第六章
第六章☆藍・コロニーコンピュータ
コロニー政府からようやくジラルド探索の許可がおりた。
「買い置きの煙草を忘れないように持っていかなくっちゃな」
と、アルフレッドは荷物の整理をしながらうきうきして言った。
「まぁ、ジラルドを回収したらすぐコロニーに帰ることになるだろうから、あんまり気を使う必要はないと思うけどなぁ」
修理中の自分の部屋に立ち寄って、そのありさまに渋面をつくったヒロキが、べつにそのことでアルフレッドを責めようともせず、そうとだけ答えた。
「?ファナから聞いたのか?」
「えっ?…ああ」
ヒロキはびくり、とした。
ヒロキの頭の中では様々な葛藤が起きていたが、極力アルフレッドに気づかれないようにしているらしかった。
「乗組員は、前回のプリズム探査のメンバーなんだろ?…クロスやホーシローとジラフがもめないといいんだけどな。なにか良い手はないもんかな」
「…メンバーのベラミー先生は入院中で行かないよ」
「えっ?誰か怪我したりしたら誰が診てくれるんだ?」
「医療用アンドロイドじゃないのか?」
ヒロキはただ肩をすくめてみせたが、アルフレッドはめったに言わないヒロキの皮肉の言葉かと思ってびっくりした。
(なにしろ、ヒロキの部屋をめちゃくちゃにしたのは、他ならぬアルフレッドと、それをつけねらうアンドロイドのせいだった)
「なにかあったのか?」
「別に…」
「ベラミー先生、そんなに調子が悪いのかい?」
「えっ?ああ、ベラミー先生ね。ベラミー先生は大丈夫だと思う」
心ここにあらずといった様子でヒロキは答えた。
正直、彼の頭の中はファナのことで心配事がいっぱいだったのだ。
それに、アルフレッドに今隠し事もしている。
早くジラルドやプリズム星関係のごたごたが片付いてくれないか、とヒロキは思っていた。
「変なやつだな…」
アルフレッドはヒロキを心配してなにか言おうとしたが、ちょうどその時仔猿がアルフレッドにかまってもらいたがったので、そちらに注意がそれてしまった。
☆
「ジラルド探索の期限は二週間。それを過ぎたら、彼をみつけていようがみつけていなかろうが、関係なく強制撤収です」
プリズム星に近づいてから初めてファナが決定事項を告げた。
なんで今まで言ってくれなかったのか?とアルフレッドは聞き返そうかと思ったが、ファナの無表情な、厳しい態度に聞けずじまいだった。
「ヒロキ、ファナはどうかしたのかい?前も確かにちょっとクールなところはあったけれど、今ほどじゃなかったぜ」
アルフレッドが聞くと、ヒロキはそれを無視した。
なぜか理由がわからないまま、アルフレッドは自分が孤立しているような気がした。
とにかく、ジラルドを迎えに行くのが自分でないと、厄介事が起こりそうなのは目に見えていた。それに、みんなには言えなかったが、アルフレッドはジラルドと連絡する手段があるから、すぐにジラルドを探し出せる。二週間も時間があれば十分だ。でも、自分が行く、とどうやってきりだしたらいいのだろうか?
