに口止めされているジラルド関連のことを思い浮かべて悩んでいた。

「それじゃあ、私、帰るわね」

「えっ。用事はそれだけだったんだ」

「ええ」

しょんぼりした様子のヒロキを見て、ファナは、ちょっと興味をそそられた。

もしかして、もしかしたら、ヒロキはファナのことを…。

「俺、ちょっとは色気のある話でもしてくれるかと期待しちゃってたんだけどな」

「あら…。えーと…」

ファナは、いつだったか、ヒロキが上着をかけてくれた時の事を思い出していた。

彼女は胸がどきどきいうのを感じた。

   ☆

 「げっほげほげほ」

アルフレッドは空中公園のベンチで一人、せきこんでいた。

生まれて初めて煙草を吸ってみたのだ。

結果は無残。

「ジラフはよくこんなものを吸ってたな」

と、彼はつくづく思った。昔の地球で禁煙運動があったというが、わからなくもない。でも、愛煙家にはたまらなくおいしいのだろう。

「あれ?」

視界の端を何かが横切った。

アルフレッドは思わず立ちあがって追いかけて行った。

近くの木に小動物が登っているのがわかった。

「なんだ?猿、かな?よくこんな人工の世界で野放しになってるもんだ」

感心して眺めていると、

「すいませーん。今こっちに仔猿が逃げて来ませんでしたか?」

作業服姿の男が二人、アルフレッドの方に走ってきた。

「ああ、あそこにいるけど…」

「よし。今度こそつかまえるぞ。俺はこっちから回るから、お前はそっちから追い詰めてくれ」

二人の男たちはどたばたやって仔猿を網でとりおさえた。

「ちょっと、かわいそうなんじゃないですか?」

とアルフレッドはみかねて言った。

「いや実はね、地球産の小動物を何種類かつれてきて繁殖させようとしてるんだけど…、この仔猿だけは特別で、他のとうまくなじんでくれなくて困ってるんだ」

「特別って何が?」

「ほら、みかけがね。全身真っ白で目が赤いでしょう?突然変異のアルビノなんですよ。この外見のせいで浮いてしまって、他のやつとうまくなじめない」

「はあ…」

アルフレッドは今でもやはり色の識別が出来ないままなため、言われて初めてその仔猿のことを理解した。

そういえば、幼い頃地球の図書館で、古典SFの「コンラッド消耗部隊シリーズ」という文庫本を読んだことがあるのだが、その中に、とある惑星で生まれ育った特殊な猿が、生まれた場所から引き離されると、自分の尻尾の先で自分を突いて自殺してしまう、というのがあった。

アルフレッドはそれを思い出していた。

根無し草な俺は、この先、故郷からこんなに離れた場所で、なにをよりどころにして生きていくのだろう?

そう思って、思わず身震いした。

「おい、行くぞ」

はっと我に返ると、男たちが仔猿を網からかごに移し変えて連れ去るところだった。

考えてみると、この目前の仔猿は自分の意思の預かり知らぬところで、こんな見知らぬ世界へつれてこられたのだ。

アルフレッドは、仔猿を不憫に思った。

そして、仔猿が、自分の知らないところで孤独に死を迎えるのではないか、という不安が胸にわきあがった。

「待ってください!!」

「?」

「その仔猿、ゆずってもらえませんか?」

「えっ」

男たちは困惑顔でアルフレッドを見ている。

始めはおずおずと、そしてだんだん熱心にその申し出を語るアルフレッドに、男たちはやがて折れた。

仔猿の身の上と自分が重なって思えたから?

それともなにか別の強い感情が彼らを揺り動かしたのか?

