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第2話『最底辺の教室』

敗才継承学園の校舎は、静かではなかった。正確には、“序列で音量が決まっている場所”だった。強い者ほど声が大きい。弱い者は、存在しないのと同じ扱いになる。久瀬灯真は、その空気の中を歩いていた。


(ここが……序列の世界か)


視界の端で、薄い光が揺れている。才能の流れ。まだ“戦っていない才能”は、誰のものでもない。つまり――奪える。


教室の前方にホログラムが浮かぶ。「本日のクラス配属評価を発表する」名前と数値が並んでいく。評価値52、評価値71、評価値89。ざわめきは、数字が上がるほど強くなる。そして――止まる。「久瀬灯真」


一瞬の静寂。「評価値3」


空気が“笑い”に変わった。「それ入学できるのかよ」「観測枠って何だよ」「実験動物じゃね?」灯真は反応しない。その瞬間だった。


(見える)


再び“流れ”が視界に重なる。周囲の生徒から、細い線が伸びている。筋力、反射、判断速度。まだ“固定された才能”。つまり奪える。


「では、実技評価を行う」


教師の言葉と同時に、床が開き地下訓練フィールドが現れる。「ルールは簡単だ。模擬戦。勝者は評価上昇。敗者は減点」この学園では、戦いは日常だ。序列は呼吸のように更新される。


「おい、評価3」


呼ばれた。前に立つのは体格のいい男子。評価値41。クラス中位。「悪いな。ここで差を見せる」周囲が笑う。


だがその瞬間、灯真は“流れ”を見ていた。筋力は上、反応は普通、判断は遅い。(勝てる)そう思った瞬間――踏み込まれた。


速い。だが想定よりも“重い”。(……読み違えた)拳が視界をかすめる。一歩遅れていれば終わっていた。空気が変わる。


(こいつ、ただの踏み台じゃない)


一撃、腹部に入る。鈍い衝撃。「……っ」息が詰まる。周囲がざわつく。「おい、普通に効いてるぞ」「やばくね?」


灯真は初めて理解する。(これが“序列”か)見えるだけでは勝てない世界。


流れが再び見える。【筋出力】【瞬発反応】【体幹制御】だが今回は違う。(どれを“今”取るべきか)一瞬の迷い。その隙を突かれる。次の攻撃――致命圧。


(間に合わない)


その瞬間、灯真は賭ける。(瞬発反応)


【瞬発反応:取得】


世界が一瞬だけ遅くなる。拳の軌道が“線”になる。避けられる。一歩、半歩、完全に外す。


「なっ……!?」


距離が空く。灯真は初めて“踏み込む側”になる。(今なら見える)相手の流れ。筋力のピーク位置。呼吸の癖。一瞬の空白。そこに入る。最短の一撃。顎。倒れる音。沈黙。


「……今の、何だ?」


「評価3だよな?」


教師だけが静かに呟く。「初戦で“適応取得”か」


倒れた相手の背後、フィールドの扉が開く。ゆっくりと影が現れる。評価値78。クラス上位。「今の見た」


空気が変わる。さっきとは違う。“遊び”ではない視線。


灯真は息を整える。(まだ終わってない)視界には、さらに濃い“流れ”。さっきより太い線。さっきより速い動き。(こいつは……別格)


評価78。最初の“本当の壁”。灯真はゆっくり立ち上がる。


(ここからだ)

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