悩むアルフレッドのその横でヒロキが一歩前へ進み出た。
「前回のときと同じように俺とアルを先に小型探索船で行かせてもらえないかな?」
ヒロキの思惑はわからなかったが、アルフレッドはその言葉を聞いて嬉しかった。
「誰か異存のある人はいるかしら?」
誰も異議を唱えなかった。
「じゃあ、そういうことで。ハニィ」
「「ハニィ…?」」
その場にいた全員がヒロキの言葉を聞きとがめた。
ファナが打って変わって真っ赤になると、取り乱した。
「そ、そうね。二人に頼むわ」
沈黙がおりた。
ヒロキは、ようやく、はっ、と気づいた。
「嫌だな、ジョークだよ、ジョーク」
彼が笑いとばすと、皆の乾いた笑いがそれに続いた。
まるでデートの現場をみんなに見られたような恥ずかしさを感じてファナは早々と自分の仕事に逃げた。
☆
小型探索船に乗ってプリズム星に降下するとき、アルフレッドはしごくまじめにファナのことをヒロキに尋ねてみた。
ヒロキは臆することもなく、
「いずれ彼女と結婚する約束をした」
と答えた。
「おめでとう」
と、アルフレッドは言った。
お祝いの言葉をヒロキは喜んだが、それでも微笑みにどこか憂いを漂わせていた。
小型通信機でジラルドとの交信を試みてみたら、すんなり数回のやりとりで居場所がわかった。
「歌姫館の近くだ」
「ああ。無人島から戻ったんだな」
アルフレッドとヒロキは前回と同じく、ア・イリスたちの村近くの森林地帯に小型探索船を隠して、歌姫館付近のジラルドの元へ向かった。
「俺は帰らない」
再会して、開口一番、ジラルドはきっぱりと言いきった。
「は?」
意味がわからず、アルフレッドは聞き返した。
「…と、いうか、厳密に言うと、帰れなくなってしまったんだ」
「なんでまた…」
「あれからオ・ランジュと結婚してね。今じゃ、子どもも一人いる。ジ・フィっていう名なんだ」
照れくさそうに言うジラルド。
アルフレッドは開いた口がふさがらなかった。
「なんてこったい…いつの間に」
アルフレッドは頭を抱え込んだ。
「どいつもこいつも春まっさかりかよ」
横でヒロキが聞き流しながら、くすり、と笑った。
とりあえず、ジラルドはアルフレッドの手土産の煙草をありがたく受け取り、新居へアルフレッドとヒロキを案内した。
幸せそうな家族が二人を出迎えてくれた。
お茶とお菓子を出してから、愛娘をあやしながら、
「今は歌姫をやめて主婦業に落ち着いているの」
と、オ・ランジュが言った。
すっかり母親の顔になっていた。
「ア・イリスとア・キラの姉弟はどうしてるんだい?」
おいしいお茶をすすりながらアルフレッドが尋ねた。
「ア・イリスは今では売れっ子の歌姫よ。ア・キラは何か別の仕事をしながら、ときどきア・イリスのマネージャーみたいなことをやっているみたい」
「そうか。みんな元気そうでなによりだ」
アルフレッドの横顔をヒロキがちら、と見た。
二人とも、ア姉弟に父親のア・イロニーのことを教えるべきか、常々悩んでいた。
「ねぇねぇ、ア・ルフレッドとヒ・ロキが来ている、って本当?」
青年に成長したア・キラが、息せき切ってジラルド宅にとびこんできた。
「こら!ひとんちに勝手に上がりこむな」
一応家長のジラルドがたしなめたが、その目は笑っていた。
「おう。しばらく見ないうちにずいぶんとでかくなったな」
アルフレッドは本当にしみじみそう思って言った。
「ア・キラ、待ってったら」
ふいに後から美しい娘がとびこんできた。
「「ア・イリスか?」」
一瞬、誰かわからなかった。
アルフレッドとヒロキはびっくりして彼女を見た。
以前一緒に過ごしていた時も、理知的でかわいい印象があったア・イリスだが、めざましい成長をとげて、大人の雰囲気までも漂わせていた。
いくらしばらく会わなかったからといって、この皆の変わりぶりは異常だった。
アルフレッドとヒロキはとある考えに至り、それを口にしようか、と思ったが、やめた。
「ア・ルフレッド。ヒ・ロキ」
ア・イリスが二人を見てそう言った。
そして、彼女はふいにヒロキの方を夢見るようなまなざしでみつめた。
ヒロキはちょっと居心地が悪そうな顔をした。
「空から、またここへ降りてきてくださったのね」
「え…、ああ、まあ、ね」
そんなやりとりを目前にして、アルフレッドはなんだか取り残されたような気がして、不機嫌になった。
「ジラフ。悪いが、煙草を一本わけてくれないか?」
「ああ。良いけれど。なんだ?いつのまにかお前さんも愛煙家になったのか?」
ジラルドはきょとんとして言ったが、そんなはずもなかった。
