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絶対に魔道具売って生計を立てる  作者: 天川ひつじ
第2章 つながり
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ルイ、龍の訪問停止に首を傾げる

ルイは、居住区側で首を傾げた。

一時、龍のグランドルが頻繁にこの店に遊びに来ていたのに、急にパタリと訪れが無くなったのだ。


最後の訪問日を思い出してみれば、来なくなってから1ヶ月。

その前の1ヶ月間、かなりの頻度で来ていたので、飽きたのかもしれない。


だとすれば、彼の置き土産はかなり迷惑だ。

龍のグランドルは、人の姿はかなりの美形で、とにかくモテる。町を気軽にブラブラ歩いていた彼は、まんまとルイの店に様々な年代の女性客を呼び込んだのだ。


何も買わない。店内を見るふりをするだけで、ずっといる。

ひたすら、グランドルが店にやってこないかを期待している。


本気で帰って。もう来るな。

ルイは心底願い、居住区の方に引っ込んで、女性客が諦めて帰るのを待っている。


ちなみに、結界作成具は、害意のない人には効かないので、女性客を阻むことはない。


ルイには打つ手が無い。

グランドル自身が遊びに来てくれていたら構わないが、女性だけが店に残ったとなるとかなり悩ましい。


でも、そろそろ魔法石を『アンティークショップ・リーリア』に売りに行かないと。

女性客が切れ目なく来ると、店を『CLOSE』にして外出ができないから、売りに行けない。

もう5日も行けていない。機械人形の店長ジェシカの動力はルイの魔法石をあてにしてくれているので、動力が切れないか心配だ。


今日はもう難しそうだから、明日こそ、店を初めから『CLOSE』にして、行かないと。食材だって買い込みに行きたいし。


***


翌朝。


「ルイ様」

午前中だというのに、雑貨店『アンティークショップ・リーリア』には、いつもに増して不機嫌な店長代理シーラが立っていた。


「あの、店長ジェシカさんは?」

ルイが心配になって尋ねる。

シーラは不機嫌そうに目を細めた。

「5日も魔法石の買取ができませんでしたので、先行きを不安に思いまして、店長は昨日より店頭には立たせておりません」

「申し訳ありません」

ルイは素直に詫びた。

シーラはため息をついた。

「当方より買い付けに行こうと足を運んだのですが、どうやら店頭にも出てこられない様子でしたので」

「えっ! 来てくださってたんですか!」

「えぇ。店で、ご病気ではと心配も致しましたので。違う事が原因だと判明いたしましたが」


ルイは心から詫び、自分の知人目当ての女性たちが押し寄せて、店を閉めて出てくることが難しかったことを説明した。


ルイはこの5日間で溜まっている魔法石をカウンターに出しながら、提案した。

「しばらく、なかなか店が抜け出せなくなります。それで、私としても、店長さんの事が気になります。ですので、私の魔道具を、こちらでお買い上げいただけたらと考えます。置いているだけで、魔法石に魔力を溜めます。1日3つのペースです」


シーラは無言で、ルイの持ち込んだ15個の『熱』の魔法石を見つめていた。

1つをつまみ上げ、光に透かすようにして見る。

「いいえ・・・。それはきっと私どもを思って提案してくださっているのでしょう」

「・・・はい」

「けれど、この質は、器械をお売りいただいても無理なのです」


シーラの言葉に、ルイは驚いてシーラを見つめる。シーラは、次の『熱』の魔法石を、同じように光に透かして見るようにした。


「ルイ様は、私共が自ら魔力を込めないのか不思議に思われたことはありませんか」

「え・・・」

すみません、考えていませんでした。単純にそんな時間は無いのだと思っていた。


「ルイ様は、酷く『熱』の魔法石と相性が良い。私どもが込めても、このようになりません。これは魔道具によって魔力を込めたとおっしゃいましたが、恐らくルイ様の支配する空間の中で作られていることが原因で、ルイ様の影響がかなり読み取れます」

