↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対に魔道具売って生計を立てる  作者: 天川ひつじ
第6章 灼炎龍グランドル
100/100

石

本日2話目

手の中に残っているものは、全て抜け殻でしかない。


龍は、本来の姿で月に輝く湖面を見つめる。

龍にも魔物の知り合いがいた。大昔に消えたのだが。思い出の場所で、龍は憂う。


どうして龍は今も生き残っているのだろう。


「暗いね。灼炎」

声に、龍は顔を上げた。

「あんまりキミが気落ちしているから、またどうかしてしまわないか心配でね。どちらが良い? キミ自身が探し当てるか、私がそこだと教えてしまうか」


顔色を変えた龍に、相手はおかしそうに笑った。

「本当に困った同族だ。まぁ良い、人間との繋がりを切っただろう? その祝いに教えてあげるよ。ご覧、そこの岩場だ。一層月の光を浴びている、あの中に、きみが何より大切に思うものがある」


龍は息を飲んだ。


「月が照っている方が分かりやすいよ。さぁ、行っておいで」

「礼を言う」


「珍しいね」

からかうような声を背に、龍は教えられた岩場に飛んだ。


***


会えたなら、一目で分かる自信があった。

だけど、今度は、どんな姿をしているのだろう。

人間にはならないと知っている。だけど、人間でないものの範囲は広い。


あなたは、私に気付くのだろうか?

