100
「ただいま」
玄関のドアが開く音。
その一言に、なぜか一瞬だけ心臓が跳ねる。
「……お、おかえり」
ちょっとだけ、変な声になった。
自分でも分かるくらい、挙動が怪しい。
(なにこれ、緊張してる…?)
廊下に出ると、ちょうど湊が靴を脱ぎ終わったところで。
ふと、目が合う。
「……」
一瞬、間。
そのあと、湊が少しだけ首を傾ける。
「……どうしたんですか」
「いや、別に」
即答。
早すぎて逆に怪しい。
「……怪しいですね」
ちょっとだけ笑われる。
「怪しくないし」
言い返した瞬間、
「遥花さん」
名前を呼ばれる。
その声が、少しだけ落ちてて。
反射で顔を上げる。
次の瞬間、
「これ」
差し出される。
視界に入ったのは、小さめの花束。
「……え」
一瞬、思考が止まる。
「……」
ゆっくり、視線を湊に戻す。
少しだけ、照れた顔。
でも、逸らさない。
「去年、言ったじゃないですか」
静かに続く声。
「来年は、もうちょっと大きいのって」
「あ……」
思い出す。
「……覚えてたの?」
「そりゃ覚えてますよ」
少しだけ呆れたみたいに言って、
でもそのあと、ほんの少しだけ視線を逸らす。
受け取る。
思ったより重くて、
ちゃんと、選ばれてる感じがして。
「……」
じわっとくる。
「……ありがとう」
ぽつり。
「どういたしまして」
すぐ返ってくる、いつもの温度。
でも。
そのあと、少しだけ間。
視線が合う。
さっきより、近い。
「……」
なんか、空気が変わる。
「……ねえ」
自分から、少しだけ距離を詰める。
「今日さ」
見上げると、
湊の呼吸が、ほんの少しだけ変わる。
「ちゃんとする日、でしょ?」
わざと、ゆっくり言う。
一瞬、止まる。
「……」
それから、
「……煽ってます?」
低い声。
さっきまでと違う。
「別に?」
軽く返す。
その瞬間、
一歩、距離を詰められる。
「……言いましたよね」
声が落ちる。
「今の俺、余裕ないって」
「うん」
「……それでいいんですか」
「いいよ」
即答。
一瞬、空気が揺れる。
「……後悔しても知りませんよ」
「しない」
小さく笑って言うと、
「……そういうとこです」
小さく息を吐いて、
次の瞬間、
ぐっと引き寄せられる。
さっきより、強い。
でも、雑じゃない。
「……っ」
触れた瞬間、分かる。
ちゃんと、向き合ってる。
ちゃんと、欲しがってる。
「……ちゃんと、しますから」
低く、落ちる声。
そのまま、
今度は、止まらない。
記念すべき100話。
記念日いちゃいちゃです。




