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連絡事項

日付が変わりましたが連続投稿2話目

その夜、ルイとクラウで通信具を使って、グランドルとアリエルに連絡を取った。

まずルイとクラウが結婚すると報告したら、酷く驚きながら、特にアリエルが喜んではしゃいでいた。

ただし、1ヶ月後に結婚する予定と言ったら、不満を垂れられた。

『どうせなら一緒にしましょうよ。クラウ! 一緒に結婚式しましょ! 姉妹揃ってって素敵じゃない?』


音声だけが届く中、ルイはクラウが息を飲むように驚いたのを隣で気づいた。

様子を見やると、顔が強張っていた。

口を開きかけて、言葉が出ない様子に、おかしいとルイは思った。


嫌がっている?


ルイはとっさに会話に参加した。

「アリエルさん。あの、アリエルさんとグランドルには、勝手にで申し訳なかったけれど、私たちから贈り物があるんです。ドレスで、ぜひそれを式に来て欲しいと思っています。ねぇ、グランドル。私たちの贈り物のドレス、アリエルさんの事を考えて一生懸命作ったものなんだ。絶対きれいだと思うんだ。それを着て結婚式をしてもらいたいと思ってる。駄目かな」

ルイは話の途中でグランドルの方に呼びかけた。

グランドルは今では当然のようにアリエル最優先だが、アリエルを引き立てる贈り物である上に、ルイが二人を思って考えたものだと訴えたなら、きっとルイを支持してくれるだろう、と踏んだのだ。


『なるほど』

友好的な口調でグランドルが答えたので、ルイはさらに畳みかけるように訴えた。


「あの、私がクラウと早く結婚したくて待てないんだ。今日明日でも良いと思うぐらい。それを1か月後でOKをもらった。だから先延ばしなんてしたくない。でも、グランドルとアリエルさんは式は焦ってないんでしょう。お願い、グランドル、親友の、それからアリエルさん、義理の弟の願いと思って、私たちは先にさせて欲しい。そしてアリエルさんには完成したドレスを着てほしくて、グランドルにはアリエルさんのその姿を見て欲しいんだ!」

ものすごく長文で訴えた。

クラウがルイの熱意に驚いてルイを見るので、ルイは目で笑いかけた。


きみは、たぶん、お姉さんと一緒に式を挙げるのは嫌なんだ。

理由は分からないけれど。

お姉さんの事は好きなのに、嫌だと思う事があると察しただけ。


『えー』

とアリエルが向こうで不満そうだけれど、グランドルがルイの熱意を楽しんだようだ。

『良いではないか。私も、ルイが贈るというドレスを、あなたが着ている姿を見たい。何も同時にしなくてもよいだろう?』

『だってクラウと一緒の方が楽しいもの。・・・ねぇ、クラウ』

アリエルが拗ねている。

呼びかけられて、クラウがやはり戸惑っている。


どう答えるのか、ルイは気になって様子を見る。

クラウと目が合った。困っている様子で、ルイは確信した。

クラウはアリエルと一緒は嫌なのだ。


少し、分かる気がした。

もしルイが、兄、例えばカルーグと一緒に結婚式と言われたら確かに嫌かもしれないな。

兄の事は大好きで自慢だけれど、兄が立派で自分がきっと惨めになる。


勘違いかな?