次は、全てを持って生まれたいと言っていた。覚えたまま生まれようとしてくれていた。

人として死んだあなたに、それが可能なのかは、分からないけれど。


龍は笑んだ。


月の光に照らされて、産まれたばかりらしい、石の精霊が空を見上げているのを見つけたからだ。

龍本来の姿で、ゆっくりと空から近づく。

向こうが気づいて、顔をこちらに向ける。不思議そうに、首を傾げる。

人だったあなたは、精霊として、人の姿を取ったのか。


『まぁ』

と小さな可愛らしい声がした。

美しく照れたように、笑顔を浮かべた。

『会えて嬉しいわ。どうしてかしら。私、とてもあなたに、会いたかった気がするの』


私もだと、龍も答えた。


覚えていなかったことが分かったけれど、やはり覚えてもいてくれたのだと、嬉しかった。

柄にもなく、あの者に感謝の念を覚えた。


***


彼女自身の許可を取り、龍は優しく掴んで空に飛んだ。


鍵爪の中で、本体の石に腰かけて、月光に透ける彼女は上機嫌で歌っている。

美しい歌声に心が浮き立つ。

あれほど沈んでいた世界が、再び輝きを放ちだした。我ながら単純だと自覚する。

それでも、なんと世界の素晴らしく美しい事だろう。


シュディールの家に戻る。

中に入るために人の姿になる。石は、人の姿では、両腕で抱えた方がいいような大きさだ。重さは問題ない。抱えて入る。

彼女は、人の姿をまじまじと見て、そっと龍の頬にキスをしたので、危うく龍は彼女の石を取り落としそうになった。


『ごめんなさい。とても、とても、大切だなって思ったの』

と恥ずかしそうに彼女は言った。

「光栄だ」

と赤くなったのを隠しようもなく、龍は答えた。


「・・・私の名はグランドルという。あなたには、名前があるのだろうか」

『セトリア、だと思うわ』


「そう呼んでも?」

『えぇ。ぜひ。そう呼んで欲しい。不思議ね。生まれて初めて目にしたのが、あなただからかしら』

セトリアが恥ずかしそうに笑った。


石を抱えて、3階のアリエルの部屋に至る。

セトリアはキョロキョロと家の中を見回している。


『ここ、とても不思議な気分。とても懐かしい、変な気持ちね』

「そうか」

明確に覚えていないものの、やはり少し嬉しくなる。


「宝箱だ。色々入っている」

『まぁ』


龍は蓋を開けて、中からまずジェシカを取り出した。

『まぁ! その子は誰!?』

「ジェシカだ」


急に無言になった様子に振り返ると、どこか拗ねたように龍を見ていた。


「これは友人だ。思い出を語り合う」

『そう。そうなの。ふぅん』


龍は、ジェシカに魔力を込めて起動した。

「おはようございまス。・・・あっ、初めまして! わぁ、赤龍サマ、ひょっとして!」

「余計な事は言ってくれるな。混乱させてしまう」

「はい、分かりましたタ!」

『・・・』


「初めまして、ジェシカです! あまり長く起きていられないのデスが、たくさんお話をしたいデス! ふふー、嬉しいです。嬉しいです」

ジェシカがニコニコして立ち上がったので龍は慌てた。また頭を掴んで魔力を込めてやる。

そうしながら、セトリアを見る。

「私の魔力で起きる。魔力が尽きると眠ってしまう。ジェシカと話をしたい時は言ってくれれば良い」

「ふふー」


『・・・ジェシカ?』

「ハイ!」


『よろしく、ね?』

セトリアはどこか戸惑ったようにしながら、話しかけた。

ジェシカはニコニコと嬉しそうだ。


「女子会できますネ!」

『女子会?』

「女のコだけでオシャベリします! 赤龍サマは男だから、入っちゃダメなのです。女のコの秘密のオシャベリです」


セトリアは目を丸くしてから、優し気に笑んだ。

『ふふ。楽しそうね』


ふわりとアリエルの面影が思い出されて、龍は目を細めた。

手を伸ばして精霊を撫でようとしたが、手がすり抜けたので驚いた。


『あら、ごめんなさい。私からだと良いのだけれど、相手からだとすり抜けちゃうの』

とセトリアは肩をすくめて見せた。


「そうか。では、あなたからたくさん触れて欲しい」

龍の言葉に、セトリアは絶句したようだった。

ジェシカは、両手で口を押えて「発言しません」ポーズを取っている。

セトリアはチラリとジェシカを確認してから、

『わ、分かったわ・・・』

と小さな声で照れた。


龍はとても嬉しくなった。

やはり、覚えていないけれど覚えていてくれたと、強く実感できたのだから。


***


セトリアは石なので、龍のように長く生きるだろう。

それはとても嬉しい褒美だ。ずっと喪失に耐え続けていた龍に、やっと与えられたもの。


一方、在りし日に失われたものを惜しむ気持ちも残っている。

人間にはもう未練は無い。けれど、大切な思い出がある。


「ルイと、クラウディーヌという人間がいたのだ。その娘が、描いた絵だ」

『ふぅん・・・文字を読んで』


クラウディーヌが書き添えた絵の説明文を読み上げてやると、セトリアは首を傾げた。

『アリエルって、だぁれ? あなたの傍にいた人みたい』

「そうだな」

と龍は答えるが、少し説明に困る。

人間の時の彼女は、生まれ変わりを信じなかったし、前の自分に嫉妬もしたからだ。


だからこう答える。

「あなた以上に大切なものはいない」

『・・・ありがとう』

追及する事なく、セトリアは嬉しそうになる。とても素直に笑ってくれる。


アリエルは、出会った時にはすでに苦労を知っていた。

けれどセトリアは自我ができてすぐ、会う事が出来た。これが彼女の本来の性質なのかもしれない、と龍は思う。


『他のものも、見せて』

乞われて、映像も再現してやる。

龍の隣に常にアリエルの姿があって龍は少し焦ったが、セトリアはただジィッと映像を見つめていた。


『人間って、ジェシカちゃんみたいな生き物なのね』

「そうだな」

あなたも、人の姿を取っているのだが。


***


女子会なるものを、たまにセトリアが希望する。つまりジェシカと話をしたいという事だ。

どうやら、クラウディーヌの話にとても興味を覚えている様子。

ジェシカもクラウディーヌと親しかったので、話が尽きることが無い様だ。


女子会は男には秘密という事で、魔力を十分に込めてやってから龍は少し席を外す。


楽しそうに笑い合っているので構わない。

話足りないうちにジェシカが眠ると、一生懸命セトリアが龍を呼ぶ。

石の精霊として目が覚めたばかりなので、本体から動く事ができないのだろう。

石の精霊と言っても魔物なので、ある程度生態は把握している。そのうち行動範囲は広がるはずだ。


***


『ジェシカちゃんとお話ができて、とても嬉しいの。たくさん教えてくれるのよ。宝箱の中身も、取り出して教えてくれる。ジェシカちゃんを保護してくれて、本当に有難う、グランドル』


