第一章36話 オレ7節 『ドットレッド・ジャレットジャーク』
一章36話予告編動画
https://youtu.be/qzXvAx6Dvr0
――時間は遡り、機械による学園襲撃があった数十分前。
ゴウンゴウンという振動と共に緊張感が高まっていく。
巨大な昇降機――そこに今、俺たち二人は真剣な面持ちで乗っている。
学園の地下、世界の秘密へと向かっていた。
早速、俺は生徒会長特権で学園長と会う約束を取り付けた。
まさか、一緒に申請したキリエも通るとは思っても見なかったぜ……。
「ジンの野郎もここに居たらなぁ……あいつもさぞかし来たかっただろうよ」
俺たちはジンの要望通りに、今日の0時前――月に一度の厳しい外出禁止令の日を指定した。
「なんだかまだ信じられないわね……ルゥガが生徒会長になって、そしてここにジンがいない……まるで夢物語のような気分だわ……」
キリエは沈んだ様子で現状を評価する。
「夢物語か。乙女みてーな感傷も結構だが、鬼が出るか蛇が出るか……気を引き締めねーとな?」
「悪かったわね……私はこれでも乙女なのよ」
ぷりぷりと拗ねるキリエであった。
「そうそう、おめーさんはそうこなくっちゃな」
私はルゥガ励まされた事に気が付き、腕を組んでそっぽを向くと少し赤面した。
「(確かに今は弱気になってる場合じゃないわね……学園長、そして退学の謎……全ては今からにかかっているんだわ)」
振動と音を立て、昇降機が到着する。
暗闇から、一人の女性の姿が拍手と共に浮かび上がった。
スーツ姿の彼女は、なんというかその……非常に豊満で、いや豊満というにはいささか異様な胸部をしている。
ヘソまで届くような異様な大きさの乳房を携え、それに合わせお尻も大きい。
「(普段着る服とか肩こりとかどうなってるのかしら……)」
私はその異様にコケティッシュである彼女の見た目に、ただ固まるしかなかった。
この人が学園長……?
「おい、あんたが学園長なのか……?」
私の気持ちを代弁するかのようにルゥガが声を上げた。
……でもあなたどこ見てるよッ!
まるでそこに顔が付いているかのように、ルゥガはその余りある乳房を凝視していた。
「いえ、私はドットレッド様の秘書でございます……ルゥガ様、新生会長就任おめでとうございます。お二人ともアポイントメントは承っておりますので、どうぞこちらへ」
秘書と名乗った彼女は、美しい歩きで通路を先導していく。
私たちはそれに黙って追従した。
彼女のヒップラインを強調するかのような歩きに、ルゥガが感嘆の声を上げた。
「ぉぉ……! 豊満 まるで冗談 股間 とても好感……!」
あなた本当に何しにここに来たのよ……本当に男ってエッチな事が大好きなんだから……。
はぁ……まったく、って私と何を見比べているの? 本当に失礼ね!
私は睨みをルゥガに利かせると、彼は焦ったように明後日の方向を見上げた。
これが次世代の、あのルーカス前会長を下した男だとは……情けないったらありゃしない……!
彼女は何度か角を曲がり、重厚に閉じられた扉の前に立つ。
見た事もない精巧な機械に彼女が手を当てると電子音が聞こえ、そしてゆっくりと扉が開いていく……。
ついに私は、ここに――学園の秘密中枢にやってきたのだ。
緊張感が湧き上がっていく。
いてもたってもいられない、駆け出して早く中を覗きたい……!
10秒ほどだろうか、不便にも程があるその何重にも閉じられた扉が完全に開いた。
「キリエ、何があっても動揺したり、びびるんじゃねーぞ……」
生唾を飲み込むような音と共にルゥガが声を震わせる。
それは自らに言い聞かせているような声色だった。
「(この男も緊張する事があるのね……)」
私はルゥガにうなずくと決心したかのように、一歩を踏み出した。
中は薄暗く、20メートル四方ほどの広い部屋だ。
壁一面には初めて見た投影魔法がたくさんの箱の中に浮かび上がっている。
映像には学園の様子が方々から映し出されており、その中には女子寮も映し出されていた。
「(……悪趣味)」
私はその監視室とも言える部屋に嫌悪感を抱いた。
しかもこの部屋なにか……匂う……。
体臭のような動物臭さではない、なんというか香水のような、私が知らない趣向品の香り……。
背後の扉がゆっくりと閉まっていく。部屋に暗闇が落ち、投影魔法の逆光を受けて、部屋の中央に一人の人物が浮かび上がった。
それは……ここまで見送ってくれた秘書の女性そのものだった。
「ぁんれ……?」
ルゥガは呆けたような声を出し、入口に待機している女性と見比べる。
スーツ姿の秘書と同じ顔つき同じ体格の女性が、なんと裸にエプロンという異様な恰好で佇んでいたのだ。
その姿は――まったく同一である。
「(双子……?)」
強烈なルックスの二人に私はいよいよ混乱してしまう。
え……こんな事ってあるのかしら……。彼女が……学園長……?
