第1話『敗才の継承』
この世界では、敗北は終わりではない。“移る”。
才能は、勝者へと流れる。それがこの世界の絶対法則だった。
「……もう、俺はダメだ」
病室の空気は重かった。
久瀬迅。かつて全国でも名を知られた選手。だが今は――目に光がない。立っているだけの肉体。
「才能が……抜けた」
医師の言葉は淡々としていた。
「敗北によって、ほとんどを奪われている」
才能は努力ではない。敗北した瞬間、“移動”する。勝者へ。だからこの世界では、勝つことがすべてだった。
「兄さん……!」
呼びかけても反応はない。ただ、空白だけが残っていた。
その時だった。
(……見える)
久瀬灯真の視界が歪む。兄の体から、何かが流れている。光のような“線”。本来なら、それは勝者へ流れるはずのもの。だが――
(止まってる……?)
いや違う。分岐している。複数の流れ。まるで選択肢のように。
「お前、何を見ている?」
医師の声。だが灯真は答えない。
(これが……才能の流れ)
その瞬間、理解する。
(これ……選べる)
本来、才能は一方向。勝者へ固定される。だが今見えているものは違う。“複数の可能性”。どの才能が、どこへ行くか。選べるように見える。
医師が兄のデータを確認する。
「……動体視力がほぼ消えている」
「瞬発力も喪失」
「空間把握能力も低下」
才能は“ばらばら”に抜けていた。そして、その断片がまだ“空間に残っている”。
(なら……)
灯真の視界に分岐が浮かぶ。
【動体視力】
【瞬発力】
【空間認識】
普通なら、勝者に吸われるだけのもの。だが灯真には“選択肢”として見えている。
(どれを取る?)
一瞬の迷い。そして――
(動体視力)
選んだ瞬間、視界が変わる。
【動体視力:取得】
世界の“速度”が変わった。わずかな空気の揺れが見える。指の動きが予測できる。
「……何をした?」
医師が眉をひそめる。だが灯真は答えない。
(これが……奪う側)
「灯真……」
かすれた声。兄の視線が一瞬だけ戻る。
「気をつけろ」
「この世界は……まだ……」
言葉は途切れる。完全な沈黙。
数日後。
【敗才継承学園 合格通知】
評価値:3
最底辺。だが、その下に一行だけある。
【特異適性:観測系】
「観測系……?」
意味は分からない。だが、拒否する理由もない。
灯真は封筒を握る。
(才能は選べる)
(なら、奪える)
窓の外では雨が降っていた。その向こうに、見えない“流れ”がある。無数の才能。無数の分岐。
(全部、使う)
【天凰学園編・開幕】
読んでいただきありがとうございます。
感想・評価励みになります。




