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終焉からの始まり

東京都新宿から少し離れた場所にある小さな町外れの墓地に拓哉は一人いた。

目の前には小さな墓が立てられており、その墓石には名前が刻まれていなかった。


誰にも知られてはいない墓。


いや、正確には自分と自分以外の家族の関係者しか知らないと言った方が正しいのかもしれない……。

ここに眠っているのは彩和月智也。

かつての《関東》の《代表候補者》であり、自分の兄がここに眠っている。

本来《代表候補者》の死は世間に公表はされない。死後家族だけの葬式すらも執り行われず、 《国》の関係者、または《代表者》の直属の部下達によって埋葬される。

それは他国に自分の《国》の《代表候補者》の死を悟られない為でもあった。

本来ならば《代表候補者》とも言えど普通の形式とかたちとしては市民達と同じく自分の家系の 墓に入るのが普通だ。

だから本家である彩和月家の墓に入れられる筈なのだが、兄の遺体はまだ発見されていなかった。

だから今ここにあるのは兄の遺品だけだった。

兄の遺品だけ本家の墓に入れる訳にもいかず、だからといってこのままにと言う訳にもいかない。 結果こんな町外れの誰も知らない場所に兄の墓だけ立てる他なかった。

それでも何も無いよりはマシだった。

墓石の下には例え遺品しかなかったとしても、その遺品に僅かにだが人の魂が宿ると昔聞いた事がある。

そんな事を思い出しながらも拓哉は墓石の両側にある花瓶に花を入れると、小さな溜息を吐いた。

そしてここに眠っているであろう自分の兄へと話し掛けた。


「来るのが遅くなってごめんな……。本当は早く兄貴に会いに来なきゃいけなかったんだけど色々あってさ……」


拓哉は一度言葉を切り、そして続けた。


「兄貴俺《代表候補者》になったんだ。笑ちまうよな。あれだけ嫌がっていたんだもんな。俺は彩和月家とか《国》そのものにとか《代表者》とか正直興味なかった。きっと《代表候補者》になった今でもそれは根本的に変わらないと思う」


拓哉は自嘲気味に小さく笑った。

きっと兄がこの場にいたのだとしたら「そうかもな……」と小さく苦笑を浮かべていたかもしれない。

そう思いながら。


「だけど兄貴はこんな俺をずっと護って来たんだ。《生命の源》である俺の存在を魔術師達から、他国の《代表者》達からその存在を知られぬように護ってくれていた。そんな事俺は全然知らなかった……。知らずに兄貴が描いていた理想をずっと応援していた。あのクソ親父が作りあげてきた今の《国》を否定し、ただただ無気力に今まで過ごして来ていたんだ……。『こんな《国》は嫌だ!こんなゴミみたいな世界クソ喰らえ!!』だと思ってさ、小さいガキが我儘を言っているのと一緒だったんだ。テメェで動かねぇ癖に他人任せにしてさ……」


拓哉と一緒に過ごしてきた智也は拓哉自身の秘密そのものを拓哉本人には明かさなかった。

きっと拓哉にその秘密を明かしたとしても、その力を他国もしくは他の魔術師達に狙われる事は明確だ。

《生命の源》は今や伝説となっている賢者の石と同格、もしくはそれ以上の代物だ。

魔術師ならばきっと喉から手が出るほど欲しがるものに違えない筈なのに、兄はそれを秘密にし、拓哉自身を護っていた。

拓哉の近くにいるにも関わらず智也は拓哉の《生命の源》には一切手をつけず、況してや拓哉自身の身を案じた。

普通魔術師ならば例え親、兄弟としても自分の魔術研究として利用するケースもそう珍しくはない。

だがそれを智也はしなかった。

それどころか彼は拓哉に「困った事があればなんでも言えよ。愚痴ぐらいは聞いてやるからさ」といつも自分を気にかけながら笑って言ってくれていた。

あの彩和月家にいた時からずっと拓哉に気を使ってくれていたのだ。


《代表候補者》である彼は常に他国との戦争と同盟を結ぶ為の交渉をしなければならない立場にも関わらず彼は《生命の源》を護っていた。

それは決して容易な事ではなかった筈だ。

なのにそれを彼はやっていた。拓哉は真剣な瞳を向け、


「俺兄貴が目指していた世界を現実にするよ」


そして告げた。


「兄貴の目標の上書きみたいなもんだけどやっぱり俺も兄貴と一緒で世界中の国の人達が笑って過ごせるような世界を目指したいんだ。《国》同士の隔てなんてもんはなく、文字どおり皆笑っていられる世界そのものをさ。だから全てを勝ち取る。今度こそ自分の足で歩いてみるよ。ただ何もやらない傍観者のように今ある世界を嘆くのではなくって、今度こそ自分の力で一歩ずつさ。……それとあと一つだけ付け足すよ」


