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最後にお腹いっぱいのご飯が食べたかった…残念。

「ユルサナイ…ゼッタイニユルサナイ…」


帰り道。うつむきブツブツと唱えているユーマ。周りにいる人たちはそんな彼を見て怯えている。例外はそんなユーマを見て笑っているあの不良少年だけだ。


彼の名前は朧月銀おぼろづきぎん。この街でも悪用高い、有名な不良である。売られた喧嘩は買いまくり、喧嘩は負け知らず。前はよく目についたやつらをボコボコにしていたが、ユーマに喧嘩でボッコボコに返り討ちにされてから変わった。ユーマが強そうに見えない?当たり前だ。普段はとってもそうは見えない。だが一つ、彼が火事場の馬鹿力並みに本気を出すことがある。それが食べ物関連だ。


銀がユーマに喧嘩を売った時、ユーマは一日10個限定というDXスーパーミラクルクレープと言う季節の果物をふんだんに使った豪華なクレープを、開店3時間前から並んで買ったばかりだった。そして期待に胸を膨らませ最初の一口、と言うところで銀に肩をぶつけられクレープを落としてしまったのだ。


銀はその日、無性にイライラしておりぶつかったユーマをボコボコにしてやろうと意気込むが、ユーマは「俺の…俺のクレープ…」と四つん這いになり目を潤ませながら嘆いていた。それにもイラついた銀はクレープを踏みつぶした。


「俺はな、今イライラしてんだよ。こんな食いもんが何だっつーの」


ぐり、ぐりとクレープを踏みつける。それをみていたユーマの目の色が変わった。


「…コロス」

「はぁ?なに言って…っっ!!」


ポツリと呟いたユーマは、無だった。表情も、目も、何もかも。そしてそこに、鬼が誕生した。

その時にボコボコにされたことが原因で銀は新たな扉に目覚めたのだが…今は関係ないか。


それ以来、ユーマの強さに惚れた銀は犬のようにユーマに構いまくった。それはもう、パシ…げぼ…忠犬のように。

ユーマはどう思っているかわからないが、多分よく食べ物をくれる人とでも思っていそうだ。


「安心しろ、ユーマ。あのセンコーには仕返ししといたからな。もう逆らわないだろ」


銀は何をしたか…それはあれだ。先生が実はカツラであることをバラしたのだ。それだけ?と思うかもしれないが、そのバラし方がやばかった。

まず、何かしらの役に立つように集めておいた人の弱み張(暴力は停学や退学の恐れがあるので除外)を使い、何人かの手下を用意。そして先生がハ…カツラであることを証明するため、ずれた髪やお手入れ中の写真を入手。そして放課後…下校中の皆が必ず通るであろう下駄箱一面にその写真を貼り、その日の当番だった放送部を脅し放送室をジャック。『先生はハゲだ。毛根が死滅し、加齢臭が半端ない。その匂いに耐えかね嫁は出て行った』などあることあることを暴露し、怒り狂った先生が放送室に突撃しみたものは、開け放たれた窓と一枚の紙だった。その紙に書いてあったことは…「ハゲは見る」。


…このことを企てた銀は、明日が楽しみだと笑っている。



グギュルルルルル…。


「…お腹すいた」

「ユーマ!待っていてくれ!何か買ってくる。すぐに」


そう言った銀は足早に目の前にあったコンビニへ入って行った。食べ物を買ってきてくれると聞いたユーマは期待にワクワクしながら目を輝かせ、お腹をキュルルンッと鳴らせた。この道は人通りが少ないので、そんなユーマをチラチラと見ながら歩く人が多い。10秒も経たないうちにまだかな、まだかなと食べ物のことを想像する。それゆえに、ユーマに近づく人影の様子がおかしいことに気がつかなかった。



ズプリ。



嫌な音がユーマの耳に届いた。

ユーマが振り返ると、黒いフードを被った人物がユーマの背中に包丁を突き刺していた。

そして、猛烈な背中の痛み。


「…っ」


カクンと足の力が抜け、体が前から地面に倒れる。とっさに手を前に出し、顔が地面に触れるのを防いだ。

だが、フードの男は倒れこんだユーマの背中の包丁を靴で踏み、体重をかけ始めた。


「っぐ…っ!!」


包丁が体の中にどんどん沈み込んでいくのが分かる。痛い。

それを見た周りの人たちは叫び声をあげながら逃げていく。


「お前の、お前のせいだ…」


男はとても低く掠れた声で言った。その時、風邪でフードが捲られ、男の顔があらわになった。











「お前のせいで、俺の店が…っ!!」





それは、数日前にユーマが食べに行ったラーメン屋の店主だった。


店主は有名でもなんでもないラーメン屋を経営していた。これが有名だったならまた話は違ったのだろうが、ユーマが食べた分のラーメンは、すべて無料になった。それも何杯も。あのラーメンにはちょっと高級なチャーシューなどを使っており、そのせいで店主の店は大赤字となったのだ。

元を取ろうにも、あのラーメンに挑戦するものはいなく、お客も日に10人でもくればいいほどだ。そんな日々が続いた結果、経営が苦しくなり借金。しかもお金を借りたところがやばかった。お客がいるのに借金を返せと店に来たり、食べたラーメンのお金を払わなかったり。そのことが黒い噂を呼び、お客が誰も来なくなった。残ったのは借金だけ。どうしてこんなことになったのかと悩んだ結果、ユーマにたどり着いたのだ。



「お前のせいで!お前のせいでっ!!」


店主は足を何度も何度も振り下ろし、その度に刺さっている包丁がユーマの体を傷つける。


「ユーマ!大量に買って来たぜ!待たせ…た…っテメェ!ユーマに何してんだよ!!」


銀がコンビニを出て目にした光景は、地面に倒れピクリとも動かない血を流したユーマと、ユーマに刺さっている包丁を足蹴にし狂ったように笑っている男の姿だった。


銀は男に殴りかかり、男は殴られた衝撃で意識を失った。そしてすぐにユーマを助け起こすが、ユーマはヒュー、ヒュー…と弱々しい呼吸をしており、流れ出た血が水溜りのように地面に広がっていた。誰が見ても、もう助からないと思うだろう。


「ユーマ!ユーマ!今救急車呼んだからな!助かるからな!目を開けてろよ!!」


泣きそうになりながらユーマに縋り付く銀。そんな中、ユーマは何かを喋ろうとゆっくりだが口をパクパクとさせていた。


「ユーマ!何だ?どうしたんだ!?」

「…は…ん……」


ユーマは霞ゆく視界で、それを捉えていた。そう、銀が買ってくれたとコンビニの袋を。

痛みはあまり感じなくなって思ったこと。ただ、お腹が空いた。食べたい。ご飯…。


(俺、死ぬ?そしたら、ご飯食べれなくなる…?だったら最後に…)


「ご、は…ん…お腹、いっぱ…食べ……か……」


その言葉を最後に、ユーマは息を止めた。

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