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終焉からの始まり

 あたり一面に爆風が巻き起こり、進藤は拓哉の攻撃を受け体制を崩した。

 身体に受けたダメージが予想以上に大きく、新藤の身体はすでにボロボロで床に片膝をついた。

 先程拓哉の攻撃そのもの自体は交わせない距離にあり、新藤自身その攻撃を直接身体に叩き込まれた。

 交わす事も、避けることすらも出来ないその攻撃は直接受けたら少なくともただでは済まないものだ。それこそ深い傷を負い、その場で倒れてしまっても不思議ではない程に。

 だが進藤は身体にダメージを受けてはいるがそれ程の深い傷そのものは受けてはいないようであり、身体そのものは動くようだった。

 それに加えて彼の余裕は全く失われていなかった。


 それを見、拓哉は内心毒づく。


 ……やっぱりこれで仕留めるってのは無理な話か……


 そう思い苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 確信はなかったとは言え、進藤自身に大ダメージを与えられると思っていた自分自身の考えが浅はかだと感じながらも僅かに悔いた。

 アリスと《契約》をし、力を得る事が出来たとは言え相手は曲がりなきにもあの《代表候補者》なのだ。

 《契約》を交わしたばかりの魔術師と呼べない素人風情の人間が簡単に勝てるはずなんかない相手。

 あまりにも実力の差がありすぎるのだ。

 それこそ一筋縄ではいかず、また同時に魔術師の中でもっとも優秀だと言われていた実の兄彩和月智也が適わなかった相手でもあるように。


「さすがに今のは多少効いた。だが《契約》を交わしてでも尚この程度の力か……。これならば何も案ずる事など無かったな。お前には酷だが私を殺せない。何故ならば今のお前はあの彩和月智也の足元にも程遠いからだ」


 より一層に冷たい眼差しを向けながら、進藤はその場から立ち上がった。

 それに対して拓哉は進藤へと、


「ああそうかよ。だったら死んでも後悔すんなよ!!」


 そう吠えながら拓哉は進藤目掛けて突進し、バスターソードを閃かせた。

が、同時に。


「彼の者を断絶せよ───」


 進藤は瞬時の速さで武器を手にすると共に唇を動かし、魔術を発動させながら淡い光を纏った槍を真横へと振るい、拓哉の攻撃を弾いた。

バスターソードに纏わりついていた炎が一瞬で弱まる。

 それは進藤が拓哉の攻撃を防ぐと共に魔力の炎を一瞬で切断したのだ。

 だがそれでも拓哉は止まらなかった。

 剣の周囲に纏う魔力の炎を切断、もしくは弱まり消えてしまえば当然拓哉の剣自体の威力は格段に落ちてしまう。

 最悪の場合魔力効果は消え去り、物理攻撃のみしか相手にダメージを与えられない。


 だがそれがなんだと言うのだ。


 要はつまり進藤の言霊の攻撃を受ける前に攻撃、もしくは魔力そのものを切断されたとしても物理攻撃のみで相手をそのままぶっ潰してしまえば全ては解決する話だ!!