シーラがルイの目を見つめ返し、淡々と説明した。


「他のものでは、必要数が多くなる上に、濃度が均一ではなく質も保てません。店長にとって万全では無いのです。その点、ルイ様のものは質が良いので店長も最高の状態に保てます。・・・ですから、ルイ様には、私共が訪問すれば、店頭に出てきてくださるだけで良いのです」

どこか遠くを見るように、言ってから、シーラはルイを凍えるような視線で見つめた。


出て行かなくて申し訳ありませんでした。

ルイは詫びると同時に、愚痴のような口調で相談した。本気で困っているからだ。

「知人がモテすぎて、私が出るだけで質問攻めに合うんです。来ない、居ない、と言ってもだらだら居座るんです。どうすれば良いでしょう」


無言の時が流れた。


シーラは言った。

「ご自分の店の事なのです。なんとかしてください」


その通りなのでルイは項垂れた。


なお、33,000エラ×15個分の代金を貰うところを、今回は迷惑を駆けたので、10個分だけ貰う事にした。


そもそも、この店を資金源に、ルイはすでに1000万エラを軽く超える現金を持っている。

単純に、1日99,000エラが売れ、1ヶ月は28日。つまり1ヶ月で、277万エラちょっと入金があるのだ。食費や材料費や雑費を抜いても、毎月相当な額が手元に残る。

この金額を払い続けるこの店もすごいが、ルイもこれで良いのかと疑問になってきた。値下げを提案した方が良いのだろうか、と。

今までに申し出た事はあるけれど、店長ジェシカは目を丸くして、「これでも安いお値段ですヨ!」と言った。


ルイは改めて提案することにした。

「シーラさん。毎日買取をしていただいてとても助かっています。それで、あの、買い取り価格を下げさせてもらってもやっていけます。1個25,000でいかがですか」


「ルイ様には、野望というものは無いのでしょうか?」

「え?」

シーラの真顔にルイはたじろぐ。


「仮にも魔道具店を名乗っておられるのなら、豊富になった資金を元手に夢を形に現したいと思わないのでしょうか。そのようにして人は進むものではないのですか」


うっ。

ルイは言葉が返せなかった。


「と、とりあえず・・・では、あの、今まで通りで、お願いいたします・・・」

「かしこまりました」


なんだか色々怒られた気分で、ルイは『アンティークショップ・リーリア』を退出した。


***


バートンさんの店で大量にものを買い込む。


それからギルドに行って材料を注文する。同時に前回の注文分を受け取った。本当は品物を店に持って来てくれていたのに、ルイが現れなかったのだという。本当にごめんなさい。


瓶詰も食べつくしていたので、ルイは瓶詰の店にも寄る。

瓶詰を軽くするアイディアを話してきた。けれど提案した2案は没になった。

一緒に悩んでから、では、両手に嵌めるリストバンドはどうだろうかと提案した。瓶限定で重さを軽減する。

喜んでくれたので、ご希望のサイズを確認の上、予算を提示してきた。

魔法石を繋ぎ合わせて包めばいいだけだから、売値は20,000エラ程度でできそうだ。調整もするので3、4日は作成に時間を取る事を伝えると、店主はそれで納得してくれた。

作り始めて良さそうだ。


それから、ルイは懇意にしている家具屋にも行った。前に頼んでいた、音声記憶装置の簡易版の外枠を受け取りに。

こちらでも、「届けに行ったんだが、店内にお客が多くて入れなくてなぁ」と言われてしまい、ルイは謝った。


***


自分の店に戻ってきたルイは、複数の連れ立った女性たちが自分の店を、ガラス窓の外から覗き込んでいる様子を見て辟易へきえきした。

「今日休みなの? えー、中、暗くて全然みえなーい」

などという甘えたような声が耳に入って気が滅入る。

ルイは抱えた荷物を手に、そっと裏口に回った。


店に裏口がついていて本当に良かった。

なお、こちらの出入り口に関しては、女性が一切立ち寄れないようにと、対象をかなり特定した結界を張ってある。ルイが登録した人しか利用できない。今のところ、ルイとグランドルだけだ。

ちなみにこの裏口を当てにする人は、裏の通りから踏み入れることができない仕様にしている。かなり頑張って作った。


それなのに。

ルイはギョッとした。

自分の店の裏口に、人相の悪い若い男が、あぐらをかいて座り込んでいる。


どういう事だ。いや、裏口の前で休んでいるだけかもしれない。だから結界も効かなかったのだ。


傍に立てかけてある、むき身の剣は、一体なんだ・・・?


