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呪われた王太子を助けてあげたのに、罪を着せられ殺されそうです  作者: 四折 柊


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王太子3

 アーサーは宰相の陰謀を暴き、キャンベル公爵の潔白を明らかにした。

 宰相は以前の私のように顔半分が爛れて膿んでいる。呪術師は宰相に殺されかけたところをアーサーに助けられた。だが傷が深くすべてを自白したあと死んだ。ただ死ぬ前に宰相に報復として呪いをかけたのだ。


 もう、解呪薬を作れる呪術師はいない。宰相のの顔は元に戻らず狂乱しているという。私の味わった苦しみをその身をもって味わえばいい。同情する気はない。それよりも呪術師が死んでしまったので、私の顔右半分に残った真っ黒な痣を消せる人間もいなくなった。この醜い顔のまま、生きていかなければならない。


 私は宰相の言葉を鵜呑みにしたことで王から謹慎を言い渡された。またセリーナは行方不明ため私たちの婚約は解消となった。

 生きる希望を失い酒に逃げ、謹慎が解けても酒に溺れた生活を続けた。何もしたくない。この顔で人前に出ることに耐えられない。両親さえ怯えて顔を背ける。


 一度目のときはセリーナがずっと傍にいてくれた。

 誰もが膿の悪臭に顔を背けた。醜い顔を見たくないと怯えた。原因不明だから病が移るかもしれないと恐れ、医者すら私に触れるのを拒んだ。でもセリーナだけは違った。膿を拭い手を握り励ましてくれた。抱きしめて温もりをくれた。ずっと寄り添ってくれていた。


 あのとき公務を続けていられたのも、冷静に振る舞えたのもセリーナがいてくれたからだ。

 あのあと王家からもセリーナ捜索の騎士を派遣したが、見つかったという知らせはまだない。馬車ごと崖に落ちたのなら助かるとは思えない。

 私は完全に自暴自棄になりすべてを投げ出した。その結果、私は王太子ではなくなり王都から遠く離れた場所で療養することになった。療養は表向きで生涯軟禁されるのだ。


「それでもいい。セリーナがいないなら……」


 信じればよかった。せめて王家の騎士をすぐに捜索に出せば見つかったかもしれない。一度目も、二度目も私がセリーナを殺した。


 夜眠り、朝目覚めるたびに、もう一度時間が戻ってほしいと願わずにはいられない。そうしたら今度こそセリーナと……。


 愛とはこんなにも脆いものなのか。愛しているからこそ、一度疑ってしまうと信じられなくなってしまう。裏切ったと思い込んだらその憎しみで目が曇り、真実を見失う。疑いを取り払うことは容易ではない。結局は私の心の弱さだ。どれだけ後悔しても、時間は戻らないしセリーナは戻ってこない。


 貴族議会での話し合いの結果、王太子にはアーサーが就いた。私に兄弟はいないし、直系の王族はアーサーしかいないのだから順当な結果だ。

 

 失意の父は退位を表明し、アーサーは婚姻と同時に王に即位する。両親はアーサーの即位を見届けてから王領地に住まいを移す。私はその祝事に参加せずに療養先に向かう。私はここにいてはいけない存在となってしまった。


 アーサーなら私よりも立派に国を守り発展させるだろう。アーサーとはいつも比べられていた。もともとアーサーは優秀だった。私を立てるために一歩引いてくれていたが、臣下の中ではアーサーこそが次期国王に相応しいと囁く者もいた。

 その者たちに自分を認めさせるためにやっきになって努力したが、結局は無駄になった。

 私は渇いた笑い声を上げた、再び強い酒を煽る。酔っていれば現実を忘れていられる――。

 ここには誰も来ない。両親はおろか、使用人ですら呼ばないとこない。顔の真っ黒い痣は薄くなることもなく禍々しくそこにある。

 セリーナがいない。失ってその人の大切さを思い知る。己の愚かさを嗤わずにはいられなかった。


 私が療養先に出発する前夜にアーサーが部屋に訪ねて来た。見慣れた軍服姿ではなく、王太子としての正装姿だったが違和感はない。すでに王としての風格があった。


「アーサー、来てくれたのか」

「最後に私の妻になる人を紹介しておきたくてな」


 そういえばアーサーが王太子になったときに婚約したと聞いていたのに、相手が誰なのか確かめなかった。アーサーは私とセリーナの結婚式が終わるまでは結婚しないと言って、婚約者すら決めていなかった。いらぬ争いを避けるための配慮だった。