 そう思い拓哉は凄まじいスピードで次々と進藤へと攻撃を繰り出すが、それを進藤は顔色一つ変えることはなく平然としながらそれをさばいていく。

 ぎぃぃん、ぎぃぃんとした刃と刃がぶつかり合う音が響く。

 あまりにも速すぎる打ち返しに拓哉は焦りを滲ませ、顔をしかめた。

 そんな拓哉へと進藤はつまらなさそうな口調で言う。


「やはり《命の源》を持つ者としても《契約》で得た急激の魔力量での制御は出来ていないのか」


「余計な世話だ! 制御なんか出来ねぇでも簡単にテメェぐらい余裕でぶっ倒せるからよ。心配しなくてもいいぜ」


 拓哉はヘッと嘲笑を浮かべながらも軽口を叩くと、剣に自分の魔力をさらに注ぎ込みさらにスピードを加速させバスターソードを進藤へと振るった。

 その瞬間剣の真っ赤な炎がより一層に燃え上がり、その炎が容赦なく進藤を飲み込んでいく。

 それは灰すらも残さない業火の炎。

 それに包まれてしまえば自力で逃げ出すことは到底不可能であり、また同時に一瞬で身体ごと灰すらも残さず炎で燃え尽きてしまう。

 存在そのものを消し去り、紛うことなき終わりだ。

 そう思ったその瞬間。


「この程度で本気で殺せたのだと思ったか」


 低く、静かな声音が拓哉の耳へと届いた。

 進藤を包み込んだ業火の炎は一瞬で進藤を中心として飛び散るかのように消えると同時に拓哉は何かの強い圧力に似た攻撃を受けた。

 その攻撃は重く、強い加速を伴って拓哉自身の身体を吹き飛ばそうとしたが拓哉は歯を食いしばり脚に力を込め、その場に踏みとどまった。


「くっ……」


 思わず呻き声が漏れる。

 そしてさらに紫電を纏った光の球体が自分の方へと迫って来た。

 それを拓哉は進藤の方へと素早く剣で薙ぎ払った。

 だが光の球体は進藤に当たる事は無く僅かに起動が逸れてしまい彼の横を掠め、後ろの壁へと大きな穴を穿った。壁から小さな破片がバラバラと床に落ちる。

 そんな中拓哉は目の前の敵を鋭い視線を向けながら剣を構え直した。

 自分の攻撃が敵に予想以上にあまり効いていない事を嫌でも痛感してしまう。

 《契約》を交わしたばかりとは言え、思ったように魔力を制御出来ないうえに魔力自体を断絶されては意味がない。

 確かに魔力を得た事により先程と状況が変わりはしたが、それでもこのままでは不利な状況に何も変わりはしない。

 しかも相手は《二重魔術》を持っている。

 それさえも打ち破るような打開策を見つけないとこのままでは……。

 そう思っていた矢先、進藤は拓哉へと言葉を発した。


「彩和月拓哉。お前は《契約》を交わし、《代表候補者》の力を得れば私に敵うと本気で思っていたのか。だったらとんだ恥知らずもいいところだな。《代表候補者》と言うのは本来その国の《代表者》の次に権力と力を持つ存在だ。当然ただの一般人……況してや魔術師ふぜいが到底敵う相手ではないのだ」


「何が言いたい?」


「つまり《契約》を交わし、力を得たばかりとは言えお前は《代表候補者》ではない。何故ならばお前に”覚悟”が足りないからだ。全ての敵を薙ぎ払い、目の前の相手自身を殺してでも先に進むと言う覚悟がな。お前は兄の後を追い、兄の魔術師おさがりと《契約》をしたからと言って今のお前では私は倒せやしない」


「吐かせ!! コイツは兄貴のお下がりなんかじゃねぇ!? その言葉撤回しろ!!」


 強く叫ぶように言い放つ拓哉に進藤は小さく鼻で笑い、拓哉に瀬々笑うような視線を向けた。


「撤回する必要が何処にある。現にお前と神宮時アリスはあの男の幻想を追っているに過ぎん。お前は世界を変えると言ったな。お前は何の為に世界を変えるというのだ」


「そんなの決まってる。世界中の誰もが笑ってるそんな世界にだよ」


その言葉に進藤はピクリと眉を動かし、不愉快な声音で、


「兄弟揃って救いようのない馬鹿な台詞を口にするのだな」


 より一層氷のような冷たい視線を向けた。

 そして彼は床を蹴ると同時に即座に動いた。

 進藤は手にしていた槍……龍騎斬の刃を凄まじい勢いで拓哉へと突き刺そうとするが、拓哉は一瞬の速さで剣を水平にし、進藤の攻撃を防ぐ。

 ぎっ、ぎぃぃぃとした音がすると同時に進藤の刃から拓哉のバスターソードの炎のが少しずつ弱まり始める。

 おそらく先程進藤が発動した”言霊”の魔力の断絶が継続しているのだろう。

 そのせいでバスターソードの魔力の威力が落ち始めているのだ。

 敵が断絶を発動し、攻撃した時に自分の剣の魔力での威力は落ちるものだと思っていた。

 だがそうではない。

 つまりある一定の時間継続してしまう魔力だとしたらまた話は違ってくる。

 拓哉は奥歯をギリッと噛み、剣に魔力を込めながら前へと押すと同時に目の前の刃をギンと薙ぎ払った。

 そして拓哉は進藤との間合いを縮め、彼の懐に飛び込むように剣を振るった。

 が、その刹那。

 進藤はその攻撃を防いだ。


「世界なんて変わりやしない。貴様も知ってのとおり各国の《代表者》共は自分の国の連中の事を駒としか見てはいない。それは当然の事だ市民は駒であり、上に立つものはそれを利用する権利がある。それは自らの国を強める事に対してもっとも必要不可欠であり、常に弱い駒は切り捨てなければならない。そうやって国は力を得て成長を重ねていくものだ」