アルフレッドは吸えない煙草に火をつけてくゆらせると、せきこみながら思った。
「煙がやけに目にしみる」
と涙目になった。
「きみは知らないみたいだけど、誰かを助けに地上に降りてきたのは俺じゃなくて、アルの方だよ。以前、きみが意識不明で怪我をした時助けたのも彼の方だ…」
ヒロキがア・イリスに言った。
ア・イリスは昔から伝わっている神話の登場人物とヒロキを重ねて見ているらしかった。
それは前回別れた時から始終彼女の思考を支配していたので、ちょっとやそっとでは考えをくつがえすことはできそうになかった。
「プリズム星に危機が訪れるとき、闇からの使者が空から降りてくるの。その人は不思議な外見をしていて…」
言い伝えの闇の使者の外見にヒロキがそっくりなのだ、という。
「今、どんな危機が迫っているっていうんだい?」
ヒロキはいらいらした様子でとりあわなかった。
一方、ア・イリスの話を聞いて、アルフレッドはいつか見た夢のことをまざまざと思い出していた。
「まるでデ・ジャ・ヴみたいだな」
と彼はため息をついた。
「その動物は何?」
ア・キラがアルフレッドの肩の上におとなしくつかまっている仔猿のことを聞いた。
「ちょっと、なりゆきで譲ってもらったんだけど、…恩人ていうか、俺の相棒、みたいなもんだよ」
とアルフレッドは答えた。
そういえば仔猿にはまだ名前もつけていなかった。
ジラルド宅で出された食べ物を小さく、食べやすくちぎって与えながら、アルフレッドは仔猿をなでてやった。
動物はこちらが与えた分の愛情だけ、何か形のないものを返してくれる。
アルフレッドは仔猿の世話をしてやりながら、同時に癒されていた。
「でも、本当は…自然のままが一番良いんだろうな…」
アルフレッドは仔猿が生まれ育った地球の森で暮らしている情景を思い描こうとした。
しかし、彼の記憶にある地球の姿にはプリズム星で目にしたような豊かな自然などありはしなかった。
「この星はきれいだよな…」
「ふうん」
ア・キラが不思議そうにあいずちをうった。
「色覚が奪われてしまった今でさえ、俺は世界をきれいだと思えるのか…」
アルフレッドは驚嘆の思いを隠せなかった。
「いっそのこと、ア・ルフレッドもここに残れば良いのに」
ア・キラが言った。
アルフレッドはちょっと、心動かされた。
「…。しばらく考えてみるよ」
「うん。…ジ・ラルドたちとややこしい話が終わったら、また海へ魚釣りに行こう」
「ああ。それも良いな」
今度は簡易ナイフがあるから、ごちそうをみんなにしてやれるだろう。
アルフレッドは心から微笑んだ。
「地下遺跡にはあの後何度も調べに行った。文字の刻まれた石版が幾枚もみつかって、解読中だ。時間が必要なんだよ。だから、俺は今一緒にコロニーには帰れない。迎えに来てもらって本当に嬉しいんだがね…」
ジラルドは自分の幼い娘をあやしながら話した。
「コロニー政府に報告するとき、俺のことをありのまま伝えてもらってもかまわないよ。俺はオ・ランジュとこの子を育てながらこの星にこのまま永住しても良いと思っているんだ」
ジラルドの隣で心配そうなまなざしを向けていたオ・ランジュは感極まって泣き出した。
「話して良いのか?良かった」
ふいにヒロキが安堵のため息をついた。
「すまないが、実はファナだけにジラルドと地下遺跡のことを話してしまって…」
「なんだって?誰にも秘密だ、って言ってたろう?」
アルフレッドが驚いて言った。
「黙っていられなかったんだよ。すまない」
ヒロキはばつが悪そうに言った。
アルフレッドはなにか、嫌な予感がした。
その予感は始めはたいしたことはなかったのに、プリズム星でのんびりと過ごせば過ごすほど、胸の内のわだかまりとなって大きくふくれあがっていった。
「すまない。俺は空へ帰るよ」
ア・キラにそうきりだすのがつらかった。
「でも、きっと、また必ずここへ来るから」
アルフレッドの言葉に、ア・キラはただ、寂しそうに笑っていた。
☆
アルフレッドたちは再びコロニーへ帰還した。
ヒロキの部屋はすっかり修理が終わっていた。
アルフレッドも新居の手配がなんとかすすんでいたので、しばらくしたらそちらへ移ることになりそうだった。
「餞別にこんなもんで悪いけど、やるよ」
ヒロキはそう言って、ホログラムオルゴールをアルフレッドに手渡した。
「もらってもいいのかい?」
「俺には不用だから」
ヒロキはそっけなく言った。
それは、自分はもうあのプリズム星とは無縁なんだ、という意味にとれた。
アルフレッドは幼かったころのア・イリスの映像を見ながら、成長して美しくなっていた少女のことを想った。
