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終焉での世界での始まり09


「で、あるからにしてこの公式が…」

数学教師の笹原田が黒板に書かれている公式の説明をする声が教室中に響く。

拓哉はその説明を聞き流しながら、視線をボーッとさ迷わせながら窓の方へと向けていた。昨日のアリスの台詞が頭から離れなかった。


『あの学校にあなたを襲った《代表候補者》付きの魔術師がいる……』


それは全く予想をしていなかったと言えば嘘になってしまう。

彼女の言うとおり、この学校には《代表候補者》付きの魔術師なんって少なくとも存在しない。だから仮に襲って来るとしたら……人気がない場所、もしくは拓哉の一人の時のタイミングを見計らって狙って来るだろうと予想をしていた。

もしこの学校に魔術師がいるとしたら相手が仕掛けて来る前に早急に探し出し、手を打つ必要がある。

一体…どいつが《代表候補者》付きの魔術師なんだ…?そう思いながら思考を巡らせる。

「………くん」

「拓哉君!」

拓哉は自分を呼ぶ声にハッとし前の方を向くと、そこには亜利砂が立っていた。

周囲は既に四限目の授業が終わり今昼休みと変わっていた。

「どうしたの?ぼーっとしちゃって……」

「あっ……いや、何でもねぇよ」

そう訪ねる亜利砂に拓哉は笑って誤魔化す。

「そう?」

亜利砂は不思議そうな顔を浮かべた後、自分のスカートのポケットから黒色のM5プレイヤーを取り出すと、それをそっと拓哉へと差し出した。

「これ拓哉君のでしょ?昨日帰る時落としていたわよ」

「道理で探してもないと思っていたら落としていたのか。サンキューな亜利砂、助かったよ」

M5プレイヤーを亜利砂から受け取りながら礼を言う拓哉に彼女はふわりと微笑みながら答えた。

「どういたしまして」

その時教室のドア辺りからドタドタと激しい音と共に声を大声で叫ぶ庵の声が聞こえた。

「拓哉!拓哉!たーくーや!!貴様ぁぁぁ裏切りやがったなぁぁ」

庵は目を大きく、くわっと血走るように見開き、ダッシュで拓哉の側へと来るとギンと鋭い目付きへと変えた。まるで裏切り者を見るような顔で激しく言い放つ。

「お前!どういう事だよ!俺達仲間じゃなかったのかよ!お前の事俺……俺信じていたのにッッ!!なのに…この裏切り者がッッ!?」

「ちょっと待てよ。お前何わけの分からない事を言ってるんだよ」

「とぼけるな!!神宮寺アリスの事だよ!」

「は?」

「一体どう言う事だよ?」とそう言葉を続けようとした瞬間、教室の空気が一気にざわついた。

何事なのかとドアへと視線を向けてみたら、そこにアリスがいた。彼女はざわつく空気を無視して教室の中へと入り、スタスタと歩き、そして拓哉達の前へと止まった。

「アリス、どうしたんだよ?」

問い掛ける拓哉に対して彼女は平然した表情でと告げた。

「私……授業以外の間暫くあなたの側にいる事にしたの」

クラスの殆どの生徒達が二人の会話に聞き耳を立てており、その彼女の発した台詞に何人かの生徒は思わず反応した。

「おい聞いたか今の……」

「まさか、あの二人付き合っているの?」

「クソッ俺達のアリス様とぉぉぉ」

周囲からヒソヒソとした言葉が聞こえて来る。そんな中一人空気を読まない男庵がアリスに話し掛けた。

「なぁ、神宮時さん拓哉と付き合っているの?もし付き合ってなかったら今度の日曜俺と……」

庵の言葉を遮るかのように拓哉はガタッと勢いよく音を立てて立ち上がりアリスの手をグイッと掴むと、

「ナンパはまた今度な庵。アリスちょっと来い!」

そう言いながら、クラスの注目を無視しつつアリスと共に急いで教室を後にした。



「どう言うつもり何だ?」

拓哉は腕を組み眉を潜め、壁側に背をもたらせながら彼女へと問い掛けた。

教室を後にした二人は廊下の近くにある階段へと移動をしていた。

今の時間は昼休みなのだが、驚く程人の行き来はなく、拓哉とアリスの二人だけしかいなかった。

「どう言うつもり…って何が?」

不思議そうに言う彼女に拓哉は短く溜め息を吐いた。

「授業以外の時間俺の側にいるって話だよ」

アリスは、ああ…何だその事ね…などと思いながら拓哉へと話す。

「昨日話したでしょ?この学校に…あなたを狙っている魔術師がいるって……」

「魔術師を含む《代表候補者》付きの魔術師は一般人には手出しが出来ない。だけど、あなたは次の《代表候補者》だと勘違いをされ一度襲われている。それにこの学校に式神がいた」

「奴等はその気になれば結界を張るなり、多少の犠牲も意問わない可能性だってあるの。例え条令契約を交わしていても、多少の犠牲程度ならば権力で揉み消すなんって事もいくらでも出来るのだから……」

