第一章37話 オレ7節 『ありがとう。』
一章37話予告編動画
https://youtu.be/G5CjsnDDYi0
――ドットレットとの面会数分前。
フロディス・ティーリオ地下分解槽。
巨大な釜の前に荷物が積み上げられていた。
以前ハルキを連れて行こうとしたネズミ博士がそこで作業をしている。
何か資料を見ながらその袋を――死体袋を荷車で運んでいた。
「えーっとなニなニ? こいつは分解槽じゃなくテ、保存研究室だなっト……」
ゴリゴリゴリ。
死体を乗せた荷車が進んでいく。
白くて明るい綺麗で無機質な通路を抜け、とある部屋の前にたどり着く。
自動ドアが開くと、そこは培養カプセルが大量に並んだ部屋だった。
――異能力発現者達の死体を保存しておく場所。
「いやア、せっかくのガチャ成功。異能到達しても死んじまったら意味ないのにナ……」
ネズミは袋から死体を取り出すと、新しい何も入っていない培養カプセルへと投入した。
ドボンという音を立て、死体は――ジンクはぷくぷと泡を出しながら緑の液体へ沈んでいく。
「ン……この死体、胸部だけじゃなくて頭部が欠損してル……? そんな報告あったっケ? まあいいヤ、しーらなイ」
一仕事終えたネズミは手を叩きながら、部屋から退出しようとしていた。
並ぶカプセルの中に一つだけ空白があるのを発見する。
「(あレ? ここの異能者がいなくなってるゾ……。持ち出しの報告あったっけなナー?)」
ネズミ博士は口に手を当てた。
うわっ……オイラの管理……もしかして適当過ぎ……?
………
……
…
「なにがぁ!? 何が起こったんだぁよぉ?」
ドットレッドは声を荒げ、映し出された投影魔法を確認している。
けたたましいサイレンが鳴り始めた。
キュイ! キュイ! キュイ! キュイ! キュイ! キュイ! キュイ!
「タァーミナルコアの損傷ぉ? なんでなんで今なのよぉ……!」
「大丈夫なのか、レッド様……!?」
俺たちは異常な状態に慄き、どうすることもできない。
「このままじゃまずーぃ! ちょとコアの様子見てくるぜぇ……お前らはここにいろぉ……一番安全だから。いーか? ここから動くなよぉ……」
ドットレッドが乗っていた乳母車が変形し、いくつもの手――ハンドアームが出現する。
それを多脚稼働させガシャガシャと、慌てた様子でママたちを引き連れ部屋から出ていった。
「一体……何が……」
キリエが不安そうな声を上げた。
残された俺たちは為す術もなく、ただじっと投影魔法を見ているしかなかった。
しばらくすると投影魔法に学園を襲撃する機械の影が映る。
これは何だ……。
俺たちは初めて認知した、その敵とも言えるような機械の集団に学生達が追い立てられるのを見た。
抵抗する者、逃げる者、追い詰められる者、殺されるもの……。
地獄の顕現に俺は狼狽した。
マジか……イカれてるだろ……こりゃ……。
「助けなきゃ!」
キリエが駆け出す。
俺はとっさに彼女の手を掴んだ。
「お前何考えてンだ! 俺らがあそこにって何になるってんだよ……! 諦めろ」
俺は現実をキリエに叩きつける。
しかしキリエは俺の手を振り払った。
「ルゥガ先輩はここにいて、私は行くから――!」
キリエは信念を燃やした目と共に、この部屋から走り出していった。
……。
……。
「――ハ、ハハハハ……」
俺はから笑いを上げながらその場にへたり込むしかなかった。
「(キリエ。お前がうらやましいよ……俺には……ムリだ……)」
………
……
…
地上の地獄では一部の生徒たちが団結し、機械に抵抗していた。
暗闇と騒音の中、怯えた集団の先陣に立つ一人の男子生徒がいる。
「皆ッ! 俺の後ろに下がるんだ……ッ」
『腐り姫ぇぇぇッ!』
一部の者は機械に対抗できていたが、実戦そして未知の敵との遭遇。
そのような状態で実力を発揮できるものはそう多くはなかった。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
キリエは阿鼻叫喚の中を駆け抜ける。
助けられる生徒は助けたが、その道程には何人もの惨たらしい死体を見ながらも放置してきた。
「(今は……ごめんなさい……ッ)」
今までの戦闘で心身ともにダメージ負い、彼女は既に限界である。
それでもまだ折れてはいない、信念のもとにキリエは正義を遂行していた。
彼女は動けなくなるまで、折れるまで死ぬまでそれを貫いただろう。
――まるで一本の槍のように。
突如、戦闘と襲撃で崩れた建物の影から一人の女生徒がキリエの前に現れた。
「あなたこんな所にいちゃだめでしょ!? ……あっち……に……」
尻すぼみになっていく言葉と裏腹に、キリエは心が歓喜するのがわかった。
ボーイッシュなベリーショート、前髪で片目を隠した彼女は……。
「ソ、ニア……?」
信じられない……彼女は、私の親友ソニアが……なんで……。
私は考えるよりも先に、嬉しさのあまり彼女の手を握り締めた。
『ありがとう。』
そう言って、彼女は首をゴキリと鳴らした。
何度も何度も見た動作、その癖。
それを見た私は驚きのあまりたじろいでしまう。
違う……ッ!
これはソニアじゃない……!
「あなたは、もしかして――」
私の言葉は衝撃によって途切れる。
体が……動かない……何……? 私の胸から……鋭利な……機械の脚が……生えて……。
いつのまにか周囲に機械が集まっていた。
ゴボリと。
口から赤い血が……私の命が……止め処なくこぼれていく。
私は最後に薄れゆく景色の中、彼女を……いいえ、彼を見る。
――ジン。
そうか、あなたが……。黒幕だったの……ね。
………
……
…
機械の群れが、暗闇の中を飛行している。
黒く、黒く一帯を埋め尽くすそれはまるで虫の大群のような、蝗害のような光景であった。
その中に一つだけ不自然な生命がいる。
正確には一つの不完全な生命と、元生命だったモノ――
飛行型の機械の上に、ソニアがキリエの死体を抱き抱えていた。
“オレ”はジンクの体を乗り捨て、ソニアの死体を乗っ取ったのである。
「(ターミナルコアを破壊して防御機構を無効化し、学園を機械に襲わせる計画はこれで完遂だ)」
長かったが目標はクリアだな……。
オレは瞳の中に映る、画面UIに表示されているクエストマネージャーの更新を確認した。
機械の大群は闇を引き連れ、空の彼方へと消えていく……。
無表情なオレは首をボキリと鳴らした。
――静かな達成感を感じながら。
■“オレ”について。
・認識阻害魔法の適性は体と共に喪失した。
・異能力はオレ依存なので継続。
・人間を殺せない制限も継続。
・人間の乗っ取り能力も継続。
・引き続き命令を実行する。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございましたゴブ!
ボクオレ。は一旦完結とさせて頂きたいと思いますゴブ。
また機会があればどこかでゴブ~