「あなたが喜んでくれて何よりだ。それに私も、あなたに会うまで、ジェシカには話し相手になってもらっていた」

ジェシカに感謝を伝えなければ。

ただ心配なのは、ジェシカは強力に守られているが、永遠に生きられるものではない。宝箱に入れているから、まだきちんと残っていられるのかもしれないだけだ。


そう話すと、セトリアは不安そうにした。

『ジェシカちゃんのお願いがあれば、叶えられたらいいのにって、思うのよ』

「聞いてみた事は?」

『無いかもしれない』


***


ジェシカを宝箱から取り出して起こす。

尋ねてみると、

「うーん。そうデスね。でも、もう無理デス」

とジェシカは言った。


店を一人でするのが夢だった。それはもう叶った事になるから、もう良いと。


「ただ・・・。赤龍サマ。ルイ様が、取り出したという魔法石が気になりマス。あれを、セトリアちゃんに、見せた事はありマスか?」

「・・・いや」


アリエルを強く意識させるもの。

龍には秘密だった。あれが何か気になるが、恐ろしさも感じる。

家族思いのルイに、娘さえ巻き込ませて、己の肉体を切り裂かせて、取り出させたもの。


「・・・あ、眠いから魔力を込めてくだサイ!」

『グランドル早く!』

しみじみとしていたところに呼ばれて慌てて魔力を足してやる。


「すみません、記憶を掘り起こしていたら急に眠気が」

『何か、思い出した?』

セトリアが、じっと透かすようにジェシカを見つめる。


「実は、少し、アリエルさんに聞きました。約束したのデス。もし、私が残っていて、覚えていなかったら、お願いするって、頼まれまシタ」


内容が掴めない。

なのに、セトリアは一生懸命ジェシカを見ている。


ジェシカは真剣な目で龍を見た。

「約束を果たさせてほしいデス。それが願いデス」


龍は動揺した。


ジェシカも、いつか壊れることを自覚していると気づいたのだ。

宝箱に入れることができない、金色の魔物の老化も進んでいる。


***


「私は、生きているうちに魔法石を身体に入れました。そうしないと動けなかったからデス。シーラたちは、私の動きや経験を魔法石に記録しました。・・・それを知って、アリエルさんは、私にこう頼みまシタ。『もし私が、私の事を覚えていなかったら、思い出させてほしい。グランドルのために、一緒に思い出を持っていたい』。セトリアさん、今の言葉を聞いてどう思いマスか?」


ジェシカの問いに、セトリアはコクリと頷いた。


「セトリア、あなたは石だ。人の記憶など持たない方が良いのではないか」

龍は酷く心配になる。


セトリアはじっと龍を見つめて、柔らかく笑んだ。


『足りないと感じていたの。だから、足すのが正解なのよ』


***


「ルイさんも、金属線を使いまシた」

龍が家の中から探してきた金属線を受け取り、ジェシカは眺める。

美しい状態で保存されていた、ジェシカのお気に召したものだ。


「私の専門ではありまセン。でも、方法は分かりマス」

龍に絶えず魔力を受けながら、ジェシカはセトリアの石に線を巻く。

それから、大きな5つの石を見つめ、1本ずつ線を巻き付けた。


「どうぞ、セトリアさん。魔力を流して、代わりに流れてくるものを貰ってくだサイ」


瞬間、セトリアが震えた。龍の心臓が止まるかと思った。

セトリアの精霊の姿が消える。石自体が小刻みに震えだした。


『たいへん!』

石から声がした。

『グランドル! たいへん!』


緊張する龍に、石が止まって、ふわりと恥ずかしそうに、セトリアが現れた。

『ごめんなさい! でも思い出した!』

セトリアが少し大人びて笑む。


動けないでいる龍とは対照的に、ジェシカが喜んで手を叩いた。

「成功デスか!?」

『ありがとう! また会えて嬉しい!』

「わーい!」

龍の手の平の下から抜け出して、ジェシカとセトリアが抱き合った。


セトリアが龍の名を呼び、手を伸ばす。

『グランドル』


手を掴む。

彼女の笑顔に、懐かしさと新しい幸せが広がってくる。


今、至る全てに、龍は心から深く感謝した。

END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。