 水を飲んで幾分頭がすっきりした。情けない姿ではあるが次期王妃なる女性に挨拶くらいきちんとしたい。自分が投げだした責務を押し付ける申し訳なさもあった。


「そうか。おめでとう。それでその相手は?」


 アーサーの体の陰に隠れていたようで、女性はスッと横にその姿を現した。私は自分の目を疑った。だが幻ではない。そこにはセリーナがいた。


 久しぶりに見たセリーナは記憶のまま、いや記憶よりも美しくなっていた。綺麗な礼をとると私に挨拶をした。


「セリーナでございます。お久しぶりです。ウイリアム様」

「セリーナ! セリーナ! セリーナ! よくぞ、無事で!よかった、よかった……」


 私の目からは涙が溢れ出ていた。セリーナが生きていた。どうしてもっと早く教えてくれなかったのだ。セリーナがいれば生きていける。たとえ顔が醜くくても、たとえ王太子でなくても。セリーナはどんな姿の私でも愛してくれる。私の希望、私のたった一人の愛する女性。

 思わず抱きしめようと手を伸ばしたが、セリーナはそれをあっさりと躱した。


「セリーナ?」

「ウイリアム。セリーナは私の婚約者だ。気安くしないでもらおう」

「う、うそだ……うそだろう? セリーナ」


 私はアーサーから婚約者を紹介すると言われていたが、どうしてセリーナなの理解できない。いや、したくない。この世に女などいくらでもいる。アーサーがあちこちから婚約の打診を受けていたことも知っている。だからセリーナでなくてもいいはずだ。私にはセリーナしかいないのに奪うのか?

 縋るようにセリーナを見る。セリーナの瞳は冷たく感情はない。その表情はまるでセリーナの姿をした別人だ。セリーナの私を見る目は春の日差しのように暖かで、そよ風のように優しいものだった。だけどその面影すらそこにはない。


「ウイリアム様も一度目の出来事を覚えているはずです。あなたは私を信じてくださらなかった」

「セリーナも覚えているのか? すまなかった……あれは宰相が……仕方がなかったのだ。わかってくれ。もう、間違えない。セリーナを愛しているんだ」

「二度、あなたは私を見捨てた。それなのにやり直せると本当に思っているのですか?」

「セリーナは私を愛してくれていただろう? そうだろう?」

「愛していました。だけど、終わったことです。あなたへの愛は公爵邸を包んだ炎が燃やしてしまった。もう、心のどこにも残っていません」

「そんな……一緒に国を守ろうと約束したではないか」

「一緒に生きる未来を捨てたのはウイリアム様です。私はアーサー様とともにこの国を守っていきます」

「待ってくれ。それなら……せめて聖女を見つけてほしい。セリーナなら居場所を知っているはずだ。この顔のまま生きていたくない。頼む!」


 不意に思いついた。宰相の言葉すべてが嘘だったのなら、セリーナの連れて来た女の治癒能力は本当だったのではないかと。


「ウイリアム様。この世界に聖女は存在しない、そうですよね? あなたがそう言ったのです」

「っ!」

「さようなら、ウイリアム様。どうかお元気で」


 突き放すような冷たい声に、身じろぐこともできなかった。


「そういうことだ。ウイリアム。これが今生の別れになるだろう」


 セリーナは私に向かってカーテシーをして踵を返した。そしてアーサーのエスコートで去っていく。

 最後に見たセリーナの瞳には、愛情も、悲しみも、苦しみも、何一つなかった。まるでセリーナの中に私という存在がなかったかのように。


「セリーナ……」


 私はすべてを失い、孤独になった。





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