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第11話 『侵食』

「あああああっ!?」


絶叫が競技場を埋め尽くす。


開始から数秒。


それだけだった。


一人。


また一人。


さらに数十人。


生徒たちが膝から崩れ落ちる。


白い霧。


継承粒子。


それは空気ではない。


才能を削る毒。


才能保持戦。


その本当の意味を。


灯真は今理解した。


身体が重い。


力が抜けていく。


視界の奥。


自分の身体からも光が漏れていた。


才能。


生命力。


あるいは。


存在そのもの。


そんな気がした。


【筋反応補助】


【保持率96%】


観測者が反応する。


数字が減っている。


侵食されている。


その時だった。


隣で九条が膝をつく。


「ぐっ……!」


顔色が悪い。


明らかに。


灯真より苦しそうだった。


【九条蓮】


【保持率74%】


観測者が勝手に解析する。


灯真は目を見開く。


見える。


他人の侵食率まで。


「九条!」


駆け寄る。


九条は歯を食いしばっていた。


「平気……だ」


平気ではない。


誰が見ても。


このままなら落ちる。


その時。


観測者が反応する。


【侵食濃度差確認】


【安全領域検出】


灯真は周囲を見る。


霧の流れ。


濃い場所。


薄い場所。


見える。


侵食の弱い場所が。


「こっちだ!」


九条の腕を掴む。


半ば引きずるように移動する。


数メートル。


それだけ。


だが。


九条の表情が変わった。


「軽い……?」


保持率。


74%。


76%。


78%。


少しずつ戻っている。


灯真も息を吐く。


使える。


観測者は攻略法を見つけていた。


その時。


競技場全体がざわつく。


理由はすぐに分かった。


中央。


御門皇牙。


序列十二。


霧の中。


微動だにしない。


侵食率。


ほぼゼロ。


まるで。


巨大な岩。


周囲の粒子がぶつかっては砕けていく。


怪物だった。


だが。


さらに異常な存在がいた。


白瀬蒼司。


序列七位。


彼は歩いていた。


普通に。


散歩するように。


侵食を受けている様子がない。


まるで。


霧そのものが存在しないかのようだった。


そして。


最も異常なのは。


鷹城迅。


序列一位。


彼の周囲だけ。


空間が歪んでいた。


継承粒子が近づけない。


押し返されている。


才能の圧力だけで。


支配している。


教師席から声が漏れる。


「またか……」


「一年であれをやるのか」


「化け物め」


教師ですら驚いていた。


灯真は息を呑む。


格が違う。


完全に。


その時だった。


観測者が反応する。


【解析開始】


【継承粒子】


【侵食構造解析中】


灯真の視界が変わる。


霧が見える。


流れが見える。


侵食の仕組みが見える。


そして。


【適応方法検出】


鼓動が跳ねる。


攻略法。


耐えるだけじゃない。


利用できる。


灯真は目を閉じる。


流れを読む。


粒子。


才能。


侵食。


全てを観察する。


すると。


見えた。


継承粒子は奪うだけではない。


流れている。


循環している。


灯真はその流れへ身体を合わせる。


一歩。


また一歩。


次の瞬間。


身体が軽くなった。


【筋反応補助】


【保持率96%→98%】


上がった。


侵食に適応している。


さらに。


観測者が反応する。


【新規適応確認】


【侵食適応 Lv1】


灯真の目が見開く。


新しい能力。


初めてだった。


観測した結果。


進化した。


その時。


近くで生徒が倒れる。


才能の光が流れ出す。


完全脱落。


そして。


その一部が灯真へ流れてくる。


観測者が反応する。


【取得可能才能検出】


鼓動が速くなる。


取れる。


今なら。


簡単に。


だが。


兄の顔が浮かんだ。


病室。


空っぽの瞳。


失われた未来。


灯真は拳を握る。


取らない。


少なくとも。


今は。


その時だった。


教師席から緊迫した声。


「待て」


「粒子濃度が上昇している」


「あり得ない」


別の教師が叫ぶ。


「異常粒子だ!」


会場の空気が変わる。


灯真も気づく。


霧の色。


白ではない。


奥の方。


僅かに黒い。


濁った粒子が混じっている。


観測者が反応する。


【高密度継承粒子確認】


【未知物質混入】


【危険度:高】


教師たちの顔色が変わる。


「なぜここにある!」


「研究棟由来だぞ!」


灯真の心臓が跳ねる。


研究棟。


第7話で見た。


あの立入禁止区域。


澪の表情が固まる。


白瀬も。


初めて視線を向ける。


皇牙の目が細まる。


そして。


鷹城だけが。


静かに黒い霧を見つめていた。


まるで。


知っているかのように。


次の瞬間。


黒い粒子が爆発的に拡散した。


悲鳴。


絶叫。


競技場全体が揺れる。


灯真の観測者が警告を鳴らす。


【緊急警告】


【観測対象 S級反応確認】


【識別コード不明】


灯真の背筋が凍る。


何かがいる。


霧の向こうに。


研究棟と繋がる何かが。


そして。


それは。


この試験のために存在しているものではなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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