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呪われた王太子を助けてあげたのに、罪を着せられ殺されそうです  作者: 四折 柊


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公爵令嬢1

 婚約したときに、ウイリアムは誓いを立てるような、または決意を語るように言った。


「私を支えてほしい。一緒にこの国を守ろう」

「はい。一緒に」


 これはウイリアムとの神聖な約束。

 私たちはお互いに切磋琢磨してきた。男女の深い愛情というものはわからないが、それでも胸の奥に灯った恋という光はあった。

 ウイリアムが微笑めば胸がときめいた。ウイリアムが落ち込めば私の胸も苦しい。二人は上手くやっていけるはずだった。あの出来事が起こるまで――。


 ある朝、登城したらウイリアムの顔の右半分が爛れ膿んでいた。痛みはないが悪臭を放っている。従者も侍女も青ざめて近づけない。侍医を呼んだが原因がわからず対処できなかった。せいぜい気休めの薬を処方するだけで改善はしない。


「セリーナ。酷い臭いだろう。無理をしなくていい。しばらく二人の公務は休んで別々に行動しよう。それにこの顔では公の場所には出られないし、な」


 自嘲を浮かべながらも私を気遣う言葉に胸がぎゅっとなる。そういう人だから、私はこの人を慕ったのだ。


「大丈夫です。一緒に仕事をした方がはかどりますし、しばらくウイリアム様の執務室で私も仕事をしますね」

「……すまない」


 臭いはきついが、それ以上にウイリアムが心配だった。目を離したすきに絶望して命を投げ出してしまうのではと。絶対に治してあげたい。


 陛下は秘密裏に国内の名医を探し連れてきた。だが痛みもなく顔が爛れる奇病を、今まで見た者はなく治療方法も不明だ。私は父に頼んで国外にもいい医者がいないか探してもらった。王家が派手に動けばウイリアムの状態が漏れてしまう。今は箝口令が敷かれているが、いつ漏れるかわからない。

 しばらくして隣国に難病を治せる医師がいると聞きつけ向かうことにした。


「セリーナ、すまない」

「ウイリアム様。謝らないでください。これは私がしたくてしていることなのです」


 ウイリアムの笑顔を取り戻すためなら何でもできると思った。

 隣国に向かってその医師に会ったが、やはりウイリアムの病気は聞いたことがない。診ても何もできないだろうと診察を断られてしまった。


 帰国の途中、私の馬車はならず者に襲われた。幸い公爵家の騎士を護衛として多く連れていたので、被害を出すことなくすんだ。ただ捕縛することができず犯人を逃がしてしまったことは悔やまれる。


 襲われたことはウイリアムには報告しなかった。これ以上心労を増やしたくなかったから。しかも私が狙われる心当たりはない。護衛騎士からの報告の「物取りにしては動きが騎士のようだった」という内容が気になり、騎士団長であるアーサーにだけ伝えておいた。アーサーは国王の年の離れた弟であり、また私とウイリアムの幼馴染でもあった。私たちは気の置けない親友なのだ。


「騎士団のほうでも調査をさせよう。セリーナ、気を付けて」

「ありがとう。きっとただの物取りだと思うわ。大げさにしてごめんなさい」

「セリーナは未来の国母だ。大げさなくらいがちょうどいい」

「ふふ、アーサー様ったら」


 私はアーサーに話したことですっきりとし、安心してそのことは忘れてしまった。アーサーは体格がよく剣術にも秀でていた。頭脳明晰で麗しい騎士姿に令嬢たちから人気が高いのに、本人は気にした風もなく女っ気がない。私としてはアーサーに幸せになってほしい。できることはないだろうか?


「ねえ、アーサー様には好きな女性はいないの?」

「ああ」


 困ったような顔であやふやな返事をするだけ。アーサーは昔から心の内をさらけ出さない。私では心もとないのかもしれない。


「そうなのね。もし素敵な人が見つかったら教えてね。私、応援するわ!」

「ありがとう」


 アーサーはどこか寂し気に目を伏せた。私はアーサーに何もしてあげられないのに、アーサーには相談に乗ってもらったり助けてもらったりしている。今回もそうだ。アーサーに相談するだけで心が軽くなる。いつか彼に恩返しをしたいと思う。


 その翌日、街に買い物に行った使用人が奇跡を見たと報告してきた。刃物で刺され今にも死にそうになった男性を女性が不思議な力で救ったという。


「その女性ならウイリアム様の顔を治せるかもしれない」


 私はその可能性に興奮すると、騎士にすぐにその女性を城に連れてくるように命じた。まさか説明もなく強引に攫うような真似をするとは思っていなかったが、私の命じ方が悪かったのだ。


 その女性はステラさんという。華奢だけど意志の強そうな瞳が印象的だった。謝罪をしてウイリアムの治癒をお願いした。

 そして……奇跡は起きた! 数日かかったが、ウイリアムの顔は元通りになったのだ。私もウイリアムも喜び涙ぐんだ。

 

 ステラはすぐに帰りたいと言った。それはそうだ。彼女には恋人がいて帰りを待っている。従者に手紙を届けさせて説明してあるとはいえ、詳細は知らせていない。きっと不安にしているだろう。

 まずはステラを帰して、後日改めてお礼をするつもりでいた。馬車の用意をしている間に、宰相が横やりを入れた。


「治癒の力を持つ者は国で保護する必要がある。その力はこの国のために役立てるべきだ」


 宰相としての意見は理解できるが、ステラは神官ではない。保護する必要はあるかもしれないが、何かを強制するべきではない。


 だが宰相は陛下を説き伏せてしまった。陛下は恐れながら凡庸、その一言に尽きる。幸い臣下もそれなりに優秀な人材が揃っているので、平和な世なら問題ない。懸念するとすれば自己顕示欲が強いこと。また優秀な歳の離れた弟であるアーサーに劣等感を抱いている。宰相はそこを突いた。


 宰相は陛下に囁いた。「歴史に偉大な王として名を残したくありませんか?」と。そしてステラは神が遣わした聖女だと広めた。

 国王は自分の治世に聖女と呼ばれる存在が奇跡を起こすことを期待した。ステラの存在はうってつけだったのだ。

 私はウイリアムに陛下を説得するように頼んだ。ステラは私たちにとって恩人なのだからと。ところがウイリアムは頷かなかった。


「あの奇病が再発しないと言い切れない。聖女を王家が管理すれば不安を払拭できる。彼女も王宮でいい暮らしができるから喜ぶはずだ」


 私は愕然とした。ステラは帰りたいと願っているのに、ウイリアムは自分の都合で彼女の気持ちを決め付けた。これは恩を仇で返すことになる。


「ですがステラさんを待っている恋人がいます。返してあげるべきです」

「ああ、それなら恋人には慰謝料を払ってやればいい。ステラも城で暮らすうちに恋人のことは忘れるだろう」

「そんな勝手なこと……」


 ウイリアムに悪気はない。本当にそれがいいことだと思っている。説得は難しいかもしれない。






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