そこへ、ファナが血相を変えて飛びこんできた。
「ヒロキ、アルフレッド、大変よ」
「何があったんだい?」
「コロニー中央管理局のマザーコンピュータがプリズム星を攻撃する命令を出したの」
「「何だって?」」
二人の男は同時に叫んだ。
「見たことのない、最新型の攻撃艇がたくさん…あったの。無人操縦らしいわ」
ファナの足元が、がくがくふるえていた。
ヒロキは彼女をソファに座らせると、ガラスのコップに冷たい水を入れて持ってきた。
「ああ、ごめんなさい。きっと私のせいだわ」
「なぜ?」
「上層部にあの星の地下遺跡のことを報告したら、ある一定基準以上の異文明の存在は人類を脅かすから、せん滅させてしまおう、って結論が出たらしくて。なんとかして止めなきゃ…」
三人はああでもない、こうでもない、と話し合った。
「最終決定権はマザーコンピュータにあるの」
「なぜ、機械なんかに」
嫌悪感をあらわにしながらヒロキが言った。
「リゲル恒星系を開拓した当初から、どんな事柄でも最終的な決定はあのコンピュータにゆだねられてきたのよ!」
「…俺は、できればファナの気持ちをかき乱す全てのものから開放してあげたかったんだ!プリズム星の任務が終わったら、今の役職を辞めて、俺のところへ来てくれる、って約束したじゃないか」
「だめなの…。私は今の役職に就くための教育をコロニー政府から受けさせられたのよ」
「じゃあ、あの約束は嘘だったのか?」
「そうじゃない…そうじゃない」
二人の様子を見ていたアルフレッドはとにかく、感情的になった二人を落ち着かせた。
「できることをできるだけやってみよう。なにもせずに手をこまねいているよりも、まず行動しよう。結果はあとでわかる。」
「ああ。…ファナ、中央管理局のマザーコンピュータにアクセスしたい。ここじゃ無理なんだろう?できるところへ俺を案内してくれ」
ヒロキは静かに言った。
「ファナ。ヒロキは、きみのために行くんだよ」
アルフレッドの言葉に、ファナも心を決めたようだった。
「俺の方は、その攻撃艇とやらの方へ行ってみる」
アルフレッドは不思議ななにかに導かれるようにそう決めた。それは、なにがしかの予感のようなもので、理論的な理由はなかった。
「健闘を祈る」
三人は行動を開始した。
☆
「ヒロキ」
「なんだい?ファナ」
「言っておかなければいけないの。マザーコンピュータについて」
「うん?」
「コロニー生まれの私たちは、親元ではなく、政府管理の施設で教育を受けて育てられて、それぞれの適性にかなった仕事に就いたり、あるいは親元に返されたり様々よね?」
「ああ。俺もそうだった」
「私は、ある特殊な事情で、マザーコンピュータの支配下にあるの」
「なんだって?」
「生まれつき脳波に異常があって、私個人だけでは今まで生きていられなかったでしょうね。マザーが、私の日常生活をサポートしてくれているから、こうして今あなたとも話しができる」
「…ちょっと、待ってくれ意味がつかめない」
「上層部にプリズム星のことを報告した、と言ったのは嘘なの。私が見聞きしたことはそのままマザーの見聞きしたことになるの」
ヒロキはぎょっとしてファナを見た。
「ファナ。だから言ったでしょう?彼に話したら嫌われると」
ファナの中の別の人格が言った。
「マザー。それでも私は黙っていられない」
ファナは一人で会話を始めた。
「ヒロキ・ホシノ。ファナはあなたには似合わない。おとなしくあきらめて帰りなさい。コロニーや人類の発展は私の課題。あなたはあなたの領分をわきまえていきなさい」
ふいに、無表情なファナが、マザーコンピュータの言葉を告げた。
「…ちょっと、待て」
「え?」
「俺は、俺の意思でファナを選んだんだ!似合う似合わないは誰にも聞いちゃいねぇ」
ヒロキは燃えるような目でファナを見た。
「これは、驚いた」
マザーコンピュータはくすくす笑う。
その笑いがヒロキの怒りに拍車をかけた。
「お前の領分は何だ?たしかにコロニーや人類の発展は課題かもしれない。だが、個人個人をなんだと思ってやがる?人類はにんげん個人の総称だ。昔の思想家が(最大多数の最大幸福)を提唱したのと似てやがる。お前のそれは、より多くのために少数を犠牲にするやりかただ」
「…」
ファナの中のマザーコンピュータの人格はおもしろいものを見るようにヒロキを見ていた。
「俺にはお前の考え方が、一人のにんげんが不幸でも大勢が幸福なら良いって考え方に思える。」