「…………」


「だから私は常に上に立ち続ける事を選んだ。しかしあの男は心底馬鹿な奴だった……。この私が声を掛けてやったと言うのにあの男は私の誘いを断るだけでは飽き足らず私に歯向かってきた。もしもあの時私の誘いに乗っていたのならば今頃あの男は違う結末を迎えていたのかもしれんがな……」


「ハッ、テメェが何を言ったのか知らねぇが兄貴がお前なんかの誘いに簡単に乗るわけねぇだろうがよ!」


「随分と威勢だけはいいな。お前は兄の意思を継いで世界の救世主にでもなったつもりか」


 そう何処と無く静かに怒気を孕んだ声で告げた。進藤の龍騎斬全体が紫電の輝きを放つと同時に拓哉はその輝きを浴び真後ろへと吹き飛ばされた。

 拓哉の身体は壁に激突し、強く叩きつけられた身体はズルとその場に崩れ落ちる。

 身体中から強い痛みを感じながらも拓哉はうっすらと瞳を開いた。

 そこには氷のように酷く冷たい視線で刺すような進藤の姿があった。


「お前では世界は変えられない」


 それはまるで呪いのような言葉に近いもの。

 それでも拓哉は全身を蝕むような痛みを無視して歯を食いしばり、再び立ち上がった。


 こんなことろで絶対に負ける訳にはいかない。


 こんな場所なんかで立ち止まる訳にはいかない。


 彼女と交わした誓の為にもこれから先に進む為にも、この状況はこれからの一つの通過点にしか過ぎない事だ。

 その通過点さえクリア出来なくてはこれから先前に進めやしない。

 兄の意思を継いだなんてとても口には出来ない。そんなのはただの夢物語にしか過ぎない事だ。

 確かに目の前の男の言うように簡単に世界なんって変わらないかもしれない。

 自分はこの腐った世界を今までずっと傍観者気取りで眺めていた。

 だけどここで動かなかったら何も変わらない。


 世界を変えると決めた以上。


 護りぬくと決めた以上。


 こんなところで倒れる訳にはいかないのだ。


「これで終わりだ」


 静かにそう告げると進藤は龍騎斬の刃を拓哉へと向け、唇を動かし呪文を詠唱する。

 彼の声に応えるかのように槍全体に紅い文字の羅列が浮かび上がる。

 銀色の刃が徐々に赤い輝きに変わるのを見、拓哉は眉根を僅かに上げると共に焦りを感じた。


 (アレはマズい……)


