異世界に足を踏み込んだ殺し屋
プロの殺し屋の少年が、自分の常識を覆す世界に足を踏み入れた
ラブホテルの一室。
「お前何で良く知らない男とラブホテル入って平気なんだ?」
その男子の言葉に良美は平然と言う。
「クラスメイトが追われている。それだけ知ってれば一緒に隠れるのに何の問題あるの?」
良美のハッキリした応えにその男子は言葉を無くす。
「俺が殺し屋だとしてもか?」
男子としては拒絶を引き出す為の言葉だった。
しかし良美はラブホテルの品物を興味津々調べながら言う。
「あっそう。だったら狙っている奴等も殺し屋だね。気をつけますか」
「信じていないだろ!」
睨むが良美は普通に言い返す。
「あのねー自分で言っといて無茶苦茶言わない。貴方が殺し屋だって事は、転校初日にヤヤから聞いてたから知ってたから驚くことで無かったそれだけだよ」
男子が意外そうな顔をする。
「あんなぬいぐるみ作っているようなガキが、気付いたって言うのか?」
良美が頷く。
「ヤヤの言うには、人殺しは、職業意識で一番最初にどうやったら相手を殺せるかを考える癖があるって。視線の動きでそれが解るって、細かい識別方法まで教えてもらったよ」
言葉を無くす男子であった。
「鈴木三郎です。よろしくお願いします」
三学期が始まったばかりの較達の教室に一人の転校生がやって来た。
中肉中背に見えるが較は一発で、訓練された肉体だと気付き小声で良美に忠告する。
『あの転校生、殺し屋だからあまり関係持たないようにしなよ』
「そんな事関係ないだろー」
そう言って、良美は直ぐ側を通る転校生に声をかける。
「転校生! 解らない事があったらあたしにききな。勉強関係は隣のヤヤな」
そう言って較を指差す良美であった。
「ありがとうございます」
笑顔で返す三郎であった。
放課後、三郎が下校途中に呟く。
「しかし仕事とは言え、学校っていうのは面倒だな」
大きな溜息を吐く。
今回の三郎の仕事は、自分所属している組織と対立してる組織の幹部の暗殺。
地道に嘘の身分証明を作る為に、態々近くの学校に転校してきたのだ。
「最低二週間大人しくしてないといけないのは問題だな」
そして仮の家に戻る途中にお弁当を買っていると良美と遭遇する。
「あんた三郎じゃん。引越し早々コンビニ弁当とは寂しい食生活ね」
三郎は怒鳴り返したくなる気持ちを抑えて笑顔で答える。
「いや両親と離れて暮らしてるんでー」
良美が少し不思議そうな顔をする。
「両親いるの?」
疑心が込められた目に三郎は驚くが、それを表に出さず言う。
「当然じゃないですか」
三郎はその日はお弁当を食べて直ぐに寝た。
一週間、三郎は、危険が無いレベルでターゲットの家を調べていた。
「比較的に警護のレベルは低いな」
そう呟きながら、歩いている時、良美とばったり会う。
「大門さん?」
驚き思わず声をかけて三郎。
「あれ鈴木じゃないかこんな所で何してるんだ?」
良美は普通に話しかける。
その時、一人の黒服の男が近寄ってきた。
そして良美に銃を突きつけ言う。
「鈴木三郎だな大人しくついて来い。そうしないとこの女が死ぬぞ」
その言葉に舌打ちする三郎。
これが自分に突きつけられていたならどうにか出来る自信があったが、他人に突きつけられた銃をどうにか出来る自信は無かった。
三郎の脳裏に良美を切り捨てるという選択肢が浮かぶが、相手もそれを承知しているのか、気配は一人ではなかった。
三郎は取り敢えず、相手の言葉に従おうと考えたしかし、
「何かあたし無視していない?」
良美がそう言って男を睨みつける。
「これは玩具じゃないぞ」
男が引き金に指をかける。
その時、良美の蹴りが男の急所に命中する。
「馬鹿じゃないのこの距離で拳銃なんて不利に決まってるじゃない」
そう言って男の手から落ちた拳銃を遠くに蹴り飛ばす。
唖然としてる三郎の手を引っ張り良美が言う。
「逃げるよ!」
そして二人は身を隠す為にラブホテルに入った。
「ヤヤに連絡したから直ぐ来ると思う。それから反撃開始だよ」
その言葉に三郎は大きく溜息を吐いた。
「相手はプロの殺し屋だ、ガキが一人増えた位ではどうにも成らない、お前だけでも逃げて警察に行け」
その言葉を聞いて思いっきり三郎を殴る良美。
「あんたね馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ。あたしが、クラスメイトを見捨てる人でなしだとでも思ったの!」
三郎は激しく何かが違うと思いながら説得しようとした時、扉が開き、較が入ってくる。
「もー良美変なトラブル起こさないでよねー、小較がお腹空かせて待ってるんだから」
ひたすら呑気である。
三郎は事情を理解していないんだろうと思い近づき言う。
「おいお前、早くこいつを連れて警察に……」
言葉は途中でさえぎられる。
較は片手で三郎の襟を掴み吊し上げた。