理由はどうでも良い。


ルイは耳元で小声で確認した。

「クラウの希望に沿う。一緒は嫌?」

少し震えるようにクラウが俯くように頷いた。


あぁ、この人はきっと、色んな嫌な思いをしてきたのだ、とルイは察した。


理由とかは教えてくれなくても構わない。ただ希望に沿うだけだ。


頷いたことで落ち込んだ様子のクラウの手を握り、クラウに笑む。


怖がることはないし、自己嫌悪に陥る必要もない。

避けたいと思う事があるのは人として当然だとルイは思う。


誰だって万事肯定して協力して明るく生きていけるわけじゃない。

大切なのは、暗さを肯定して共にいる誰かを得る事じゃないんだろうか。友人であったり、恋人であったり、家族であったり。


「ごめんなさい、アリエルさん。どうか許してください。先に結婚させてください。式にはどうか参列者として、家族として出てください」

『もぅー。仕方ないわねぇ』

呆れたように、けれど最後はおかしそうにクスクスとアリエルが笑う声が届いた。


クラウがほっと安堵して緊張を緩めたのが、印象に残った。


***


ルイとクラウの結婚式は、日にちを決めて、グランドルとアリエルが迎えに来てくれることになった。教会の予約はアリエルがしてくれることになった。

その後、未だに閉店中のアリエルたちの店で宴会をするという事に。食事はアリエルが作るらしい。任せよう。クラウの料理で、硬い料理には慣れているし。


参列者として『アンティークショップ・リーリア』のジェシカたちとバートンにも声をかけて、OKしてくれたら、グランドルも一緒に背中に乗せて連れていってくれると言ってくれた。嬉しい。

とはいえ、皆自分の店で忙しいからOKが貰えるのか分からないが。


一方、グランドルとアリエルの式についてだが、アリエルはやはり参加者が多くなるのを嫌がった。

先ほど、ルイの希望『先に1か月後に式をさせて欲しい』を通したばかりなので、ここはアリエルの希望を優先させるしかないとルイは思った。


とはいえ、グランドルの親族代わりとして、祖父か父1人ぐらいは来ても良い、という話だ。

つまり大規模にしたくないらしく、加えてアリエルはグランドルから聞かされて、ルイの家が隣国トリアナの貴族だと知っていた。貴族をもてなすのは手に余るそうだ。


アリエルの方の出席者は、クラウ1人だけ。他は事後報告で良いとアリエルは言った。

少し不思議だと感じたが、アリエルの方にも色々人の知らない苦労があったのかもしれない、とルイは思った。


***


通信完了後、ルイは家族に手紙を送った。

1か月後、結婚する事。相手は聖剣『戦乙女の剣』に選ばれたクラウだという事。

クラウの故郷の教会で式を挙げる事。

グランドルとアリエルに参列してもらう事。

諸事情のため、申し訳ないが実家からの参加者は不要である事。


「絶対怒られるな」

確信してポツリと呟きつつ、ルイは手紙を魔方陣で転送した。

ちなみに式に実家からの参列者を断ったのは、まぁ別に良いかと思っただけである。

冷たいだのなんだのと言われるのは間違いない。

でもほら、実家もルイ離れをしても良い頃だと思うんだ。うん。


***


翌日。


クラウは朝食後、いつものように『アンティークショップ・リーリア』へ。

ジェシカたちに式へ参加してもらえるか聞いてくるとも言っていた。

ついでに、式に着る服をジェシカたちと相談して決めたらどうかな、とルイは言ってみた。

多分、その方がクラウが楽しそうに決める事が出来そうだな、と思ったからだ。それにジェシカやシーラなら、きっと良いアドバイスをしてくれるだろう。


その後はクラウは今日は1日外出だ。宝箱の内装のために、町を見て回るからだ。


だから久しぶりに、ルイ1人が店にいる。

注文があるので、店には立たず、奥で作業。案内板だけ『OPEN』にしておく。


今日も午前から『音声記憶装置の簡易版』3つめに取り掛かる。今日でこちらは完成の予定だ。その後は4つ目に取り掛かることになる。


黙々と仕事に取り掛かる。

ふと気が付いたら店内はとても静かで、中には誰の気配もない。

裏通りは人通りが少ないから音も少なくて、表通りは店内のしきりがあるからあまり音が聞こえない。

クラウが店にいないからか、扉を開ける誰かが現れる事もない。


「・・・」

世の中に取り残されている気分だな、とルイは思った。

クラウが来る前は、毎日こんな風だったんだな。不思議だ。

誰かが静かに、けれどちゃんといてくれることが当たり前になっていた。


自然にクラウが来てくれた幸運に思い至ってルイの口角が上がる。

幸せだと思う。


一方で、ルイは呆れたような視線を棚に向けた。

手紙が届いている事を知らせる光が何度も瞬く。つまり、何通も送られてきているのだ。

「昼休みにまとめて読みますから」


誰も聞くはずはない店内で、ルイは手紙に向かって苦笑しながら声をかける。


そしてまた、空腹で昼食の時間が過ぎていると気づくまで作業に取り掛かるのだ。


***


愛するルイへ。


結婚とは! どうして私たちを参列させないのか! 一度戻りなさい! 盛大に祝いたいこの気持ちを一体どうすれば良いのか! 私たちにも是非祝福をさせなさい!


