第一章8話 ボク3節 『あれは嘘だ。あれは嘘だ。』
一章8話予告編動画
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「おい、聞いたぞ! 先輩を倒したんだって? お前やるなぁー」
学食にてその日、ハルキは和気あいあいと友人に囲まれていた。
先日の先輩との決闘、ボクが勝利したことは周知の事実となっている。
その以外な結末に、皆からの賞賛の的となったボクは浮足立っていた。
「えへへ、えへへ」
いつもは輪の中で端役なボクも今日だけは主役だった。
いまだ包帯や生傷が残るがなんのその。
慣れない賞賛の嵐に、頭をかきながらボクは確かな幸福感を実感していたんだ。
「やっぱおまえ、やるやつじゃないか! わかってたんだよなぁ俺は!」
「お前がイキるなよっ」
仲間の冗談に、皆が笑う。
その輪の中に確かにボクは存在する。ここにいていいんだ。
ボクは自己肯定感を強く感じていた。
「「あはははは」」
ハルキもその笑いの中に交じり、声が広がってゆく。
最近きてる! 風が! ボクに向かって!
………
……
…
「え! 本当!? わたしすごくうれしい! ありがとうハルキ君。なんて言ったらいいのか……! そんなケガまでして……ううん、本当にありがとうね!」
あの後すぐにフィルミさんに報告にいったら、手を握って喜んでくれた。
その様子にボクは嬉し涙を流すほど感動してしまい、二人で泣きながら笑ったのだ。
思い出すと、今でもあの幸福感に震える。
人生の中で最も強烈な成功体験。ボクは誰かのために頑張って、そして成し遂げたんだ!
そんな思い出に浸りながら、久々に学園外れの倉庫にやってきた。
今日はたまたまバイトが休みという事もあり、久々に読書をするためだ。
神様ありがとう! こんなおまけまでボクにくれて!
「はぉ……。なるほどぉそう来るかぁ……。ええっ!? いやぁん」
ボクは自己陶酔を感じながらも物語の中に没頭する。
ここには誰もいない、恥ずかしくないんだ、ボク一人だけの天国。
気が付けば、いつの間にか夕暮れは過ぎ去り、夜もいい時間になっていた。
「そういえば、創作に出てくる国々にはドラゴンの歴史とか、伝説の英雄とか、過去の戦争とかあるよな。考えてみたらボクたちの世界に歴史って無いのかな? 学校では習ったことないかも……」
深く考えてみるが、図書館にも歴史書はなかったし、ハルキの人生において人類の歴史というものはいまだかつて触れたことが無いことに気が付く。
今まで気にしたことなかったけど、ボクらって国とかに所属してるのかな? 人種? とかもあるんだろうか……。
熟慮するハルキだが、どうにも結論は出ない。
「まぁボクなんかが気にしても仕方のないことかぁ……わっ! まずい」
時計を確認すると、門限ギリギリの時間である事に気が付く。
ボクは慌てて倉庫を飛び出した。
「(いやぁいかんですよ、本に夢中になりすぎてすぎて遅くなっちゃった……)」
いまだ感じる万能感にボクは浮足立っていた。
誰もいない暗い校庭を急いで歩いていく。
もう夜もずいぶん長くなった、吐く息の白さが冬季を感じさせる。
「よぉし! 明日からもバリバリ頑張るぞ!」
今日一日を振り返り、再び幸福感に浸ったボクは元気を出す。
っとその瞬間、ボクの瞳は怪しい影をとらえてしまった。
それは普段のボクであれば気が付かないようなモノ。たまたま目端に二人の男女の姿が見えたのである。
「アレ。今のは……フィルミさん?」
彼女がなぜこんな遅い時間に外に?
まさか逢引!? い、いやフィルミさんがそんな不純な事をするわけがないんだ。
だって門限ギリギリだよ? 清く正しい交友をですね……。
いやいや! 何があったんだろうトラブルかな?
ボクは不安感と好奇心に逆らえず、二人の後を追ってしまう。
二人が落ち着いたのは校舎の影、そこには鬱蒼と林が茂っていた。
街灯もなく、こんな遅い時間帯ではまず誰も来ないような場所……。
う、なんだろ。フィルミさんごめんなさい。
ボクは影からこっそりと二人の様子を伺った。
「先輩ぁい、これで買い取りも確定できましたし。残りのお金ももうすぐ貯まりますよぉ」
フィルミが知らない上級生相手にへつらい、猫なで声で取り入っている。
「(え、え、フィルミさん? あんなフィルミさん見たことない……)」
ボクは理解できない現実に、フリーズする。
なんでフィルミさんがそんな事を。あんな声も……。
それもこんな場所で?
眼鏡をかけた堅実そうな相手にボクは心当たりがあった。あの人は確か副生徒会長……。
フィルミさんは副生徒会長に下品に抱き着き、胸を押し当てている。
「約束までぇ、あと少しですよね? はいこれ今回のお金ですぅ」
彼女はボクが渡した封筒をそのまま副生徒会長に渡していた。
あ、ああ、たしか生徒会の人に取り持ってもらってたって。
でででもなんであんなに、ベタベタしてるんだ……。
直前まで有頂天だったボクは、何とも言えないような喪失感。
まるで足元の地面が急に無くなったかのような感覚に襲われていた。
「ああ。これで奴もエセンタルの買収からは逃げられないだろう。よくやったなフィルミ」
「わぁ! ありがとうございますゥ!」
フェルミは声を一トーン上げ嬉しそうに両手を合わせた。
その笑顔は普段ボクに見せるようなものではなく、なんというかその……。
男に下品に取り入るような顔だ……ボクは愕然としている。
いつものフィルミさんじゃないみたいだ……。
「さっきから女アピールがうるさいんだよ。まあ僕はそういうなりふり構わないのも好きだがな……!」
副生徒会長がおもむろにフィルミさんのお、おっぱいを揉んだ。
「きゃぁはっ! まだ早いですよぉ」
対するフィルミさんはあまり嫌がるそぶりをみせず、副生徒会長から一歩離れる。
その反応や聞きなれない声と共に、ボクの世界が消失していくのを感じていた……。
「とにかく僕は約束は守る。あと少しだぞ」
「はい! がんばりますぅ」
気が付くとボクは走り出していた。
なんで? 何故? どうして? わからない……わからないよ……
自分でも信じられないくらいボクは走り続けた。無我夢中、休むことなく一直線に目的の寮へ。
「あれは嘘だ。あれは嘘だ。あれは嘘だ! 本当じゃない……嘘っぱちだ! 何かの間違いなんだ……!」
いつの間にかボクは寮のトイレに駆け込み、胃の中の物を捨て吐き出している。
誰かの嗚咽が聞こえた……それはボクの物だ。ボクは不思議な事にボク自身を客観視するかのように感じていたのだった。
変な感じだ……。ただひたすらに苦しい……。
胸が心が固まり、圧縮され萎んでいくような閉塞感……。
「……わけ、わかんないよ゛……」
その後は、ベッドに倒れこみ。
ただ、ひたすらにボクは泣いた。
泣いて泣いて。
気が付くと、いつの間にか朝を迎えていた。
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
今日はカレーパンを食べたゴブ!