第6話 ギルドマスター、待つ
翌朝。
冒険者ギルドへ入る。
「おはようございます、佐藤さん」
「おはようございます」
受付嬢がいつもの笑顔で迎えてくれた。
「急で申し訳ないのですが、ギルドマスターがお呼びです」
「俺を?」
「はい」
「何かしました?」
「心当たりが多すぎると思いますよ」
「確かに」
言われるがまま、奥の部屋へ向かう。
「9時12分、異常なし!」
「了解!」
「9時13分、瞬き二回!」
「記録!」
「了解!」
「……」
途中、ボボンバの横を通る。
窓の向こうには、待機中のワイバーン。
大きく口を開き、その奥に炎を溜めている。
なんて地獄絵図だろう。
◇
「来たか」
ギルドマスターの部屋へ入る。
中には3人いた。
ギルドマスター。
受付嬢。
そして。
「……なんであんたがいるのよ」
赤髪の女冒険者。
リズだった。
「こっちの台詞です」
「殺すわよ」
朝から元気だ。
「座れ」
ギルドマスターに促され、椅子へ座る。
「佐藤悠真」
「はい」
「昨日の件についてだ」
「ワイバーン?」
「ああ」
ギルドマスターが一枚の紙を机に置いた。
「昨日、緊急会議を行った」
「はい」
「その結果、君をギルドの最重要保護対象に指定することになった」
最重要保護対象?
俺のこと、珍しいパンダか何かだと思ってない?
「最重要保護対象ってなんですか?」
「最重要で保護する対象だ」
「それはわかります。なんで俺がそんな——」
「わからないのか?」
ギルドマスターが窓を指差す。
「現在、ワイバーンを止めているのは君だ」
「そうですけど」
「もし君が死んだ場合、スキルがどうなる?」
「知りません」
「そうだろうな。そこで」
ギルドマスターが紙を読み上げる。
「本日より、君の宿泊費、食費、装備費について、すべてギルドが負担する」
「……え?」
「加えて、毎月金貨10枚を支給する」
「金貨10枚?」
「ああ」
「もう働かなくても?」
「そうだ」
「……」
俺は背筋を伸ばした。
「この街を守りたいです」
「急に使命感を出すな」
「命に代えても」
「代えるな!!」
怒られた。
「絶対に命を代えるな! それを防ぐための話をしている!」
ギルドマスターが続ける。
「君には護衛をつける」
「護衛?」
「ああ」
「誰です?」
嫌な予感がした。
ギルドマスターが横を見る。
「……」
リズがいた。
「私は嫌よ!!」
「俺も嫌です」
「はぁ!?」
「なんであんたまで嫌がるのよ!」
「性格悪いし」
「殺すわよ!!」
「殺すな!!」
ギルドマスターが机を叩いた。
「絶対に殺すな!!」
「……はい」
リズが渋々頷いた。
「とにかく、日中の護衛はリズに任せる」
「というかなんで私なのよ」
「佐藤と面識のあるAランク以上の冒険者がお前しかいないからだ」
「……Aランク?」
俺はリズを見る。
「君が?」
「何よ」
「昨日、オークに殺されかけてませんでした?」
「あれは……!」
「仲間に裏切られたんだ」
ギルドマスターが言った。
「毒と麻痺を食らった上に、五人がかりで半殺しにされてな。本来ならオーク程度、相手にもならん」
「……」
リズが俯く。
なるほど。
あんな草原で死にかけていたのには、そんな事情があったのか。
「まあ、性格はともかく腕は確かだ」
「性格はともかくって何よ!」
「それはさておき——」
ギルドマスターが言った。
「夜間についてだ」
「夜?」
「当然、夜も一人にはできない」
「なんでですか」
「寝ている間に襲撃されたらどうする」
「誰に?」
「知らん」
「じゃあ大丈夫ですよ」
「階段から落ちたら?」
「落ちませんよ」
「食事を喉に詰まらせたら?」
「24歳ですよ俺」
「風呂で溺れたら?」
「俺を何だと思ってるんですか」
「街の安全装置だと思っている」
「人間として見てくれません?」
「街の人口、2万8000人の命がかかっているんだ。ご容赦願いたい」
何も言い返せない。
「ということで、夜間はギルド職員が監視する」
「監視? 俺を?」
「ああ」
「嫌なんですけど」
「ボボンバも嫌だと思うぞ」
「……」
また何も言い返せなくなった。
「担当は——」
ギルドマスターが受付嬢を見る。
「エレナだ」
「よろしくお願いします、佐藤さん」
「……」
最初に会った人——美人受付嬢が微笑んだ。
エレナさんっていうのか。
「……よろしくお願いします」
「ちょっと嬉しそうじゃない?」
リズが睨んでくる。
「気のせいです」
「鼻の下伸びてるけど」
「気のせいです」
「キモ」
最重要保護対象への扱いではないだろう。
「ああ、それともう1つ」
「まだあるんですか?」
「冒険者ランクについてだ」
「ランク?」
「君は現在Fランクだったな」
「はい」
「本日付でAランクへ昇格させる」
「……」
「……」
「はい?」
「Aランクだ」
「俺が?」
「ああ」
「ちょっと待ってください。俺、薬草しか採ってませんよ?」
「……」
ギルドマスターの動きが止まった。
「……」
「……」
リズが俺を見る。
受付嬢も俺を見る。
「……なんですか?」
「佐藤さん」
「はい」
「ギルドマスターが」
「はい」
「待ってます」
「……」
ギルドマスターを見る。
「……」
ぴくりとも動かない。
「あ」
さっき間違えて、ちょっと待って、って言っちゃったから。
「もういいですよ」
そういうとギルドマスターは動き始めた。
「——お前をAランクにするの怖くなってきたんだが」
ギルドマスターは少し躊躇いながらも、書類に印を押した。
「以上だ」
「すみません、質問いいですか? なんでAランクなんですか?」
「君を保護するためだ」
「Fランクじゃダメなんですか?」
「Fランク冒険者にギルドが行動制限を課す権限はない」
「……」
「Aランク以上であれば、緊急時にギルド側から活動地域を指定できる」
「……つまり?」
「お前を街から出さないための昇格だ」
「降格してください」
「却下する、おめでとう」
「めでたくないです」
こうして。
冒険者になって三日目。
俺はAランク冒険者になった。




