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絶対に魔道具売って生計を立てる  作者: 天川ひつじ
第1章 店を開こう
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とにかく稼ごう

ルイは、魔法石を売った店を出て、自分の店に戻る道すがら考えて歩いた。


魔力入りの魔法石を買うのは、富裕層、貴族なのかもしれない。だから品物が店頭に出ない。


ルイの家でも、長年の付き合いのある商人が家にやって品物を売る。店になど行かない。

恐らく他の貴族も同じだろう。


だからルイが直接、40,000エラで買うような客に売る事はできない。

ルイは少しでも高い値段で買ってくれる店を選び、そこに売るのが今のところ一番良い。


ルイは黙々と考える。


魔道具は作りたい。魔道具を作って売りたい。

だが、その前に生活のためのお金が足りない。


そして、魔道具を作って売るよりも手っ取り早く、現金を手にする方法は、魔法石に魔力を入れて売る事だ。


ルイは店に戻り、カギを開けて扉を開けた。

まだ借りた時の状態のままの店内に踏み込む。扉を閉めてカギもかけて、店内を眺める。カウンターを超えて奥に向かう。


ルイは、歩を進めてゆっくり床に座り込み、床に置いた素材の一つを手に取った。


作るべきは。

「魔力を込める器械だ」

あくまで、ルイ個人の道具として。


***


ちなみに、ルイはすでに『何らかの手段で魔法石に魔力を貯める』ものを開発済みである。

1つは、魔力分解装置。戦闘時に魔法石に魔力を込める。

1つは、結界作成具。日々使うものだから、魔力を補給する装置も組んである。


「とりあえず『熱』が良いかな」

熱の魔法石の数が一番多いし、売値が間違いなく高いのも分かっている。


特異体質も手伝って、ルイは『熱』の魔法石に、人よりも簡単に魔力を込めることができる。

ルイが握っているだけで魔力は溜まっていく。ちなみに、ルイの場合は力を込めた分お腹が減るのだが、食費の増加など問題にならないほどの高値で売れる。

しかし、数に限りがある。意識するようにしても1日2,3個だ。


あれ。そう考えると、ルイでさえこのペースだから、他の人はもっと日数がかかるという事だ。

なるほど、高価になるのも分かるような。


とにかく、店に置いておくだけで、少しずつ魔法石に魔力が溜まる器械を作ろう。


***


ルイは、コツコツと作業に入った。

魔法石は小さなものしかない。テストも兼ねるので、とりあえず小規模なものを作ろうと思う。


誘導用に、充分に魔力を込めた魔法石を1つ用意しなくては。

空の魔法石は、本来は1個で良いが、交換の手間を考えて、2つセットできるようにする。1個に十分溜まったら、次のものに魔力が流れるようにする。

・・・あぁ、そうだ、十分溜まったら勝手に外れて、新しい空の魔法石がそこに転がり込むようにしたら便利そうだ。

そうすると・・・。


作りながら工夫を思いついては、それが可能なように変更する。

金属線を使用分だけ切って、魔法石を結ぶ。金属板も、持ってきた道具で丁寧に切る。切った端がどうしてもギザギザするのは、やすりをかけてできるだけ滑らかにしておく。

自分用の道具とはいえ、メンテナンスの際に怪我をしないように丁寧に作るのだ。


魔力が溜まった時に、勝手に落ちて、次のを空いた場所に収めるために、受け止める場所にゴムも形を整えて埋め込む。動作指示用に『雷』の魔法石を入れるべきか少し迷うが、今回は抜いて球体のガラス瓶に命令を記載する方法を選択する。単純な命令だからこれで事足りるだろう。

金属板と金属線だけでは弱い部分にネジを埋め込む。


お腹が減った、と気が付いて顔をあげて店内を見てみれば、まだ汚れがそのままのガラス窓の外はすっかり暗い。時計を見れば、もう少しで日付が変わる頃合いだった。ちなみに、暗いから自分で灯りをつけていた。いつだったか記憶にないが。