拓哉は小さく苦笑を浮かべながら言った。


「皆が笑っていられる世界の中に俺も含める。じゃないと本当に皆が笑ってる世界になんてならない……。きっと兄貴ならそう言うだろう?」


その時柔らかい風がさぁと吹き抜け花壇に刺した花が小さく揺れた。

まるでそれが肯定だと言うかのように。

それに対して拓哉は瞳を静かに閉じ、そして開いた。

そして彼は唇の端に小さな笑みを浮かべた。


「また今度来るよ。その時はいい報告が出来るように頑張るよ」


そう短く言うと拓哉は踵を返し、静かにその場から歩き出した。

近くの木々から射し込む光を浴びながら、墓地の通路に生えている草をさくさくと踏みながら歩く拓哉の向かい側から一人の少女が花を抱えながら歩いて来る姿が見えた。

それは金髪のツインテールに碧色の瞳をした小柄な一人の少女……神宮時アリスだった。


「あっ……」


拓哉に気づいたアリスは思わずその場に足を止めた。

拓哉の顔を見てほっとしたような安堵とだが同時に何処か不安そうな顔を入り交じりさせアリスは口を開こうとした。

だけど拓哉は彼女の肩にポンと手を触れ、彼女が言葉を発するよりも先に彼女へと優しい声音で告げた。


「行って来いよ。きっとお前を待っている」


その言葉に。


その意味に。


「──────ッ」


彼女は碧瞳に僅かに悲しそうな色をして拓哉から視線を逸らすと急いで横を通り過ぎるように駆け出した。

去って行く彼女の背を感じながら拓哉は再び歩みを進めていく。挿絵(By みてみん)

彼は彼女がこの場所に来た理由も、その訳も理解していた。

きっと彼女と自分は同じ思いだったのだから。

そして暫く歩いた先で拓哉はふと後ろを振り返った。

そこには兄の墓の前で俯き泣いている彼女の姿があった。


大切な人が死んだあとずっと泣けずに、涙を堪えていた女の子はまるで小さな子供のように肩を 小さく震わせながら泣いていた。

それは不器用でいて、涙を流すことすらも我慢していた女の子の姿だった。

彼女は今兄の前でどんな言葉を掛け、泣いているのかこの場所からだと全く分からない。

だがこれできっと彼女は先に進めるだろう……。

自分が顔を上げ前を向けれたように、彼女もまた再び自分の中で一歩を踏み出せる。

彼女の中でずっと止まっていた時間が再び動き出すように。

これできっと─────。

そう思い拓哉は前を向いて歩を進め、その場を後にしたのだった。



墓参りの帰り。

歩道を歩きながら拓哉から少しだけ距離を取るように前を歩くアリスは拓哉へとチラリと視線をやり恨めしげに小さく呟いた。


「先に帰ってくれていても良かったのに……」


「どうせ同じ所に帰るんだし別にいいだろう。それにこの辺治安が悪いし、何があったら危ないだろう」


拓哉の言葉どおり、あれから日は沈みかけすでに夕方になっていた。

街から離れているこの場所は普段は人通りが少なく、夜になると治安が悪く不良達がよく行き来する為、とてもではないが夕方だが女の子を一人で歩かせる訳には行かなかった。

きっと彼女は泣き腫らした目を自分に見られるのが恥ずかしいからか、若干不機嫌そうにしているが彼女から聞く限りでは彼女自身この日本に来てからまだ日が浅い。

それに彼女は人形のように整った綺麗で可愛い容姿をしている。

当然こんな場所を一人で歩いていると間違えなくすぐにでも声を掛けられるだろう……。

魔師師は一般人に魔術を使う事は禁止されている。

拓哉自身も喧嘩は特別強いと言う訳では無いが、少なくとも一人で帰らせるよりは遥かにマシだと思っていた。

もっとも夕方と言えど日は沈みかけはいるが、まだ少しばかり明るかった。

拓哉は突然思い出したかのように前を歩くアリスに話し掛けた。


「そう言えばお前今まで何処にいたんだ?学校にも来てなかっただろう?」


「ちょっと用事を済ませていたの。……あの後の事務的な処理とか後始末とかあったから……。貴方の方こそ学校に行ったと言うことは彼女に会ったのでしょう?」


アリスは振り向きもせずにそう言った。

そこには亜利沙に対する警戒心は最初の頃に比べたら今は全くと言っていい程消えていた。

おそらくだが結城亜利沙が《関西》の《代表候補者》付き魔術師と言う立場から失脚し、彼女自身があの時拓哉を助けた事にも大きく関係しているようにも思えた。

だからアリスは以前のように亜利沙へと強い警戒心を今は抱いてはいないようだった。


「ああ。……やっぱり亜利沙は《関西》の《代表候補者》付きの魔術師から正式に外されちまったんだな……。なぁ、もしも《代表候補者》付きの魔術師が普通の魔術師になった場合どうなるんだ……?また強制的に《国》の道具として使われないんだよな。一般の魔術師としてしか扱われないんだよな?」