 あれが一体何の攻撃なのかは分からなかった。

 だがどう見てもあの攻撃を直に受けてしまえばただではすまない事だけは明確なのだと直感で感じた。

 拓哉はその場に転がっていたバスターソードを手にすると同時に力を込めて龍騎斬の刃へと振るった。

 バスターソードから炎の渦が放たれ、それは空中を駆けながら龍騎斬へと一直線に向かっていく。

 進藤はそれを見やり、呪文詠唱に続くように言霊を発動しょうとした。


「彼の者を断……」


 が、その瞬間。

 彼が言葉を放つその直前に、彼の足元へとスペードのかたちをした魔法陣が淡く青い輝きを放ちながら浮かび上がると同時に、彼の図長から氷のつぶてが幾度となく降り注いだ。

 だが進藤は小さく鼻を鳴らすと龍騎斬を軽く振り、そして床へとトンと槍をついた。

 同時にパリィィィンと、まるで鏡が割れ砕け散るような音と共に頭長から降り注ぐ氷のつぶてと目の前に迫る炎の渦が突然消滅した。


 ……一体どう言う事なんだ……


 突然の出来事に疑問が頭の中を埋め尽くす。

 また亜利砂を護りながら咄嗟に拓哉の援護をしていたアリスも拓哉と同じだったようで碧色の瞳を大きく見開いていた。

 進藤はアリスの方へとチラリと視線をやると 彼女の方へと空を切るような仕草で槍を振った。

 ビュウウウと、突風に似た風が彼女達へと襲い掛かり、アリスは既に展開していた魔方陣でそれを必死に防いだ。

 強い力に押されるようなかたちで突風を受けながらも、アリスは展開している魔方陣に魔力をさらに込めながら顔を僅かに歪め、それを押し返す。

 このままでは完全にジリ貧だ。

 先程進藤は拓哉の攻撃とアリスの同じ攻撃を一瞬で防いだ。

 それは二重魔術を使用し、自分達の攻撃を打ち消す事に成功した。

 本来二重魔術を打ち破る方法はある程度知れ渡っている。

 だがそれを打ち破る方法はより高度で魔術自体の火力が高い魔術を相手に隙を与えること無く、連続で打ち続けることによって打ち破る事は可能となる。

 それは一件傍から見たら力押しに見え、最低でも二人の魔術師が一斉に連続技で攻撃しないと打ち破れないと見えるが実際にはより複雑だ。

 より高度で火力性がある魔術は基本魔術自体がより複雑に出来ている。

それもかなりの魔力量を使用した大技となるのだ。

 その魔術を相手に攻撃する技量、魔術の威力それらが全て重なり合う事によって打ち破る事が出来ると言うものだ。

 だけどそれら全ての条件を満たした上で攻撃を仕掛け、打ち破る事が叶わないのであればそれは一般的に考えて条件の一つが欠けている。

技量、魔力の威力自体のどれかが足りない。

 もしくは圧倒的な実力不足なだけだ。

 だが実際に拓哉とアリスはその攻撃を進藤へと仕掛けた。

 少なくともアリスの《時の破滅の道標》はより高度で複雑で火力性も充分に足りていた筈だ。

 拓哉のバスターソードでの威力もおそらくだがそれに劣らないぐらいにはある。

 仮に火力性が足りなかったとしても進藤へと僅かに届く筈だ。

なのにそれがどうして届かない。


 拓哉は頭の中で疑問を巡らせ、そしてハッとある考えに行きあたる。


 自分は相手が二重魔術を扱う魔術師だと思っていた。

 だけど本当にそうなのか?

 もしそれが自分の勘違いだとしたら?

 今僅かに感じている違和感がそのとおりだとしたらこれまでの戦いの前提が全て覆されてしまう。


 進藤が二重魔術を使うのではなく、魔術そのものを二重魔術に似せて使用しているとしたら全ての前提がひっくり返る。

 最初に一つの魔術を完成させ、同時に二つ目の魔術を高速詠唱で完成させれば敵に同時に二つの魔術で攻撃する事は可能だ。

 だがそれは大量の魔力量を使用し、同時に一つ目の魔術が完成した後、二つ目の魔術詠唱を行う為5秒ほどのズレが生じる。

 それを敵は自分達に悟られないように攻撃していた可能性がある。

 だが拓哉とアリスが同時攻撃をしたあの時進藤自身に僅かなズレがあった。

 これは何の根拠もないただの推測にしか過ぎない事だ。

 だけど。


 (ここはやるしかない!!)