「あんたも裏の人間だったら一般人に迷惑かけるんじゃないよ!」
そのままベッドにほおる。
「それでどうなの?」
良美の言葉に較が頬をかきながら言う。
「逃走されないように包囲してる。一人でも残すと面倒だから全部病院送りにしてから帰るよ」
較の言葉に良美が不満気な顔をする。
「えー、このまま敵のアジトに乗り込むんじゃないの!」
「さっきも言ったでしょ、小較が待ってるの! アジトを潰すのは、小較が寝た後だよ」
較は取り付く暇も無くそう言うと、外に出ようとする。
「待て包囲されてるのだったら抜け出す方法を……」
三郎の言葉が再び止まる。
部屋の入り口に、一人の男が立っていた。
三郎には解った、その男が一流の殺し屋だと言うことが。
「逃げろ!」
最後の気力を振り絞りそう叫ぶだけが限界だった。
入り口にたった男が懐からナイフを抜くと同時に較の首筋に斬りつける。
三郎は較の死を覚悟し、大量の血が床を覆った。
「へー、殺し屋って始めて見る」
面白そうに三郎を見る小較。
「小較、死臭が移るから近づいたら駄目!」
較の言葉に三郎から離れる小較。
「それって職業差別じゃないか?」
良美の言葉に早く作れるからと、焼きそばを作って持ってきた較が言う。
「死臭って気配が残って、殺した相手に纏わりつくの。小較にその気配が移ったら大変だよ」
「それって手遅れじゃないか?」
良美の言葉に較が焼きそばをテーブルに置き、取り皿を並べながら較が言う。
「あちきは滅多に相手を殺さないから大丈夫だよ」
そして取り皿を三郎の前に置き較が言う。
「焼きそば食べれるよね?」
「はい!」
即答した三郎は、正直怯えていた。
目の前に居る少女は、ラブホテルの周りに居た、殺し屋達を圧倒的な力で戦闘不能にして行ったのを見たからだ。
そんな少女だが、平然と夕食をとり、全然似ていない妹と一緒に後片付けをした。
良美はその間もテレビをみたりしていたが。
そして小較が眠った後、較が言う。
「さて相手のアジトを教えてもらいますか?」
三郎が言う。
「お前がどれだけ強いか知らないが組織を相手に勝てると思ってるのか?」
苦笑する較。
「逆だよ、組織は所詮利益を求めるもの。相手にすれば損益だけしか出ないって解らせてやれば良いの」
「組織にもプライドがある!」
三郎の言葉に苦笑する較。
「若いね。所詮下っ端の感情では組織は動かない。あるのは組織の利益と上の人間の意地だけ。頭さえ潰せば後は自然にこっちから離れていくよ」
それを見て良美が言う。
「まるで経験あるように見えるけどやったことあるの?」
較は遠くを見て言う。
「あちきがまだ小学生のガキの頃の話だよ。色々あって襲ってきた犯罪組織と対立して、毎晩の様に襲ってきたからアジトを襲って、偉そうにしていた奴等の全身の骨を砕いてやったら襲撃が無くなったよ」
三郎は言葉を無くしていた。
『オーディーン』
扉を手刀で切り裂き入る較。
「何者」
数人の男が鉄砲を構えるが、較は意識せずに、奥に居る幹部、鋭い瞳をした老人の所に行き宣言する。
「貴方には選択肢が二つある。あちきの周りで騒がないか、ここで病院送りになるか」
その言葉に老人が苦笑する。
「ふん。面白いな、鉄砲を向けられていてそれだけの口をきけるとは」
較は無造作に近場の男の鉄砲の銃口を握りつぶす。
「この鉄屑がどうかしたの?」
較の言葉に何も言い返せない老人。
そして較が指を三本の指を立てる。
「制限時間は三十秒。指が倒れた終わった時に判断ついていなかったら、病院送り」
「撃て!」
老人の言葉に従い、鉄砲を連射するボディーガード達。
較は平然とそれを受けながらも一本ずつ指を倒して行く。
そして最後の指を折り曲げ始めたとき、老人が叫ぶ。
「お前達出番だ!」
すると、後ろから数人の全身タイツを身につけた男達が襲い掛かってくる。
アーミーナイフや大人も即死させるショックガンが常人を遥かに凌ぐ動きで繰り出される。
較は空中に飛び上がり避ける。
「甘い空中では避け様があるまい!」
較の落下予定地点に攻撃があつまったが、較は空中で止まり、男達が攻撃を空振りにしたあと、着地する。
驚愕する男達の体を触れる。
「そのタイツは特別製だ! マグナム弾すら受け止める」
『バジリスクアイ』
較のその言葉と共に放たれた衝撃が簡単に男の骨を粉砕して戦闘不能にしていく。
全身タイツの男達は多少は保った、そう一分程。
「時間がオーバーしたけど答えでた?」
較の問いに老人は何も言えなかった。
「それじゃあ病院送りだね」
そしてその日、殺し屋組織の一つの支部が潰れた。
「えーと短い間でしたがお世話になりました」
そういったと思うと三郎は、すぐさま教室を出て行った。
「何慌ててたんだろう?」
良美の言葉に、ぬいぐるみのデザインを考えながら較がいい加減に応える。
「次の仕事の予定でも入っていたんでしょう」