***


愛するルイへ。


お前の手紙で我が家は大騒動だ。困ったことに叔父上が漏らしてしまったから、王宮でも大騒ぎだ。

お前の居場所は隠し通すけれど、万が一と言う事もあるから、突然の訪問者に気を付けなさい。


***


愛するルイへ。


あんなに小さかったルイにと母の胸は一杯で、涙が止まりません。

きちんと相手を大事にするのですよ。我儘をいってはいけません。


***


愛するルイへ。


クラウさんってどんな人なの!? グランドルに頼んで是非家に連れてきて! 会いたいわ! 聖剣に選ばれたのだからとても強いのだと期待しています。一度手合わせを願いたいわ。妹ができるって素敵!


***


愛する家族へ。


店が順調で、申し訳ないけれど実家に戻るのは少し先になりそうです。

皆の愛が強すぎて驚きを禁じえません。どうか皆、落ち着いて。セナお兄様の時、どなたもこのように騒ぎ立てなかったではありませんか。

それからクラウが了承してくれたのは私にとって奇跡だと思っていますので、どうか騒がず暖かく関係が落ち着くのを見守っていただけますと私がとても心強いので、どうぞよろしくお願い申し上げます。


***


愛するルイへ。


慇懃無礼! あんなに可愛かったのに可愛くない事を書いてくるとはなんという祖父不幸者か! というのは嘘だ。しかしお前たちに会いたいと願うこちらの心境はどうか察しておくれ。

1か月後の式は泣く泣く見送っても良いが、必ず実家に顔を出しなさい。


***


愛するルイへ。


あなたに素敵な人が出来たのを心から喜んでいますよ。皆が湧き上がっていて困りものですね。でもそれだけ愛されているという事よ。ただ、私たちの参列を断ったのは賢明な判断です。王妃様たちも出席を望まれることになってしまいますからね。そういってお祖父様たちを諭しておきましたよ。

でもやっぱり可愛い孫の晴れ姿を見たいわ! ぜひ会いに来て!


***


愛する家族へ


心から感謝します。本当に有難う。必ず実家にクラウを連れて行きます。

それから皆様お忘れかもと心配になりましたので改めてご連絡いたしますが、グランドルも結婚するのですよ。お祖父様かお父様かどちらかお一人のみ許されましたので、どちらが行かれるか、ご予定もどうぞ決めてくださいね。私も参列いたしますので、どこかで合流して共に向かうのも良いかもしれません。まだ先の話ではありますが。


***


愛するルイへ


お祖父様は高齢のため、父が権利を勝ち取ったよ。アリエルさんの希望は叶えられるべきだ。

迷惑にならないように配慮したいので、また色々相談をさせてもらいたい。頼りにしているよ、ルイ。

それから、お前も家族を持つのだから、家族を立派に育て上げているこの父に相談したいことがあれば何でも聞くと良い。頼りにしてくれる日を楽しみに父は待っているよ。


***


返信してもすぐ届く頼りに苦笑しながらも、幸せだとルイは思う。

家族とは遠くあっても家族だというのは本当だと実感する。


クラウにはアリエルさんしか残されていないのか、とふと思い至って気持ちが引き締まった。


自分の家族を紹介するのは負担かな。

でも、義理の家族になるのだろう。心強く、好きになってくれたら嬉しいな。クラウが嬉しく思ってくれたら、嬉しいな。


***


やっと『音声記憶装置の簡易版』3つ目が完成した。

動作結果も問題ない。

ふぅ、と一息ついて、ルイは4つ目の作業に取り掛かった。

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