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最弱サモナー、部下ゼロの亡国騎士団長を従え、倒した敵を仲間にして最強軍勢を作る  作者: sixi


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第一話 最初の契約

20話までは高速更新!ぜひブックマークしてください

 最初の相棒を選ぶはずだった。


 《エルダークラウン・オンライン》にログインして、職業にサモナーを選び、最初に案内された場所が王都の《召喚士協会》だった。石造りの大きな建物の前には、俺と同じ初心者用ローブを着たプレイヤーたちが列を作っている。協会の入口には、金色の文字でこう書かれていた。


 《ここで、汝の最初の契約者を選べ》


 サモナーは、契約した一体の召喚獣と共に戦う職業だ。


 剣士のように武器を振るえない。魔術師のように派手な魔法も使えない。最初は自分の身を守る術すら乏しく、戦闘のほとんどを召喚獣に任せることになる。その代わり、相棒を育て、進化させ、使い方を覚えれば、どんな職業にもできない戦い方ができる。


 らしい。


 まだレベル一の俺には、何も分からない。


 視界の端に表示されたステータスを開く。


 プレイヤーネーム:ユウ

 レベル:1

 職業:サモナー

 契約枠:1

 契約者:なし

 所持金:100ルク


 契約枠が一つ。


 つまり、今の俺が連れて歩ける仲間は一人だけだ。


 協会の壁には、最初に選べる召喚獣の姿絵が並んでいた。小さな牙狼。炎を吐くトカゲ。丸い体をした土の精霊。羽を持つ小妖精。どれも初心者向けの無難な選択肢で、育て方次第では強くなるらしい。


 けれど、どれを見ても決め手がなかった。


 牙狼は前衛向きで扱いやすい。トカゲは攻撃力が高いが打たれ弱い。土の精霊は防御に優れるが移動が遅く、小妖精は回復役として便利らしい。


 攻略サイトを見れば、おすすめ順くらいはすぐに出てくるだろう。


 ただ、それを見て決めるのも違う気がした。


「……せっかくなら、自分で見て決めたいんだけどな」


 小さく呟いて、俺は列から離れた。


 別に契約を放棄するわけじゃない。少し町を見て回ってからでも遅くはないはずだ。ゲームが始まったばかりで、目の前には広い世界がある。いきなり協会の中で相棒を選んで、そのまま案内どおりに狩場へ向かうより、まずはこの世界を歩いてみたかった。


 王都の中央広場は、朝の光に包まれていた。


 三層の噴水が水を噴き上げ、石畳の上を鳩が歩いている。露店では焼きたてのパンが売られ、鎧を着たNPCが商人と値段の交渉をしていた。遠くでは鐘楼の鐘が鳴り、町の外へ向かう馬車がゆっくりと城門を抜けていく。


 ゲームだと知っていても、目に入るもの全部が新鮮だった。


 俺は広場を抜け、商店通りを歩いた。武器屋の前には剣士らしいプレイヤーが集まり、魔術師ギルドの前では杖を持った初心者たちが受付へ並んでいる。召喚士協会ほど混んでいない場所もあれば、露店だけで人だかりができている場所もある。


 町の景色を眺めながら歩いているうちに、気づけば人通りの少ない北側まで来ていた。


 表通りから外れた細い道。洗濯物が干された家と家の間を抜けると、高い外壁に突き当たる。王都を囲む外壁は、近くで見ると想像以上に大きかった。白い石を何層も積み上げた壁の向こうには、外の景色すら見えない。