彼女は拓哉の隣に移動すると、その場にストッと中腰になり、真っ直ぐな視線で拓哉を見上げた。

「だから私があなたの側についていれば安心だと思ったの……いつでも側で護れるから」

声のトーンを落とし柔らかく、そして切なそうな声で言った。

その言葉はまるで自分自身を安心させるかのようにも聞こえた。

一瞬だけ沈黙したのち、すぐに彼女は口を開いた。

「それにあなたは魔術師…《代表候補者》付きの魔術師の力…戦術などをよくは知らない。知っているのは私だけ」

アリスは試すかのように拓哉へと尋ねるかのように告げる。

「どうするの?また前みたいに「大丈夫」だと言うの?それとも私のやり方に乗ってもらえるのかしら……?」

彼女の言う事は正論で、間違ってないとそう思う。

実際《代表候補者》付きの魔術師の力は同じ《代表候補者》付きだった彼女の方が良く知っている。だったら彼女の言うとおりにするのが一番だと思うのだが、授業の休み時間の度にこう毎日来られると困る。

主に「お前見せつけてるんじゃぁねーよ!!」と言うクラス中の視線が痛すぎる。

精神的にも辛すぎる。

「あのさ、そこまでのガチガチの警戒だと逆に魔術師の正体とか分からなくなるんじゃねぇか?だから俺が囮役として魔術師が仕掛けて来るところを現行犯逮捕みたいにお前が捕まえた方が手っ取り早いんじゃねーのか?」

そう拓哉は彼女に伺いを立てるかのように提案をする。

だが彼女はジロッと彼を見ながら言った。

「あなたまだそんな馬鹿な事を言っているの?」

「だけどお前だって移動教室の時とかあるだろう?その時とかどうするんだよ?」

拓哉の台詞にアリスは手を顎に宛ながら、考えるかのように、

「確かに…そうね……」

などと呟き、そして。

「それならば昼休みに来るわ」

キッパリ、はっきりとこれ以上の妥協は出来ないとばかりに言うアリスに対して再び口を開きかけた拓哉にアリスは言葉をわざと続けた。

「悪いけど……あなたに拒否権はないの…」

アリスはほんの少しだけにこっと笑いながら、

「この方法で……決定ね…」

と、そう言った。

有無を言わせない台詞と共にその顔を見て結局拓哉は彼女の提案に頷く他なかった。



「なぁアリスちゃん今度の日曜空いている?もし良かったら俺と二人でデートしない?」

昼休み拓哉の隣の席に座って静かに文庫本を読んでいるアリスに庵は気軽に話し掛ける。

それを拓哉は毎度毎度良くやるよな…などと他人事のように眺めつつ、机の上に広げていたゲーム雑誌へと視線を落とした。

あれから数日後、彼女は昼休み時間の時だけ拓哉の教室に訪れていた。

最初は注目を多少なりとも浴びていたが、それも次第には慣れ、今ではいつの間にかクラスの空気に彼女は溶け込んでいた。

彼女は拓哉の隣の席にいつも座っていた。元々その席は空席になっており、自然と彼女が座っていると言う訳だ。

「行かないわ。興味ないもの……」

庵の誘いにアリスは素っ気なく答える。

だがそれでも庵は諦めもせず、なおも食い下がる。

「そんな事言わないで行こうよ。今ちょうど映画のチケット二枚持っているんだ。しかも今話題の「海のそこに沈む人魚達の逆襲」なんだぜ!面白いってかなり評判みたいなんだよ」


「映画……」

アリスはピクリと反応を示し、視線を庵へと向け、訪ねた。

「それって面白いの?」

アリスが興味を持ってくれた!そう思い庵はここぞとばかりに力説する。

「面白いって!しかも内容がタイトルどおり人魚達が人間達に復讐しに掛かるけど、その人魚達に人間達も対抗するガチバトルとして今話題で人気のある映画なんだよ!」

「それって……本当に面白いのか?どう考えたってそれって、武器とか使ったら人間の方が圧倒的に有利になるだろう…色んな意味で」

疑問に思いながらも、それを想像して嫌そうな顔をしながら言う拓哉に庵は激しく言葉を返した。

「ちげーよ!人魚も魔法とか、人間の姿に変身したりして色気で対抗してくるんだよ!」

拓哉はそれを聞き、むしろ色気…もといエロい部分のシーンを売りにしているだけではないか?と内心そう感じ、思った。

「その話は私もどうかとは思うけど…映画自体には興味がある……」

ポツリと静かに漏らすアリスの言葉に拓哉はからかうかのようにニヤリとしながら言った。

「まさかお前映画自体を見た事ないのか?」

「そうよ」

冗談半分で言った言葉にアリスは真顔で答えた。

「マジで!」

「だって私外国にいた頃はそれどころではなかったし、だから映画館にすら行った事がないのよ」

「だったらさ、なおさら俺と一緒に行こうよ!」

アリスは暫し顎に手を充てながら考え、そして拓哉へと視線をチラッと向けながら言った。

「拓哉も一緒ならば行っても良いわ」

「はっ?何で俺も行くんだよ!」

拓哉の突っ込みを完璧に無視し、アリスの台詞に庵は拓哉の肩をガシッと掴みながら、このチャンス絶対に逃してなるものかと言うようなギラギラした目で圧力をかけながら拓哉へと言う。

