93/185
89
「橘さんって、同棲してるんですよねぇ?」
昼休み。
コンビニの弁当を開けたタイミングで声がする。
「……してるけど」
顔上げると、後輩がにこっと笑う。
距離、ちょっと近い。
「いいな〜」
机に肘ついて、覗き込むみたいな姿勢。
「お弁当とか作ってくれないんですか?」
「いや、あんまり」
「え〜、意外〜」
なにが意外なんだろうなと思いながら、箸を進める。
「年上彼女って、もっとちゃんとしてそうじゃないですか?」
悪意はない。
ただの会話。
「忙しいんで」
短く切る。
それでも、引かない。
「じゃあ寂しくないですか?」
くすっと笑って、少し首を傾げる。
「一緒に住んでるのに、あんまり構ってもらえないの」
その言い方。
ちょっとだけ、引っかかる。
「別に」
それ以上広げる気はない。
「えー」
わざとらしく不満そうな顔して、
それから、少し声のトーンを落とす。
「私なら」
「もっと大事にするけどなぁ」
にこっと笑う。
ああ、これか。
内側で、すっと線を引く。
「あ、そう」
声の温度は変えない。
態度も変えない。
でも、それ以上は踏み込ませない。
「橘さんって、優しいから」
続けてくる。
「ちょっと押したらいけそうですよね」
軽い冗談みたいに笑う。
……うるさい。