 普通なら、ここで引き返す。


 けれど外壁の足元に、妙なものを見つけた。


 草むらに半分埋もれた石碑だ。


 石碑の表面はひび割れ、文字はほとんど読めなくなっていた。それでも中央に刻まれた紋章だけは、かろうじて形を残している。


 剣をくわえた獅子。


 その周囲を、五つの星が囲んでいた。


 何となく気になって、俺は石碑へ近づいた。


 触れた瞬間、視界に小さな通知が浮かぶ。


 《探索記録を更新しました》

 《失われた王国の紋章を発見しました》


「失われた王国?」


 画面を開いても、説明はそれだけだった。


 どこの国なのか。なぜ王都の外壁際に石碑があるのか。何も分からない。ただ、石碑の横にあった外壁の一部が、低い音を立てて動いた。


 石壁に見えていた場所が、内側へゆっくりと開いていく。


 現れたのは、人ひとりが通れる程度の古い鉄扉だった。


 扉の向こうには、下へ続く石段がある。壁に埋め込まれた灯りはほとんど消えていて、奥のほうは暗い。そこから吹いてくる風は冷たく、町の中とはまるで違う匂いがした。


 雨に濡れた土と、古い鉄の匂い。


 俺は一度だけ振り返った。


 少し離れた通りでは、初心者プレイヤーたちが笑いながら歩いている。召喚士協会へ向かう金色の矢印も、視界の端で静かに光っていた。


 最初の契約獣を選ぶなら、今すぐ戻ればいい。


 けれど、この扉を見つけたのは俺だけだ。


「ちょっとだけ見て、危なそうなら戻る」


 誰に言い訳するでもなく呟いて、俺は石段を下り始めた。


 通路は長かった。


 最初は王都の地下道かと思ったが、途中から壁の石材が変わった。白い石ではなく、黒ずんだ石。壁には剣で削ったような傷が残り、ところどころに獅子と五つ星の紋章が刻まれている。


 足音がやけに響く。


 自分以外に誰もいないはずなのに、ときどき遠くから鎧が擦れるような音が聞こえた。気のせいだと思って歩き続けると、道の先に崩れた鉄格子が見えてきた。


 格子の向こうから、外の光が差し込んでいる。


 俺は錆びた鉄格子を押し開けた。


 目の前に広がっていたのは、断崖に囲まれた谷だった。


 谷底には、古い城が建っている。


 崩れた城壁。途中で折れた見張り塔。黒く焼け焦げた屋根。遠くから見ても、長い間使われていない廃城だと分かった。


 なのに、城門の上には一本だけ旗が残っていた。


 青い旗だった。


 布は裂け、端はほとんど失われている。それでも中央に描かれた獅子と五つ星だけは、風を受けて確かに揺れていた。


 視界の中央に、金色の通知が浮かんだ。


 《ユニーククエストを発見しました》


 文字が消え、次の表示へ切り替わる。


 《部下ゼロの騎士団長》


 《推奨レベル:不明》

 《推奨人数:不明》

 《失敗条件:不明》


 最後に、目的欄が表示された。


 《城門の向こうで、命令を待つ者がいる》


 ユニーククエスト。


 普通の依頼とは違う、発見者の少ない特別なイベント。内容次第では、固有スキルや特別な装備が手に入ることもある。もちろん、攻略情報はない。推奨レベルも、必要人数も、失敗したときに何が起こるのかも分からない。


 レベル一で踏み込むには、どう考えても危険だった。


 けれど、城門の前へ近づくと、地面に残されたものが見えた。


 無数の足跡。


 人間の靴跡ではない。大きな獣の足跡だ。城門の鉄板には深い爪痕が残り、石壁には巨大な牙で噛み砕いたような跡まである。


 この城では、何かが戦っていた。


 そして、今もまだ終わっていない。


 俺は短く息を吐き、城門へ手を伸ばした。


 触れた瞬間、城門がひとりでに開いた。


 ぎぃ、と重い音が谷に響く。


 中庭には、折れた槍と、錆びた剣と、壊れた盾が散らばっていた。壁際には空になった矢筒が積まれ、中央の噴水は水を失っている。戦場だった場所を、誰も片付けないまま時間だけが過ぎたような光景だった。


 その中庭の奥。


 崩れかけた噴水の前に、一人の女が立っていた。


 長い銀髪。


 血と泥で汚れた白銀の鎧。


 肩から下がる青い外套には、獅子と五つ星の紋章が描かれている。


 女は右手に、刃こぼれした剣を持っていた。鎧は傷だらけで、左腕からは血が流れている。それでも、その背筋は真っ直ぐだった。


 視界に名前が表示される。


 《亡国の騎士団長 リゼット・アークレイン》


 レベル表示はない。


 赤く点滅するHPバーだけが、彼女が限界まで傷ついていることを教えていた。


 リゼットは、城門の前に立つ俺を見た。


 初心者用のローブ。武器も持たず、召喚獣もいないサモナー。


 彼女の視線が、その何もない俺の隣を通り過ぎる。


 まるで、本来ならいるはずだった部下たちを探すように。


 クエストログが、静かに更新された。


 《部下ゼロの騎士団長》

 《第一目標:騎士団長の命令を聞け》


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