「拓哉、親友よ。お前も来るよな?」

「いや行かねーし、人のデートにくっついて行きたくねぇよ!」

それを気にせずに拓哉はさらに突っ込みを返す。そもそもコイツはそれで良いのか?などと多少呆れ、思いながら。

「まーた庵君は神宮時さんをナンパしているの?」

両手に資料などを抱えながら、亜利砂は呆れた表情をしながら拓哉達の席へと近づいて来た。

「庵君あんまりしつこいと嫌われちゃうわよ」

「なに亜利砂ちゃん、ひょっとしてヤキモチ焼いてくれてるの?」

お気楽に言う庵に対して、亜利砂はにこっと笑いながら低く、冷たい声音で言った。

「え?…何が?良く聞こえなかったんだけど」

顔は笑ってはいるが、それはまるで氷のように冷たい表情に近かった。

拓哉はそれに対して慌てて話題を切り変えた。

「あっ亜利砂その資料また先生に頼まれたのか?」

資料の方を指差しながら言う拓哉に「ああ…これね」と言いながら亜利砂は苦笑交りに答えた。

「さっき先生に頼まれちゃってね」

「お人好しだな。お前も」

「でもこれだけだからね。だから別にどって事ないよ」

そう言いながら亜利砂は両手に抱えた資料をチラッと見せる。それは彼女の言うとおり教科書サイズの資料が5、 6冊だけあった。

「神宮寺さん、そろそろ教室戻るでしょ?途中まで一緒に行こうよ」

亜利砂の言葉に拓哉は壁に掛けてある時計へと視線を向けた。彼女の言うとおり、もうすぐ午後の授業が始まろうとしていた。

「そうね……」

そう言いながら彼女は机の引き出しの中に文庫本をしまうと、ガタッと音を立てて立ち上がった。

「またね。拓哉」

そう言いながら亜利砂と共に教室から出て行った。



「神宮時さんって拓哉君の事好きなの?」

廊下を歩きながら突然話し掛ける亜利砂に対してアリスは不思議そうな顔を向けた。

「どうしてそう思うの?」

「だって、神宮時さん昼休みの度にうちの教室に来て、拓哉君といつも一緒にいるでしょ?だから好きなのかなーって思って」

「必要だから一緒にいるだけよ……」

「そうなんだ。なんか残念。神宮時さんみたいな可愛い子が拓哉君の彼女だったら拓哉君も喜ぶのに」

その言葉にアリスは首を左右に振る。

「そんな事ないわ……それに私には他人を「好き」になる、好意を寄せると言う感情が良くわからないの。それに……」

「それは…今の私には赦されない事だから…」

アリスは瞳を伏せ、何処か寂しそうにポツリと呟いた。

それを見て亜利砂はスッと薄く冷たい目を細めた。そして表情を切り替えて明るく彼女は言った。

「ねぇ神宮時さん知っている?駅前に凄く可愛いカフェが出来たの。今度一緒に行こうよ」

「甘い物とかある?」

「うん。あるよ。しかもそこのカフェのケーキが美味しいって評判なんだよ」

その台詞にアリスは一瞬考える素振りをし、そしてキリッとした表情をしながら即答した。

「それならば行くわ」

「神宮時さんって甘いものとか好きなんだね」

その時カシャッと微かに物が落ちた音が聞こえた。見ると亜利砂の手首に付けていた銀色のブレスレットが床へと落ちていた。

それをアリスは拾い、亜利砂へと渡した。

「はい」

「有難う。神宮時さん」

そう言いながら亜利砂は彼女からブレスレットをそっと受け取る。

微かにだけだが互いの手が触れた。その瞬間ドックンとアリスの中で魔力が流れ込んできた。

それは紛れもなく《代表候補者》付き魔術師の魔力……しかも《上核》そのものだった。

直ぐ様亜利砂の方を見ると彼女は何事も無さそうにブレスレットを嵌めていた。

……まさか…!…そう思った時、まるで重なるかのように予令を知らせるチャイムが鳴った。

廊下にいた生徒達はざわざわと自分の教室へと戻り始める。

「あっ、ヤバ…早くしないと5限目に間に合わなくなっちゃう。神宮時さんまたね」

そう言いながら慌てて亜利砂は職員室へと向かう。

その後ろ姿を見ながら、アリスはその場を動かず、スッと表情を無表情へと変え、ポケットから一枚のトランプを静かに取り出した。




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