 拓哉はキッと前を見据え、勢いよく床を蹴りその場から駆け出すと拓哉は進藤へと即座に斬りかかった。

 が、進藤は拓哉の攻撃を龍騎斬でたやすく受け止める。


「貴様は学習能力はないのか……」


 酷く冷たく、呆れを滲んだ声音で告げる進藤に拓哉は平然としながら言った。


「うるせぇよ。《関西》の《代表候補者》様は俺の命が欲しいんだろう?だったらさっさと殺してみろよ。《生命の源》の所有者でも心臓を一突きしたら簡単に死ぬんだからな」


 そう言いながら拓哉は剣で進藤に斬り掛かるがそれを進藤は防ぐ。

 ガキン、ガキンと刃の鈍い音が響き、そして一瞬剣を龍騎斬の刃から放すと同時に再び切り込むが進藤は瞬時の速さでそれを防いだ。

 ギッギッと、刃の擦れる音を出しながら鍔迫り合いとなる。


「安い挑発だな。貴様が何を企んでいるのか知らんが。所詮小僧の浅知恵にしか過ぎん……。お前達に付き合ってやるのもそろそろ飽きてきた。だからここで死んでもらうぞ」


 進藤の言葉がそう放たれると同時に龍騎斬の刃が淡く赤い光を灯し、それは次第に強い輝きへと変わっていく。


「”言の葉を纏わりし神よ、汝の力を《契約者》に貸し与えし、汝に贄を与えん……」


 進藤の龍騎斬がより一層に輝きを増してゆき文字の羅列が再び浮かび上がる。

 間違えない。さっきと同じ技だ! あの輝きはもしかすると………。

 嫌な予感が自分の中で駆け巡り拓哉は鋭い声でアリスへと叫んだ。


「アリス俺ごとやれ!?」


 その声に。

 アリスは防御魔術を解くと同時に早口で次の魔術の詠唱を行いながら急いで魔術の構成を編み出していく。

 彼の言葉に彼女は躊躇も迷いも無かった。

 今彼は誰かに護ってもらう程弱くなく、彼に初めて出会った頃のような危うさは今となっては全く無かった。

 今そこにいるのは自分が約束をし、《契約》

を交わした者だ。

 彼を心から信頼出来る。

 それに彼は言ったのだ"死なない"と。

 今彼の言葉を心から信じられる。


 だから自分はそれに従う。

 自分が信じる《代表候補者》彩和月拓哉に

───。


 アリスはカードを取り出し魔力を込めるとそれを宙へと勢い良く放った。


 その瞬間。

 宙へと解き放たれた数枚のトランプ流星の如くカッ、カッと床に突き刺さった。

 拓哉と進藤それぞれの足元にダイヤ、スペード、ハート、クローバーの四つのかたち現した 魔法陣が光を放ち、それは次第に巨大な魔法陣へ姿を変えた。

 そしてそれはゆっくりと回り始める。進藤は煩わしそうに、そして忌々しそうな顔で小さく舌打ちし、一瞬集中を乱した。



 言霊とは本来言葉に宿る霊力を意味し、それを口にする事によって実現にする力を持つと古代から信じられていた。

 言霊の力によって人は自らの幸せを招き入れたり、他人を不幸に貶めたりする事が出来る。

 だがそれらは言葉に魂そのものが宿り、その意味が強く反映され、それが可能となるのだと言われていた。

 人の言葉にも様々な重みがある。

 例えば恋人から愛を囁かれれば幸せな気持ちになるように。

 他人から酷く罵られれば気持ちがどん底な気分に陥ってしまうように。

 普段知られていないだけであって言葉には様々な重みと意味が兼ね備わっている。

 進藤は本来人が日常で使う言葉の意味に魂を乗せ、自分の魔力を言霊へと変換し、それを言霊として自ら操っていた。

 そうする事で自由自在に言霊を操り、言霊の力そのものを引き出すことによって、敵の攻撃を切断する事が可能となる。



 だがその言霊による最大級の魔術が存在する。

 それは人間が持つ"負"の感情をより強く、強力にしさらに強化させ、自身の目の前の敵を神の贄として捧ぎ、同時にその敵を一瞬で呪殺す魔術"言霊縛り”を進藤は発動させようとしていた。

 だがその魔術……"言霊縛り"は最大級の魔術ともあってとてつもない集中力と膨大な魔力の量が必要となる。

一瞬の集中力ですら乱すと魔術自体は完成しない。

 それでも進藤は言葉を紡ぎ、そして。


「発動せよ!!”言霊縛り”」


「《時の破滅の道標》!!」


 同時だった。


 空間そのものを揺るがし、あたり一面の床全体に紅く輝く巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 アリスの《時の破滅の道標》は三秒ほど相手の動きを停止させ、止める筈の魔術なのだが《時の破滅の道標》の魔術が進藤の”言葉縛り”によって打ち消され、同時に床を這うように進藤達へと向けられた鋭い氷の刃は”言葉縛り”の余波でパリィンとした音と共に粉々に砕け散った。