「そうね。普通ならば《代表候補者》付きの魔術師から正式に外されたのならば、いくら《上核》魔術師と言えど《国》からの命令で一般の魔術師として扱われる。もし仮に《国》自体が元《代表候補者》付きの魔術師を使ったりなんかしたら即座に《総務部隊》

が動いてしまうわ」


「そうか……。お前はこれからどうするんだよ?」


拓哉は彼女へとあの時と同じ台詞を問い掛ける。

あの時彼女は元通りに戻るだけだとそう告げた。だけど彼女と《契約》をした今あの時と大きく状況が異なっている。

彼女と《契約》を果たし彼自身は《関東》の《代表候補者》となった。

だが今回の新藤の一件はおそらく《関東》の《代表者》の命令で彼女は動いてはいなかった。

言ってしまえば彼女の独断で彼自身を護っていただけに過ぎなかったものだ。

もしも彼女が《代表者》から亜利沙のように除名処分とされてしまえば彼の《代表候補者》付き魔術師を別の人間に変える事となってしまう……。

何故だか自分でもよく分からないが拓哉はそれが堪らなく嫌だった。

自分の魔術師は彼女しかいないとさえ思っていた。


「そんなのもう決まっているじゃない。貴方と一緒にいるわ」


そう言って彼女は足を止めた。


「その為に《総務部隊》と《代表者》に挨拶をして来たわ。正式に貴方の《代表候補者》付きの魔術師として。だから貴方がなんと言おうとこれで逃げられないし、私は貴方の魔術師になった」


アリスは後ろの方へとクルリと身体ごと振り向き、


「本当に貴方は魔術師として未熟で、お人好しで、それでいて優しくって、甘いわ……」


まるで褒められているのか、貶されているのか分からないと感じる拓哉だが、アリスは「でも」と、言葉を続けると同時に柔らかなウェーブが掛かる二つのツインテールが微かに揺れ、そして彼女は笑った。


「そんな貴方は私は嫌いではないわ。だからこれからもずっと貴方を護り続ける事にしたの。だから宜しくね私の《代表候補者》」


彼女の背に映るオレンジ色の夕日が彼女自身を美しく照らしており、その中で小さく微笑む彼女は綺麗だった。

それは今まで感情を失っていた彼女取り戻した彼女自身の笑顔そのものであり、また同時に彼が自身が見てみたいと思っていた彼女の笑顔そのものだった。

拓哉はそれを見、唇を引き結びそして緩めると、彼は短い言葉と共に柔らかい表情を浮かべた─────。





こんにちは。せあらです。

ついに「White·アウト」第一章クライマックスをむかえました。

White·アウトを最初書き始めた頃は三年前でしたが予定より随分と時間が掛かり、仕事と私情の都合などの関係で投稿のペースが安定しておらず結果時間が掛かってしまい申し訳ありませんでした……。


このWhite·アウトと言う物語はただ普通に傍観者気取りで生きていた拓哉が、一人の魔術師の少女と出会い、兄の死を切っ掛けに《国》同士の戦いに巻き込まれていくと言う物語になります。

拓哉自身がアリスと出会い変わっていく。また同様に大切だった人と自分の感情そのものを失ったアリスが拓哉と関わっていくうちに自分の中で次第に変化してゆく、そんな姿が未熟ながらも少しでも伝える事が出来たのならば嬉しく思います。


そして今回イラスト、挿絵を描いて頂きました冬原さん。

本当に有難うございました。

実は今この後書きを書いている最中は挿絵のイラストを拝見していませんが、いつもカッコ良く、素敵なイラストを描いて頂いているのできっと今回もとても素敵なイラストだと思います。

それと拓哉を初めとしてヒロインのアリス、

敵の進藤なども大変個性と魅力があるキャラクター原案を描いて下さり本当に有難うございます。

今にもキャラクター達が動き出すようなイラストで毎回挿絵のイラストを拝見するのが楽しみでした!!

本当に有難うございます!第二章も楽しみにしています。

次回の第二章の方は


ついに《関東》の《代表候補者》となった拓哉が《四国》の《代表者》と直接対面する。

《関東》と《四国》の和解と互いの利益を交えた《同盟》を提示された席に《四国》の《代表者》は拓哉にとんでもない条件を出てきた。


────君、ボクとデートしてよ。もちろん朝までね───


果たして拓哉は彼女が満足出来るデートをしてやれるのか。


こんなお話になります。

次回も拓哉達の物語にお付き合いして頂けましたら嬉しく思います。

最後になりましたがここまで読んで下さりました読者の皆さん本当に有難うございました!

ここまで書いてこれたのは読者の皆さんが見に来て頂いた事が大きな励みになり、大変大きく支えられました。

いくらお礼を述べても言い足りないのですが、「White·アウト」を読みに来て頂きまして本当に有難うございました。

次回も楽しんで頂けるようにより頑張って投稿出来たらと思います。



せあら

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