「ジャレット……お客様が来たみたいよ……?」
裸エプロンの彼女は慈愛の笑みを浮かべ優しく何かに――その乳母車の中に声をかけた。
「……おう、来たか……」
渋い男性の声が、その乳母車の中から聞こえる。
嫌な予感が、私の中で急速に警鐘を鳴らし始めたことを自覚した。
「(これは。まさか……)」
裸エプロンの女性が乳母車を手押しで回転させ、その中身がこちらを向いた。
ぱちぱちぱち。
小さな拍手がその中から響き渡る。
「よぉー待ってたぜぃ……ルゥーガ、そしてキリエェェ……」
――それは赤ん坊であった。
真っ赤なベビー服を着て、サングラスをつけ、葉巻を咥え、乳母車から出した両足を組んでいる。
瞬間私の脳がスパークしたような衝撃が駆け巡った。
赤ん坊! そうだ私達には赤ちゃんという状態がある……!
なんでこんなこと今まで忘れてたんだろう……?
「っつっはぁぁぁ~」
赤ん坊は大仰に煙を吐き出し、咥えていた葉巻を私たちに向けた。
「しゃぶるか……?」
赤ん坊はサングラスを指でずらし、そのかわいらしい瞳で直接私たちを見た。
「変態じゃねぇかぁぁぁぁッ!?」
ルゥガが驚愕により叫び声を上げる。
まったく同感である。私もできるなら叫び出したいもの……。
でも動揺するなと言っておいて、あなたがそんなに狼狽してどうするのよ!
「ぁ変態とはねぇ……これでも俺様“変質者”の一人なんだけどなぁ……まぁお前らにはわからんかぁ……」
眉をひそめた赤ん坊は、葉巻を咥え直すとねっとりとダンディに呟いた。
「結局同じじゃねぇぇかぁぁぁぁ!?」
再びルゥガが叫び声を、突っ込み叫びを上げる。
「さっきからピーピーうるせぇよ……小僧がよぉ……俺様うるさいのダメなのよぉ……」
赤ん坊はため息をつきながら、裸エプロンの女性の胸部に顔をうずめた。
なんて事なの……私たちは今何を見せられているの……?
これが学園の中枢……? 世界の秘密なの……?
圧倒的な既知の外、既知外によって私は何も動けずにいた。
数秒後息が苦しくなったのか、ぷはぁという声と共にその赤ん坊は胸部から顔を上げた。
「まぁ……とは言えめでてぇじゃねぇぁ……俺様は新生徒会長を祝福するぜぇ……」
「あんがとよ……それであんたが学園長って事でいいんだよな……?」
ルゥガは警戒するように尋ねた。
赤ん坊は、ニヒルに鼻から息と煙を出すと、今度は裸エプロンの胸部を片手で揉み始めた。
「そぉーよぉ……そうなのよぉ……俺様がこのフロディス・ティーリオの学園長でありぃ……お前らの創造主様たるドットレッド・ジャレットジャーク様なのよぉ……レッド様と呼んでおくんなましぃ……」
ドットレッドと名乗った赤ん坊は、今創造主という言葉を使ったのかしら……。
つまりそれは私たちを作った……私たちは作られた存在だという事……?
横をちらりと見るとルゥガも顎に手を当て、目まぐるしく思考を回転させているようだ。
私たちが言葉を咀嚼しているのを感じ取ったのか、赤ん坊は向き直り今度は裸エプロンの女性に声をかけた。
「ママァ……ボクあれが欲しいでちゅ! カルヴァドスの48年! あ、二人にもお願いでちゅ!」
異様な裏声に私は気分が悪くなってくる……。
なんなの気持ちが悪い、不快だわ……この生物は……。
今すぐ目の前から消してしまいたい……。
「やっぱ変態じゃねぇぇぇぇかぁぁぁ……ぁっ……ぁぁぁ……ぁっ……!」
ルゥガが三度声を上げた瞬間、異変が起きる。
両手が両足が、垂直にぴんと伸ばしたように、まるで気を付けの状態になったかのようにルゥガは強制させられていた。
いえ……浮いている……?