 そして拓哉に向けられた龍騎斬は真っ赤に輝く血のような紅色から赤黒い輝きへと変化し、刃には黒い霧のようなものが纏っていた。

 自分の考えが正しいのならばおそらくかの刃に纏っている黒い霧のような禍々しいものは毒なのだろう……。

 目の前の生贄を捧げる……敵を攻撃する事によって"言霊縛り"の威力は相手に膨大なダメージを与える。

 それこそ一発で即死させてしまうようなそんな強力で危険視されている魔術だ。


 人は言葉を操り、言葉を口にする。

 それは生きていく中で必要不可欠なものだ。

 言葉にはそれぞれの意味を持っている。

 単純に考えても進藤は言葉そのものに意味を持たせ、その上から自分で高度な魔術を重ねられる。

 それはとても簡単な事ではない。

 普通の魔術師……況してや《上核》魔術師と言えどそれは至難の技に近いものだ。

 元々意味があるものにその上から自分の魔術 そのものを重ね、さらに意味を持たせる。

 例えば赤い絵の具の上からさらに黒い絵の具を塗ってしまう。

 そうなれば当然色自体が違う色へと変化し、 それは全く違う色となってしまう。

 だが進藤の場合赤い絵の具の上から自分で調節した絵の具を塗ったとしても、それ自体に二つの意味を持たせたままの状態で魔術と使用する事を可能とする力を持っていた。

 それは《上核》魔術師以上の力を持つ者だ。

 それに彼の攻撃を回避出来たとしても完全に防ぐと言う事は不可能に近い。

 だったら彼の術を完成させなければいい。

"言霊縛り"は高度な魔術の為、一瞬ですらも集中を乱せばそれは不完全なものとなる。

 そうする事によって最悪即死を受ける事からは簡単に逃れる事が出来る。

 だが不完全とはいえ"言霊縛り"の攻撃を受けてしまえばもちろんただではすまない。


 高速で拓哉へと迫る龍騎斬に彼は怯みもせず鋭く強い瞳で掌を前へと突き出し、そして叫んだ。


「我の誓いの元に我を護れ!! 《鉄壁の盾》!!」


 拓哉の掌から紫色の輝きを放つ魔法陣が出現し、進藤の"言霊縛り"を防いだ。

 元々アリスと《契約》を交わす前《鉄壁の盾》の制限回数が限られていた。

 もしこれが彼女と《契約》を交わしていなかったのならばきっと目の前の敵の攻撃を防ぐ事は叶わなかったはずだ。

 だが魔力を手にしたところで"言霊縛り"の威力は変わらない。

 龍騎斬の刃を防ぎながら拓哉は額に玉汗を浮かばせながら後ろの方へと強い力で押し出されそうになる。


「くっ………」


 ギリッと奥歯を噛み、ズッと後ろへと下がりそうな脚へとぐっと力を入れ、その場に踏み止まる。

 元々《鉄壁の盾》は拓哉自身が編み出したオリジナルの高度な魔術だがアリスの《時の破滅の道標》と同格の魔力を持つものに近い。

 《時の破滅の道標》が敵に打ち破られた以上 この魔術も長くは持たないだろう……そう拓哉は理解していた。


 だが本来の目的は敵の攻撃を防ぐためだけではない。


 《鉄壁の壁》の魔法陣に一つの亀裂が入り、そこから亀裂が広がるように龍騎斬が拓哉の身体へと迫った。


「先程と同じ攻撃では私は倒せんぞ」


 低く、憎悪が篭った声で敵は自分へと告げる。

 それは敵を倒す術がそれしか無いのだと悟っての言葉だった。

 再び同じ手を使われた敵の魔術師にとって、それは不愉快だったものに近かったのかもしれない。

 所詮はライバルの弟と言えど落ちこぼれの魔術師崩れだと呆れ、失望したのかもしれない。


 自分の身体へと向かう龍騎斬を見、少年はこう思った。


 ─────その思い込みがテメェ自身を地獄に叩き落とすんだよ───と。


 瞬間。

 拓哉の身体をドスとした鈍い音と共に深々と貫いた。

 「ごほっ」と拓哉は口から血を吐き出し、身体をくの字に曲げながらも龍騎斬を手で掴み、そして自分の魔力をそれに注ぎ込んだ。

龍騎斬から放たれる魔力の威力が徐々に落ち始めてゆき、輝きが淡く弱々しい光へと変わっていく。

