表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/30

ダンジョン攻略RTA(後編)

 無限にも思える短い時間私は穴の中を落下する。未だ赤さが残るドロドロに溶けた岩肌は、彼女の攻撃が如何に強力であったかを物語る。

 そうして降り立ったその場所は、先程とは全く異なる雰囲気の空間であった。基本的にダンジョンは地下に降りていく程出現する魔物も強くなり、環境も過酷になる。それを第一層からいきなり第三層までワープしたのだ、ギャップを過剰に感じるのも当然であろう。

 そして、謎の縦穴から降りて来た私達を待ち受けていたのは魔物の大群であった。それを見て比奈は顔を引きつらせ、雲雀は軽く悲鳴を上げる。一方の咲良は。


「おお、魔物がいっぱい、ですね」


 平然と一言。


「じゃあ早速!」

「待つ、です」

「はい!」


 そんな魔物の群れに刀を片手に突撃しようとした快人を彼女が引き留める。


「これからの戦闘では、剣ではなく魔法を使う、です。魔力総量は、魔力を使えば、使う程増える……」

「えっ、でも魔力が」

「安心する、です。私が逐一、回復する、ですから」

「了解です! "リグラ・グレンズ"!」


 彼が黒い炎を魔物へ向け放つ。それは先程岩盤を穿った物程ではないにしろ強力で、瞬く間に魔物を灰にしていく。だが威力相応に魔力も消費するらしく、すぐに息切れしてしまう。そんな彼の身体を淡い光が包み込む。


「これは……ありがとうございます!」


 どうやら先程言っていた"回復"らしく、彼は元気を取り戻すと再び魔法を連射し始める。

 そんな彼の活躍は凄まじく、後方の私達はといえば時たま抜けてくる数少ない魔物を倒すのみ。彼程ではないが比奈にも光る物はあり、彼ら二人で殆ど終わってしまいそうだった。


「二人とも、凄いっすね……」

「いやマア、二人はミーから見てもGreatだと思いマスよ? 普通じゃないデス。あれと比べるのはきついデスよ」

「そうっすよねー……」


 二人と比べて落ち込む雲雀を励ます。|Walls have ears《壁に耳あり障子に目あり》、こういう所で良い面を見せていく地道な物も立派な潜入諜報員の活動である。

 それはともかく、これは予想外だ。私としては苦戦する彼を颯爽と助ける事で好感度を上げようと思っていたのだが、これでは逆に私が守られる形となってしまっている。非常にマズい。

 そうして進み、ダンジョン進入から約三十分。私達は最下層──第四層に到着したのである。二層分をすっ飛ばしたとはいえこれは驚異的なスピードだ。快人や比奈の消耗を逐一咲良が回復し、普通は休憩を挟むのをほぼノンストップで進んでいたのが効いたのだろう。

 確かに快人の活躍は見る事が出来た……だがこれを果たして彼の本当の力と言ってしまっていいのかは疑問である。そもそもリグラ・グレンズを撃ちまくっていただけだし。


「あ、アレじゃないっすか? 先生が言ってたやつ」

「そう、だと思うけど……何か様子変じゃない?」


 第四層到着から約十分、私達はダンジョン最深部に到着する。そして着くやいなや雲雀がある一点を指差し声を上げ、それに比奈が警戒しながら不安げに言う。

 そこには一体の魔物が鎮座していた。全身が禍々しい紫色に変色した体長二メートル程の狼、これの内部にある魔石を持ち帰る事が今回の演習の達成条件である……のだが。


「死体……? コイツがやったのか?」


 そう、今快人が言った風に奴の周囲には血液と肉片が散らばっていた。それは見る限り、同じく狼である様だ。魔石は無い。奴が食べたのだろうか。

 だがそれはおかしいのである。何しろ基本的にダンジョン内部の魔物同士で争う事などないのだから。


 そう思った瞬間、狼の身体が膨張していく。形はそのままに体長が三メートル、四メートル……やがて七メートルを超えたあたりで止まり、遠吠えを叫ぶ。


「「「なっ!?」」」

「こんなの、聞いてないんデスけど……?」

「……」


 ここに出現する狼にこんな機能が付いているなんて情報は入っていない。

 だが同時にこれはチャンスだ。ここで私が華麗に奴を討伐し──


「師匠! アレをやってもいいですか!?」


──ようとした瞬間、最前列で比奈達を庇っていた快人が咲良に尋ねる。

 話を振られた咲良は軽く頷き、言う。


「無理は、しないように……皆は私が、守る、です……"プロテクション"」

「ありがとうございます!」


 瞬間、快人を除いた全員が半透明紫の膜に覆われる。触ってみると、硬い。どうやら魔法障壁らしい。

 そしてそれに唯一入らなかった快人はといえば。


「"陽に塗れた雷の子よ、火の星にて希望を捧げたまえ"……」


 何やら、唱えていた。

 ぶつぶつと謎の文言を喋りながら、狼の攻撃を避けつつ抜いた刀の切っ先で自身の前面の空間を何やら切り裂いて──その切り裂いた軌跡が光となり、やがて円形の紋様──魔法陣を形成する。