とにかく何か見えない物によって強烈に締め付けられていたのである。
「はぁ……めんどぉくせぇなぁ……俺様聞き分けのねぇガキは嫌いよ……? いい子ちゃんにしねーと捻り潰しちゃうぜぇ……」
ドットレッドは何かした様子もなく、しかし確実に魔力を使いルゥガを痛めつけたのである。
この赤ん坊……やっぱりおかしい……!
「レッド様……ルゥガの無礼をお許しください……どうか怒りを鎮めてください!」
私は思わず胸に手を当て必死に嘆願した。
その様子を数秒見つめたドッドレッドは、んはぁという息と煙を吐き出し指を鳴らす。
数センチ浮いていたルゥガは重力のまま、地面へドサリと落ちた。
両手を地面に付き、汗をかきながら息を荒げている。
「(よかった……何が動揺するなよ……あなたが全開にびびってどうするのよ……)」
ちょろちょろちょろ。
ルゥガの頭の上から液体が注がれる。
先ほどのママがやってきて、グラスの中身をルゥガに垂らしたのだ。
そのままの形で全てを流し切ると、こんどは私の前へやってきてグラスが渡された。
「どうぞ」
受け取った私はそれを覗き込む……。
その液体は濃厚で芳醇な、そして危険な香りをたてている。
これは……お酒……。話には聞いたことがあるけど……大人の嗜好品……。
確か成長過程の人間には害があったはず……。
私は困ったように顔を上げた。
するとドットレッドはママの乳輪に吸い付き、まるで授乳のような形で胸にしたたる酒を飲んでいる。
「おぎゃっ……おぎゃっ……おぎゃっ……」
酒と胸に溺れるようにその言葉を発しながら、しかし目だけは愉悦の感情を浮かべ、
――その赤ん坊は確かに悦んでいた。
「んぱぁ……祝杯だぜぇ……どうしたキリエ飲めよぉ……?」
私は気持ち悪いを通り越して、背筋が凍るような恐怖を感じた。
「(……怖い……)」
おそるおそるグラスを傾け、その液体を口の中に入れる。
瞬間、まるで口の中に火がつけられたのかのような錯覚。
痛みとも言えるような刺激に私は思わずせき込んだ……。
「なんだぁ……? まるでおぼこちゃんだなぁキリエェ……」
ドットレッドは私の反応を嗤うと、満足そうに乳母車に横たわった。
私の横では袖で顔を拭きながら、ルゥガがゆっくり立ち上がる。
どうやら、赤ん坊は話をする気らしい。
自身の腹に指を組んで乗せると、とつとつと語り始めた。
「ルゥガ……ルゥガぁよぉ……俺様の最高傑作であるオーレオールがタンデムしようとしたときは舌を巻いたがぁ……さらにそれを二年の時点で倒すとはなぁ……。陣営の勝利に大きく寄与したであろうジンクはぁ……残念ながら退学となってしまったようだがぁ……ここに呼べないのが残念だなぁ……?」
機嫌良さそうに葉巻をひと吹かし。
「話があるんだろう……? 見込みのあるお前らにはぁ……なぁんでも教えてやろうじゃないのぉ……」
ルゥガは私に目配せをすると――俺がしゃべるって事ね? 分かったわ。――質問をした。
「そのジンクの事なんですがね、退学っていうのはなんとかなりませんか? ご存じかもしれないんですが、あれは俺達のダチなもんで」
「ダチかぁ……ダチ公はいいよなぁ……俺様もかつては……まぁいい。残念だけどよぉ、ジンク君は既にお亡くなりに、オーレオールに殺されちゃった後なんだよねぇ……」
現実が私達に絶望の二文字を叩きつける。
まさかそんな……ジン……あんなにしたたかだった彼が、死んだ……?
