6.俺のファーストダンジョン(全く嬉しくない)
ここで、これまでの粗筋をもう一度確認しよう。
叔父が死んだ。
叔父の古道具屋の掃除をすることになった。
廊下に詰まったガラクタを退けると、怪しげな文様の書かれたドア。
そのドアを開けると、なんとそこは異世界だった!
意思疎通のできる猫。
その猫にりくとーるされ、俺はダンジョンを攻略する羽目に。
なんだそりゃ!!!
直面したのが俺じゃなかったら、きっと泡を吹いて気絶してるぞ、この状況。
なにせ、俺はどんな状況になっても眉一つ動かさないことには知人の間で定評がある。
むかーしむかし、俺がまだ小学生だったころ。
友達同士で遊園地へ行ったのだ。
アトラクションをいろいろ回って、最後にお化け屋敷に入る。
二人組で入ることになり、俺は運よく、当時好きだった女の子とペアになることができた。
怖がる女の子に向けて、俺は一つ一つの仕掛けのトリックを冷静に語ってみせた。
お化け屋敷を出たところで、女の子に言われた。
「もう魚住くんなんか大っ嫌い!」
俺の初恋は無残に砕けた。
当時の友達と集まる度に蒸し返される、仲間内では有名な話である。
俺に「大嫌い」を突き付けた彼女は今でも良い友人で、大きくなってからあのときの発言の理由を問うたことがある。
「だって、お化け屋敷でトリックを暴く人って、興ざめじゃん。着ぐるみの内側を強制的に見させられた気分。」だそうだ。
言い得て妙である。
猫よ、良かったなあ、最初にりくとーるしたのが肝が据わって順応力がハンパなくて押しにとーっても弱い俺で!!!
俺はいま、ダンジョンの中に立っている。
文様のドアを潜り抜けてすぐに少し広い空間があって、壁に掛かった照明によって照らされている。
奥のほうには、ダンジョンに続くのだろう、ぽっかりと空いた、吸い込まれそうに黒い空間が鎮座している。
「兄貴イ、こっち来て下せえ」
呼ばれていくと、空間の端に、隠し扉のようなものが作られている。
取っ手は擦り切れて汚れ、すっかり錆び切っている。
猫は全身をバネにして取っ手を上から下にずり下す。
なかなかに大きい軋みを立てて、隠し扉が開いた。
隠し扉は、猫のための扉だったようで、あまりにもサイズが小さく、俺の頭の位置からは中を伺うことができなかった。
猫はしばらく上半身を隠し扉の中に突っ込んでごそごそと中を探った。
「あった!!」
猫が引きずり出したのは、革のようなもので幾重にも包まれた細長い物体だった。
ほい、と手渡されて受け取る。
想像した以上の重さに、受け取るときによろめいてしまった。
「これは魔物を滅ぼすための剣でさあ。」
ほう。
「その剣で魔物の急所を斬ると、奴らを消滅させることができるんです。」
へえ。
「魔素が濃いほど、その剣で斬られたときのダメージは大きくなりやす。」
あちらの世界の生き物の強さは、体内の魔素の量と濃度で決まる。
強ければ強いほど、体内に含まれる魔素の量が多いのだ。
しかも。
「魔素の濃度が高いヤツだと、5分間もその剣に触れているだけで具合を悪くしちまうんです。」
これがお偉いさんがダンジョンの攻略をニンゲンに任せようと考えた理由のうちの一つでもある。
強いヤツでないと、魔物と戦えない。しかし、強いヤツは、魔物と戦うための手段である剣を扱えないのだ。
この剣は一本しか存在しない。
なぜならば、製作者は魔素を多く持ち、魔素を扱う理論と能力に秀でていなくては、この剣を完成させられない。よって、製作者が自分の造った剣の能力に中てられて死んでしまうのである。
まずそそもそも、造れるのはごく限られた一部の魔素使いであるうえ、「一本あるからいいでしょ。」。
誰も造りたがらない。
「困った話でしょー?あっしは魔素があまり多くないんで、とくだん影響は受けませんがね。」
イメージ通りだ。
「でも魔素が少ないことによる利点もありましてね。」
猫が得意げに胸を張る。
「あっしは魔素が最低レベルに少ないから、魔素の濃度の濃淡の感知が得意でして。魔物の急所が分かるんでえ。」
この猫、よく喋るなあ!
俺、もうめんどくなって相槌すら打ってないのに、さっきから延々と喋り続けている。
「こちらがあっしがこのダンジョンを任された理由でさあ。ちなみに、弱っちいので、戦ってるときは翔さんはあっしを守らなくちゃいけませんぜ。」
そんなに堂々と言うことなのか、それ。