それはアルフレッドにもわからなかった。

気がついたら、長い手続きを終えてその仔猿の所有者になっていた。

   ☆

 「おまたせ」

青いエアカーを乗りつけて、ヒロキが言った。

待ち合わせ場所で待っていたファナはちょっとだけ待ちくたびれていたので不機嫌だった。

ヒロキは何も言わず、赤いバラの花束を差し出した。

「わぁ、すてき」

ファナはとても驚いて、大喜びになった。

助手席に座ると、花束は両手いっぱいであふれそうだった。

トゲはきれいに取り除かれていたので、ファナが花束を抱きしめても痛くはなかった。

そっと香りをかいで、ファナは純粋に嬉しかった。

任務より私情を優先させてはいけない、とファナの心のどこかでささやき声がしていたが、今、彼女の心はヒロキの方へ傾きつつあった。

「あのね、あの…」

「なんだい?」

「この前のあなたが造ったオルゴール。歌の内容を言語翻訳機で翻訳してみたら、恋の歌だったの」

「へええ」

「空から迎えに来てくれる救世主を待っているみたいな内容にもとれたんだけど」

「そうなんだ。…あの星の人間は空に畏怖の念を持っていたみたいだったしね」

自動操縦に切り換えられたエアカーは、二人を予約しているレストランまで運んだ。

二人は楽しそうに会話しながら食事を楽しんだ。

「ちょっと失礼」

ナフキンで口をぬぐって、ファナは化粧直しに席を立った。

鏡を前に立ち、口紅をポーチから取り出す。

「あっ。痛…」

ものすごい頭痛が彼女をおそった。

 「大丈夫?なんだか顔色が悪いよ」

テーブルに戻ってきたファナにヒロキが心配そうに声をかけた。

「そう?どうってことないわ」

冷たい声だった。

「…それよりも、聞きたいことがあるの」

「うん」

「本当は、ジラルドはどうしたの?」

「えっ!」

不意打ちに、ヒロキはびっくりした。

「あなた、本当のこと、隠してるでしょう?」

「なんで…」

ヒロキはかすれ声を出した。

ふっ、とファナは笑った。

「ごめんなさい。でもこれは私の仕事なのよ」

「仕事…だから俺と会ってくれてるのか?」

うちのめされたような表情でヒロキは言った。

ファナは視線をそらした。テーブルクロスの上で彼女の両手がふるえていた。

「…。そういえば、プリズム星人が一人、コロニーに来たけれど、その後彼はどうしてるのかな?」

ヒロキはファナの様子を一片たりとも見逃そうとしなかった。

「彼はコロニー政府の実験施設にいるわ」

「ベラミー先生が担当してたんじゃ?」

「ベラミー先生は、お酒の飲みすぎで幻覚をみて、精神科に入院しているの」

「幻覚?」

「典型的なアルコール依存症の末期症状がいくつか。最初は蟻の群れがなにもないところに見える、って騒ぎ出して、投薬で抑えたけれど、飲酒をやめられなくて肝硬変とか…いろいろ併発して、隔離施設に入られてるの」