嘘よ……私は……信じられない……。
私の顔から血が引いていくのが分かる。
「体は同じものを再生できるけどねぇ……ぷぁ……それじゃ意味ないよなぁ……」
葉巻を挟みながら話すドットレッドにルゥガが続けて質問した。
「さっき俺たちの創造主だって名乗ってたよな……レッド様」
「んそもそもぉ……なんでこんなに生徒に自由にやらせていると思う? 魔法使いの兵隊を作るんだったら、それこそ軍隊のようにお前らを調教すればいいだけ、なのになぁ……?」
沈黙が訪れる。私はおずおずと考えを述べた。
「私達は……より強力な魔法使いを生み出すため……?」
その言葉を聞いたドットレッドは満足したように葉巻を一吸いしたあと、煙を鼻からゆっくり吐き出しながら再び語り出す。
「そうよそうなのよぉ……キイリエェ……お前中々冴えてるねぇ……優秀な遺伝子、まぁ俺様たち人間の元って所だなぁ……それを集めて組み合わせて培養して……魔法適性が高い人間を人工的に作り出しィ……ぷぁ……その結果生まれたのがお前らって事になるねぇ……今回でざっと150期生ってとこだなぁ……ちょぉっとずつ組み合わせを変えて、優秀な魔法使いを……育成しているのさぁ……つまりお前らは俺様に作られたってことだぁ……」
「ぞっとしねー話だぜ……」
私はさっきとは違う意味で愕然とする。
そうなんだ、私たちは普通の生命では……なかったのね……
作られた……偽物の……彼女も――そうだ。
私はここにきた当初の目的を思い出し、奮い立った。
「私の親友、ソニアについて教えてください」
「ソーニア? ぁぁ、ソニアシリーズねぇ……」
ドットレッドは指を鳴らすと、背後の投影魔法が映し出された箱に情報が出現する。
よくわからないデータと、彼女の……履歴……数十年前から何度も繰り返されている……。
「キリエェがいっているのは最新のソニアの事だなぁ……? こいつは秘密に迫りすぎていたから、デリートさせてもらったんだぁよぉ……。学園の地下まで侵入してくるとはねぇ……ぷぁ……ソニアシリーズは猜疑心と正義感が強い分、世界の秘密に対してアプローチして死ぬ確率が高いなぁ……。何々ぃ……累計は……大体3回に1回は退学ってるなぁ……。優秀ゆえにかぁ……見直した方がいいかもなぁ。いやあはやあ、当初はモラトリアムな学園で個性が育つのか心配してたけど、とんどん先鋭化していって安心、安心……まぁそうなるように俺様が枝打ち・剪定してるんだけどねぇ……」
私はもう我慢できなかった、全身から、私の心が、私の魂が、奴を殺せと叫んでいる。
作られた……? ふざけないでよ、私達をまるで野菜みたいに育ててそして選別して……なんなのこいつは……ッ! この赤ん坊は……ッ!
神様気どり? 私たちの青春は……私たちの気持ちを少しでも考えたことがあるの? 私たちは何にも知らないで……それでいいように使われて……!
彼我の戦力差なんて知った事か、私の正義が、いいえ私のソニアとの友情を踏みにじるなんて絶対に――!
「殺……ッ!」
魔力を最大まで……いや、それを越える限界を超えた限界を放出する寸前。
ルゥガが私の前に手を伸ばし立ち塞がった。
「待っ! ってくれ……! レッド様が俺たちを作ったってのはわかった。その先を教えてくれ」
俺は焦った、ここまできて情報なしというか破談になったら元も子もねぇ……。
こんなことになると思ってたからキリエにはしゃべらせたくなかったんだぜ。
大体見ただろさっきのアレを……こいつも異能力者……しかもおそらく第八位階――存在が想像されているという未知の領域の者……。
変質者って名乗ったか……? 完全に生き物としての上位者だぜ……。
俺たちを瞬殺するなんて、文字通り赤子の手をひねるようなもんだろ。
その様子に、にやりとドットレッドは嗤った。
「いいねぇ……感情よりも理屈優先……ぷぁ……俺様お前が好きだぜ……ルゥガァ……。この学園の真の目的それはシ……」
――衝撃、振動。
そして魔力の余波が、圧が、体を駆け抜けた。
強い酩酊感を感じ取り俺はふらつく。
「(何が……起こった……!?)」
読んでくれてありがとうゴブ!
ゴブリンのやる気を上げるために、よければ
【ブックマークに追加】や下の【★★★★★】で応援してくださいゴブ!
反応があると、とってもうれしーゴブ!
今日はかつ丼食べたゴブ!