男は、荷物を抱えたルイが裏口の前に立ったのを目つき悪く睨み、ぐっと立ち上がった。

男にしては背が低い。小柄なルイより少し高い程度だ。

立ち上がって、ゆっくり立てかけてある剣の柄を握り込む男を、ルイは警戒した。


おかしい。害意があるものは、やはり店に近づけないようにしているのに。

害意が無いというのか? どういうことだ。


緊張でぐっと身を固くしながら、けれどルイは柔らかくなるよう努めて頼んだ。

「あの、私の店なので、そこをどいてもらえませんか。入れない」

「あんた、ルイ=ヴェンディクスか」

低いが、見た目より若いような質の声だった。


「・・・そうですが。何かご用ですか」

「用があるからずっと待っていた。龍のグランドルに聞いた。ここから入れるっていうのも」

意外な名前に、ルイは目の前の男を見つめ直した。

「グランドルと、知り合いなのですか」

と思わず確認してしまう。

「あぁ」

忌々しそうに、その男は頷いた。


***


とりあえず、裏口から店内に案内した。

それにしても、剣をむき身で持っているのはどうしてだろう。男の腰には鞘も無い。

冒険者にしても、普通は、剣を持っている事は珍しいわけではないが、鞘に納めているものである。

すぐにルイに攻撃を繰り出せるように・・・というなら、結界作成具の作る結界がこの男を拒んでいるはずだ。

と考えてから、ルイは気づいた。ルイとグランドルしか使えない裏口を、どうしてこの男は通れたのか?


ルイは悟られないように慎重に動きながら、とりあえず持っていた荷物をテーブルに置いた。

大きなテーブルだけれど、すでに開発中の道具や素材がおいてあるから、場所を選ばないとものも置けない。


「それで」

ルイが、声をかけた時だ。


グゥウウ、と音が響いた。


ルイが無言になる。

男は顔をしかめてお腹を抑えた。腹が空いているようだ。


双方無言で、じっと相手からのアクションを待つ。


男が黙ったままだったので、ルイの方が先に負けた。男がテーブルの上に置いた食材をジィっと見つめていたせいもある。

「何か、簡単なものだったら作れますが。お口に合うかどうか・・・」


男は、無言でコクリ、と頷いた。


どうしてこんな得体のしれない相手に自分は料理まで作らなければならないのか、とルイは思ったが、グランドルの知り合いだと思い出して自分を宥める。


それにしても、一体何だ。


***


男は黙々と、しかし勢いよく出した料理をたいらげた。恐ろしく早食いだ。

味については何も言わないが、食べ終わって満足そうに目を細めたのを見ると悪くはなかったようだ。

料理の技術が向上しているようでルイの気分は密やかに向上した。


食べっぷりの良さに、ルイはついでに、バートンの店に押し付けられた本日ギリギリ食べられるという果物の皮をむき、出してやった。

「ありがとう」

ニィ、と目を細めて笑うさまに気が緩みそうになる。

いやいや、まだこれが誰かさえ分かっていない。

ルイは微笑み返しながら、警戒を怠らないように気を引き締める。


カラン

軽い音がして、男が机の脚に立てかけた剣が倒れた。

ルイはそっと近寄り、手を伸ばす。取り上げようとしての事だ。

だが、先に男の方がパッと手を伸ばして、倒れた剣を引き寄せ、柄を握った。


そして、ルイを一睨みする。動きが読まれたようだ。ルイは焦る気持ちを隠して、柔和を装い一歩退きかけ・・・あれ、見た事あるぞ、と気が付いた。

ルイは不自然にならない態度で、剣を凝視した。

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