「なんてこった…」

ヒロキは正直、言葉を飲み込んだ。

「…。でも、コロニー政府がちゃんとうまくやってくれてるんだろう?キミが気に病むことはないんじゃないのか?」

「コロニー政府が…?」

ファナがヒロキを見上げるように見た。

その表情から、ヒロキは自分の考えが甘いことを気づかされた。

「そんなわけ、ないな。キミに嫌な任務を強要してるくらいだから…」

ヒロキはふるえるファナの両手をとって、しっかりと握り締めた。

「キミが心を痛めている問題が一つでも減るように、俺はジラルドのことを話してあげるよ…」

ファナは自分でも気づかないうちに涙を流していた。

ヒロキはアルフレッドに後で謝るつもりで、ファナのためにプリズム星での出来事を語り始めた。

   ☆

 「ヒロキのやつ…、ファナとでかけてるのか…」

部屋の書き置きを見て、アルフレッドは一人、呆然と立ち尽くしていた。

仔猿はまだ彼に完全に慣れているわけではなかったので、首輪に引き綱をつけた状態だった。

ガチャリ。

玄関のドアが開くかすかな音がして、仔猿がアルフレッドの肩にするするとのぼった。

てっきりヒロキが帰ってきたのだと思ったアルフレッドは、入ってきた男の顔を見て血相を変えた。

「お前は!」

「久しぶり。ようやくまた会えたな。捜すのに手間取ったぜ」

ウィル・バートンはまるで悪気がないように話したが、その目は冷たく刺すようだった。

「わざわざ捜してくれるような事をした覚えがないんだがな」

アルフレッドにしては皮肉たっぷりの言いまわしだった。

ウィルは肩をすくめてみせると、間髪を置かず、いきなりアルフレッドの腹に蹴りをいれた。

「ぐはっ」

激痛に耐えて立ちあがりながら、アルフレッドにはウィルが手加減したことがわかっていた。本気のアンドロイドの力だったら今ので致命傷にもなりかねない。

「俺をまた殺しに来たのじゃないのか?」

「あんたを殺す?そうだな。それも面白いんだが、聞きたいことができたんで、それを聞き出して用がなくなったらそうさせてもらうとするか…」

「聞きたいこと?」

ウィルは神妙な顔つきでうなずいた。

「宇宙船からあんたをていよく放り出した後、うまく他のやつらをごまかすためにあんたの荷物を見せてもらったんだが…」

「なにもたいしたものはなかったはずだ」

「いや。とぼけなさんな。これがどうして、世界機密クラスのあんたの研究の成果がつまったマイクロフィルムが出てくるわ、出てくるわ。…ただしそのほとんどがダミーだったがな」

「…」

苦虫をかみつぶしたような顔でアルフレッドはウィルをにらんだ。

それは、アルフレッドが生まれ故郷の地球を離れるきっかけになった、とある研究のことだった。

「あんたが生きていたのは予想外だったが、生きていてくれてチャンスが残っていたってわけだ」

「なにがだ?」

「パスワード、だよ」

アルフレッドにはウィルの言っていることがわかっていた。

マイクロフィルムだけでも、常人だったらわからないように隠しておいたのだ。念には念を入れて、最終プログラムだけは、彼自身しか知らないパスワードでロックしてある。

もし違うパスワードを一度でも入力したら全てのプログラムが消滅する仕組みにしておいた。

ジャキン。

鋭い音をたてて、ウィルはジャックナイフの刃先をアルフレッドに向けた。

アルフレッドは、逃げた仔猿がふるえながら、部屋のどこかからアルフレッドたちを見ているのを感じた。

「…さあ、教えてもらおうか。それとも、ただなぶり殺されるのがお好みかな?」

ウィルが笑った。

何かないのか?対抗する手段は?

アルフレッドは素早く考えをめぐらすと、とっさに近くにあった消臭剤のスプレー缶をひっつかんだ。

「じたばたしなさんな」

高笑いをあげて、ウィルがナイフでわざとアルフレッドの髪を一房切り取った。

「消臭剤?俺はそんなに臭いかい?」

ばかにしたように、ウィルは笑う。

隙が、ない。

突き倒されて、見下ろしてくるウィルをにらみながら、アルフレッドは万事休すだった。

キキキー。

がたーん。

「?」

部屋の中を、ただ事ではないのを察知した仔猿が飛び跳ねた。

ウィルの気が、一瞬、それた。

「!!」

めらめらと、ウィルの着ている服が燃え上がった。

アルフレッドが、懐に入れていたライターの火を消臭剤のスプレーガスに引火して、ウィルの隙をついたのだった。

「た、助けてくれ」

ウィルの表情から余裕が消えていた。

偶然燃えやすい素材の服を着用していたらしい。

ウィルの端正な顔がすすで黒くなった。

ウィルは燃えながら踊るように部屋を通り抜けた。

そうして外壁のガラス窓に勢いよくぶつかった。

驚くほどあっけなくガラスは割れ、ウィルは高層ビルの窓からはるか下方へと落下して行った。

「…」

とっさのことに、アルフレッドは絶句したまま窓側へ走り寄った。

強風が割れたガラス窓から吹き込み、アルフレッドを威圧した。

彼はいつまでも立ち尽くしていたが、やがて足元にすりよって来た仔猿を抱いてなでてやり、

「ありがとう」

とお礼を言った。

「ヒロキが帰ってきたらどうやって謝ったらいいんだ?…っていうか、ウィルのやつ、あの様子だと絶対また現れるぞ」

なかばうんざりして、アルフレッドはつぶやいた。




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