「…では聞くが?なぜお前…いや、お前たちは、自分たちにんげんの脅威になりそうな芽をつんでやろうとする私の邪魔をしようとするのだ?」
「脅威?プリズム星は脅威じゃない。彼らは少なくともお前みたいに未知のものに対して攻撃をしかけたりしない」
「…」
「俺たちにんげんは一人一人違う生き物だと俺は思う。物の見えかた、考え方、十人いれば十通りの答え。それでも、共感したり、信じあったりして生きている。にんげんは地球で他の動物たちともそんな風にして共存してきた。…あの星に生きている、地球派生ではない彼らも多少の違いはあってもやっぱりにんげんなんだよ」
「では、ヒロキは、私に人類を守る義務があるのなら、あのプリズム星にいる人類も守る義務がある、…と」
言いながら、ファナの表情が、なにか他に気がかりな事を考えている風だった。
「ヒロキの言い分にも一理ある。にんげんはにんげん同士争って戦争を起こしたりもした。それは互いの不理解からか、そういう生物だからなのかは私にはわからないけれど、私の義務に(平和)の理念が組みこまれているから、私は私のその義務を果たそう」
「じゃあ、プリズム星への攻撃はやめてくれるんだな?」
「ええ。…それに…」
「それに?」
「おもしろい。実におもしろいことになった…」
「?」
ふっと、ファナの人格からマザーコンピュータの人格が消えたようだった。
ただ、ぼんやりと立っているファナをヒロキはそっとゆさぶった。
「ファナ?ファナ。きみだよね?」
「…知らせなくちゃ」
「えっ?」
「アルフレッドに知らせなくちゃ!」
真っ青な顔で我に返ったファナはヒロキに訴えた。
☆
攻撃艇の型を見て、アルフレッドはある種の戦慄を覚えた。
それこそがアルフレッドの発明した光子帆船…光量子を帆で集約して航行エネルギーに変換する新型の宇宙船。
あのウィル・バートンが手にしたはずの情報がコロニー政府の下で活用されている。
格納庫にずらりと並んでいる宇宙船にはどれも破壊力の大きな武器がセットされていた。
「そうだよな…。肝心のデータは今もパスワードで封印されているはずだから、最悪のことには至っていない」
アルフレッドはひとりごちた。
それに、…どういうわけか、静けさがここにはあった。
「攻撃はどうなったんだろう?」
手近な端末からホストコンピュータにアクセスしてみると、つい今しがた攻撃中止命令が出たことがわかった。
アルフレッドは心底ほっとして、胸をなでおろした。
すると、ふいにどこかからアルフレッドの端末へ誰かがアクセスしてきた。
「なぜ、この端末を知ってるんだろう?」
アルフレッドはぎょっとしながらとにかく通信回路を開いた。
「「アルフレッド!」」
身を乗り出して二人そろって声を出している映像がアップになった。
「ヒロキ!ファナ!…お前ら、よくやってくれたな」
感涙にむせぶ暇も無く、アルフレッドは、二人のただならぬ様子に鼻白んだ。
「…巨大彗星だって?」
事情を聞いて、アルフレッドはぞっとした。
「そうなんだ。コロニーは星間の重力変化に合わせて軌道調整するのを最優先事項にしたので、とりあえずプリズム星攻撃命令は取り消されたらしい。ただし、この彗星を放っておくとプリズム星の軌道とぶつかって衝突する恐れがあるんだ!」
「なんてことだ…」
アルフレッドは取り乱しそうになった。
ア・キラやア・イリス、ジラルドたちの笑顔が一瞬、脳裏をよぎった。
あの素晴らしい惑星が消えてしまうのか?
「ああ…、だけど、なんであろうと最後まであきらめちゃならない。いつだってそうだ。どんなときだって何か打開策があるはずなんだ…」
ヒロキとファナは無言でアルフレッドが決意するのを見守っていた。
二人は固く手をつないで、ただ、アルフレッドに希望を見出そうとしていた。
「二人は攻撃を中止させてくれたんだもんな。今度は俺の番、だよな」
アルフレッドは微笑んだ。
「いや…俺の力じゃなくて、偶然が重なったから…」
ヒロキはもごもご言った。
「いいえ。あなたの言った言葉もちゃんとマザーコンピュータに届いたのよ」
ファナはヒロキの顔をのぞきこんで言った。
「そうかな…」
ヒロキは、胸が痛かった。
「ヒロキ、ファナ。俺は行くよ。…もしかしたらだけど、彗星の軌道を変えることができるかもしれないんだ」
「本当に?」
「ああ。確信は持てないけれどね」
そういって、アルフレッドは近くにある宇宙船を真剣なまなざしでみつめた。
彼の頭の中で何かがめまぐるしく働いていた。
「きっと、大丈夫だ。…いや、なんとかしてみせる…」
そう自分に言い聞かせるように、アルフレッドはつぶやいた。