 ここまでで私は察した。今、彼が唱えているのは『詠唱』だ。彼は今、魔法を使おうとしている。

 私がぽかんと眺めていると、やがて彼の形成した魔法陣の中心に光の粒子が集まっていき、そして──


「──"ショックカノン"!」


 ぽふっ。


──何も、起こらない。


「……無理かー」


 あれだけ大仰な詠唱をしておいて特に何も起こらなかった彼はがっくりと肩を落とし、そのまま膝をつく。どうやら失敗しても魔力はしっかりと消費する様だ。

 そんな隙を魔物が見逃す筈もなく、彼にめがけて飛んでいく。それに比奈は悲鳴を上げ、彼を助けんとシールドの外に出ようとする。ああ、何と良いシチュエーションだろう。彼女よりも私が彼の元に行く方が速い。これで私の好感度はプラスに──


「やっぱり、まだ無理、ですね……」

「す、すみません師匠……」


──出来ない。

 一体何が起こったのか分からないが、いつの間にか咲良が彼の前に立っており、そして魔物は私達が入っていた物と同じシールドに閉じ込められていた。

 それに向け、彼女は杖を向ける。


「改めて、手本を見せる……よく見る、ですよ……」


 そして彼女は詠唱を始めた。


「"陽に塗れた雷の子よ、火の星にて希望を捧げたまえ"」


 いつものどもった喋り方とは打って変わり、まるで機械の様な流れる様な詠唱。


「"冥界にて散り、大地に蘇る。天の覇者を墜とし、地の雄を灰へ"」

「さ、咲良のあんな喋り方、初めてみたっす……」

「……まるで歌みたい」


 雲雀と比奈が、まるで見惚れる様に彼女を見つめている。

 どうやら二人から見てもこの様子は異様らしい。


「"永遠の宙を駆け、数多の敵を撃ち穿て"──」


 彼女の杖の先端が動き魔法陣を空中に描く。その動作には一切の澱みが無く、まるで予め書いてある物をなぞるかの様な正確さだった。

 そして、最後に一言。


「──"ショックカノン"」


 轟音、閃光。

 爆発音にも似た音が鳴り響き、青白い光線がシールドに閉じ込められた魔物へと宙を切り裂きながら突き進む。そしてまるで風船を割るかの様に易々とシールドを貫いた光線は魔物を穿ち、その全身を完全に消滅させた。

 それをなした閃光はといえば魔物を消滅させた瞬間に消えており、恐らくは彼女が意図的に消したのだろう……


……いや、何だコレ。私は心の中で滝の様な汗を流していた。

 先程ダンジョンに縦穴を作った時は突然の事だったので感じ取りにくかったが、込められた魔力、凄まじい威力、そして魔力操作の正確さ。その全てが飛び抜けている。彼女と並び立つ魔法師は我が国でも数人しかいないのではないだろうか。私は当然無理だ。

 いや、確かに報告書の書面ではこれよりも遥かに凄い事をやっていた。やっていたが、実際に見るまでは正直舐めていた。


──きっと驚くと思うっすよ──


 不意にダンジョンに入る前に雲雀に言われた事を思い出す。

 あの時の私は確実に咲良の事を舐めていた。今ではそんな事絶対に思わない。

 藤堂快人、魔物の異常個体、朝露咲良。ああもう、報告書に一体どれだけの事を書けばいいんだ。私は取り敢えずそれに頭を悩ませた。



 と、そこでふと一つの事を思い出す。


「……っていうか、消滅させちゃったら魔石取れないんじゃ」

「……あ」


 結果として、私達は再び魔物が湧くのを待つ事になったのだった。




「ゲホッ、ゴホッ!」

「雲雀大丈夫……!? ちょ、ちょっと貴女、血が出てるじゃない!!」


 帰路、ダンジョン内部を逆走している時、不意に雲雀がくぐもった咳をする。

 それを比奈が気にかけると、彼女がそんな声を上げる。見ると、雲雀が口を押さえていたであろう手の平にはべっとりと血がついており、また口元にもツーと赤い筋が流れている。

 土の様な顔色といい、どう考えても異常事態だった。

 そんな彼女に咲良が近付き、杖を構えて一言。


「"ハイネスヒール"」


 瞬間、雲雀の身体が強い薄緑色の光に包まれる。

 すると見る見るうちに彼女の顔色が良くなり、息も安定する。


「お、おお……ありがとうっす、咲良」

「いえ……でも、帰ったらもう少し、精密な検査を──」


 と、咲良が言いかけた瞬間雲雀の面相が変わる。


「や、やめて下さい!!」

「──ぇ」


 突き放す様な言い方に咲良は呆気にとられる。そんな彼女の様子を見て、雲雀はやってしまった、という表情をする。


「あ……ご、ごめん」

「……い、いえ。私も……踏み込み過ぎた、です……」

「いや、咲良は私を思ってやってくれたっす。わ、私の言い方がキツかったせいで……と、とにかく、私は大丈夫っすから。さっきかけてくれた魔法で元気百倍っすよ!」

「……それなら、よかった、です」


 しゅん、とする咲良を謝罪ついでに励ます雲雀。

 彼女を元気づけようと袖を捲りサムズアップするその姿が、どこか空元気に見えたのはきっと見間違えではないのだろう。

この小説の続きが見たいなと少しでも思った方は、三秒で終わるので下の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしてください


多分今後一切やらないであろう咲良による完全詠唱ショックカノン


原作では咲良抜きの四人パーティーで、レフィナとの初顔合わせ+雲雀のヒロイン加入みたいなイベントでした。2巻、3巻の章ヒロインは雲雀だからですね。最後に吐血するのは同じです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いや、何だコレとそのオチいいですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