 進藤はそれを見、顔を歪め即座に拓哉の身体から龍騎斬を引き抜いた。

 龍騎斬を勢いよく引き抜いた為で周囲にボトボトと血が飛び散り、そして進藤は拓哉へと、


「猿真似じみた事を……」


 鋭く射抜くような視線を投げ掛けながら忌々しそうに吐き捨てた。

 それに対して拓哉は口元から血を流しながらも僅かに勝ち誇った笑を浮かべた。

 あの時拓哉は避けられないと分かっていながら敢えて敵の攻撃を受け、それと同時に進藤の武器へと己の魔力を流し込んだ。

 魔術師にとって自分の所有する武器は自分の魔力そのものだ。

 それは手によく馴染んだ武器ならば尚更だ。

 だから拓哉は自分の魔力を敵の武器にわざと流し込んだ。

 武器そのものに他人の魔力が入る事によって武器自体の魔力が一時的な拒否反応を引き起こし、結果魔力の極限状態の低下を引き起こしてしまう。

 おそらく拓哉は進藤の攻撃を受ける直前にべつの魔力を構成していたのだろう。

 だがそれは二重魔術を使えない限り不可能に近いが、彼はまかり無きにも"生命の源"の所有者だ。

 魔力自体を自分の中で分ける事によってそれを可能にした。

 膨大な魔力量を使用して一度に多数の魔力を使用するのではなく、魔力そのものを分ける事によって。

 拓哉は身体から血を流しながらも剣を持ち替え、魔力を込めながら進藤の懐へと飛び込み、間合いを一気に詰めた。


「なぁ、テメェがカスだと思って見くびっていた相手に殺られる気分ってのはどんな気分なんだ?」


 そう告げたその直後に拓哉が携えるバスターソードの炎がより一層に燃え上がり、激しさを増した。

 "言霊縛り"の毒が身体の中を侵食し、恐ろしい程の速さで毒が全身をまわっていくのを感じる。

 毒の為で意識が遠のきそうになるが、拓哉は無理やりそれを振り払った。

 彼は"生命の源"の所有者だが、不老不死ではない。

 万能な人間ではない。

 身体を傷つけられたら自然治癒力で自分の身体は治るが、重症、または心臓をひと突き刺されば死んでしまう。

 また毒も例外ではない。

 それが一瞬で全身にまわる猛毒の類ならば尚更だ。

 普通の人間が一瞬で即死してしまうような術を彼は時間を遅らせているにしか過ぎない。

そして拓哉は頭の中に浮かび上がる文字を口にした。


「"紅き燃え上がる炎舞よ、我の意志に応えよ……」


 拓哉の詠唱を遮るかのように進藤は唇を動かした。


「彼の者を………」


「遅せぇよ」


 そう短く言い放ち、拓哉は自分の手から流れる血を指で剣の柄へと一瞬でなぞり、そして強く言葉を放った。


「《火炎輪舞剣》!!」


 閃光のような速さで拓哉は剣を進藤へと閃かせた。

 燃え上がる炎の一閃が進藤の身体を切り裂き、そして進藤の身体が炎で燃えるように真後ろへと吹き飛ばした。

 ドッッ!!!と、した音がその場に轟くと共に近くの壁に激突した進藤はその場から再び立ち上がる事はなく、気を失いそのまま床へと倒れた。

 拓哉はふらつく身体で敵のその光景を目にする。


 ……やっと終わった……のか……


 そう思った瞬間拓哉の身体がグラリと傾いた。

 その時彼の視界にアリスが涙目になりながらも手にした剣をその場に投げ落とし、自分の方へと駆け寄ってくる姿が見えた。

 彼女は何かを叫んでいるようだったが今の拓哉には何も聞こえない。


 そんな顔するなよ……。

 大丈夫だって俺は死んだりなんかしねぇからさ……。だってさっき約束したばかりだろ?

もうお前だけ残したりなんかしない。お前を一人になんかしない。

 だからさ泣くなよ………。


 そう口を動かそうとするが口は動かず急速に瞼が重くなり、そして彼の意識は次第に遠のいていきその場へと倒れてしまった。

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