集中しているからこのまま作業を続けたいが、お腹が減りすぎて動けなくなると致命的だ。過去何度も覚えがある。

ルイはため息をついて、一旦休憩を取ることにした。


昼間に味見をした瓶詰2つと、今日購入した瓶詰。パンを買おうと思っていたのに、考え事をして帰ってきたからパンはすっかり買い忘れていた。

これだけではお腹は満たされない。けれどもう時間も遅い。


ルイは自分用の『熱』の魔法石で瓶詰を少し温めて食べた。おいしい。

露店に比べるとどうしても高い値段だと思うけれど、ここの瓶詰の味は好きだ。

それに、ルイはものを作り始めると集中して時間がすぐに過ぎるから、食事のタイミングを失う事も多い。

今後のために、食料をきちんと店内に置いておいた方が良い。お金に余裕が出てきたら、ここの瓶詰を常にいくつか置いておいたら便利そうだ。


あと、瓶詰だけでは無理だから、やはり食物保存庫が必要だろう。


今作っている魔道具が出来上がったら、その後は、この店を整える方が良いような気がしてきた。魔道具をここで作り続けていくのだから。


「明日、作業に入る前に、食材を買い込んできた方が良いな」

ルイは呟いた。

台所があるので、水の供給はある。ルイは旅の間に買った花瓶に水を溜めて魔法石で湯に変え、台所で身体を洗った。

そうだな、食料のための魔道具が終わったら、風呂に変わるものも作ろう。


ここはルイの店だから、ルイの作業の邪魔をする者はない。

急に呼び出されることも、押しかけて来られることもない。

だから、今日はもう眠ろう。

また明日も、ルイのための時間が来る。


***


翌朝。ルイは目が覚めた。お腹がやっぱり減っている。

顔を洗って、魔物の銀に水をやってから、さっそく屋台に食料を買いに行くことにした。

今すぐに食べられるものと、店に備蓄しておけるものも探したい。


ついでに、ルイは本日つけヒゲをつけて行動することにした。単にマスクでなくてヒゲにしたかっただけだ。


昨日集中してものを作ったのに十分に食べていないせいで、かなりお腹が減っている。

あまり歩き回るとただ消耗するだけなので、ルイは露店より先に見つけた食堂で朝食をとることにした。

あれ。やっぱりヒゲだと食べづらい。困ったな。

マスクだとはずせばいいのだが、つけヒゲを外して食べるというのは変な気がするので、つけたまま頑張って食べた。


可能な限り手早く食べて、ルイは今度は備蓄用の食料を探す。

とりあえず、今日の昼と晩と可能なら明日の朝分の食料だ。


フルーツを売っていたのでそれを買い込む。

そういえば、バートンさんはどこで店を開いているのだろう。グラオンも広いから、場所を聞いておかないと探すのは大変そうだ。今度会ったら出店場所を聞いておこう。


それから、串焼き肉を5本。露店でパンも売っているので、パンも買い込む。

スープも袋に入れて売っている店があったので、味違いを2つ購入した。

芋も売っていた。旅の中で煮て食べることを覚えたので、5つほど購入。

それから焼き麺。

ヨーグルトも売っていたので、購入した。

とりあえずこのぐらいで良いか。


あれ、案外出費した。合計4,000エラを払ったようだ。

3食分として、1食1,333エラ。かなり高い。

うーん、買いすぎたのかな。

そういえば、料理とかできた方が安くつくんだろうけれど。

とはいえ、魔道具を作る時間を優先したい身としては、料理に時間を使うのが勿体ない。

うーん。でも先は長いから、少しずつ色々試していこう。


***


店に戻って、ルイは買ってきた食料を、とりあえずカウンターの上に置くことにした。

置いてみてから、ルイは店内の様子に首を傾げた。


さすがに、テーブル1つもないのはどうかと思う。

でも、まぁ優先順位は低いからなぁ。

言ってしまえば、このカウンターをテーブルに使えば良いし。立つと丁度いい高さだから椅子も不要だ。


こう思ってから、ルイは再び首を傾げた。

実は、ルイが自国を出て魔道具の店を開いて生きていきたい、と父や兄に訴えて、許可が降りたのにはいくつか条件がある。

1つは、きちんと便りを出す事。とはいえ、父や兄とやり取りするための通信具は持ってきていないので、やりとりは手紙になる。

1つは、ルイが暮らしている様子を、胸を張って家族に見せることのできる状態にする事。

他にも諸条件があるが、それはうまく行った後、またはうまく行かなかったときの話だ。


とにかく、今のところルイは目標に向かって進んでいると思っているが、この店の状態ではあまり胸を張って家族に見せることはできないな、と、思う。

今すぐは無理だが、ここもきちんとしていくべきだろうな。


「えーと。魔力を貯める魔道具。それから、食料保存庫。あ、ついでに冷蔵庫と冷凍庫。それから風呂。それから・・・店内の掃除、かな」


***


ルイは黙々と、魔力を貯める魔道具の製作に取り掛かる。

昨日は中核部分を組み上げた。

動作チェックを行うために、『熱』の魔法石1つに、ルイは集中して魔力を込める。ただなんとなく握ったりする程度に比べて、魔力はどんどん溜まっていく。


ルイは身体の周りに魔力が漂っている状態なので、他の人よりも魔力を動かしやすいと言われている。

ただし、何もしなくても消えていきやすい。身体の外に出ているからだ。

ルイが小柄なのは、祖母に似ているからと言うのもあるけれど、人よりも多く失われていく魔力を補うべく、魔力にエネルギーが使われるからだとも告げられた。


自分のこの状態には不満しかないけれど、この今の状態はラッキーなのかもしれない。

とはいえ、もしこんな特異体質でなかったら、体格も立派になっていて、正しく騎士になれていたのかもしれないと思うとやるせない気分になるけれど。


じっと集中して数時間後、ルイの手の中の魔法石は満タンになった。

状態を眺めて確認してから、ルイは作っている魔法具の中核にそれを組み込む。

これは誘導用になるので、魔力が注がれる方の空の2つもセットする。

それを、適当に組んだ木の板に立てかけて、カウンターの上に置いた。

しばらく放置して、空の魔法石に魔力が溜まっていくかチェックするのだ。


ルイは少し欠伸をしてから身体を伸ばして時計を見た。もう昼の時間になっていた。

「うーん、身体がちょっと痛いかもしれない」

床に座り込んで作業をしている影響だろう。

やっぱり、作業台を作った方が良いのかもしれないなぁ。そのうち。


ルイは少し運動するように体を動かしてから、昼食を食べることにした。

魔力を積極的に溜めたので、お腹はとても減った。

パンと、串焼き肉2本と、スープ1種類。焼き麺1つ。ヨーグルトと、フルーツ。足りない。串焼き肉をもう1本。

カウンターの上には、芋も転がっているが、茹でるのが面倒なので、これは夕食に回そう。


***


魔力がきちんと溜まっていくのか、数時間後でないとルイにも判別できない。

ルイは、身体を動かすのもかねて、店内の掃除に着手することにした。

現在1つ魔道具を作っているので、他の魔道具に着手するのはルイには無理なのだ。

いや、別にしても構わないが、別の魔道具を作ると集中というか意識が分散して、作り込みが甘くなる。

単にルイの性格だ。


さて、どこから掃除しよう。と店内を見てやっと気がついたのには、実は掃除用具は手元に一切ないという事実だった。

ルイは眉をひそめた。

何かをしようと思うと、何か買わないといけないんだな、生活って。


うーん。実家で、使用人たちはどうやって掃除をしていただろうか。

窓は拭いていた。布と水だ。あと、薬剤を使っていた。

床も拭いていたぞ。いや、あれは絨毯だ。絨毯のない床の場合は箒で良い。


とりあえず、箒はいる。でも、箒だけで良いのだろうか。

ルイは、きちんと掃除をしたことが無い。


ルイは、ガラスの箱に入れて飼育中の魔物、銀をチラリと見た。


銀。お前、ゴミとか食べたりしてくれないかな。


いや駄目だ、銀には綿を作ってもらいたい。

毎日生み出される一つまみの綿を回収して、いつか何か作りたい。未来の楽しみになっている。

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