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呪われた王太子を助けてあげたのに、罪を着せられ殺されそうです  作者: 四折 柊


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ステラ2

 ルカは真っ白な顔をしていた。顔をこちらに向けると弱弱しく微笑んだ。私はルカの傍にかけより縋りついた。咄嗟に手を握ると氷のように冷たく恐怖で体が震えた。体から血を失いすぎたのだ。それを理解すると目の奥が熱くなり涙が込み上げてくる。


「ど、どうしてこんなことに? なんで?」

「大丈夫だよ……今医者を呼んでくれているから……すぐによく…なる」


 ルカは口を開くのも辛そうなのにステラを安心させようとしている。思わず顔を上げると、商会の人たちは悲しげに首を振った。それはもう手遅れだという絶望の宣告に等しい。


「ステラさん。すまない。暴れた客が刃物を振り回して、ルカが事務員を庇って……」


 人を守ろうとしたのはルカらしいと思う。だけどこんな怪我してほしくなかった。私はあえぐようにルカに声をかけた。


「ルカ……すぐに、よくなるわ。そうでしょう? それに約束したわよね……私の傍にいるって……」

「…………ああ、い……る……よ……」


 ルカは目を閉じたまま小さく返事をした。握った手には力がない。このままだとルカがいなくなってしまう。


「いや、いやよ、おねがい。るか……いま……たすけるから」


 涙で視界がぼける。泣いていないでルカを助ける方法を考えなければ――。

 私には特別な力がある。母の一族から継いだ特別な力。その力のことはルカ以外の誰にも言っていない。その力を使うことは禁じられていた。「理を曲げる力」だからと。使えない力はないも同じだと思って生きて来た。

 だけど、今、私がこの力を使えばルカを助けられる。今ならまだ間に合う。私は母の言いつけを破ることにした。とたえ神に背くことになってもいい。理を曲げようとも、地獄に行くことになっても、私はルカを助けてみせる。


 私は泣きながら両手を傷口のある脇腹にかざした。頭の中で傷が消えて元に戻っていく映像を思い浮べた。するとすぐに両手が熱くなる。まるで燃えているように熱い。これは力が発露した証拠だ。血は止まった。そして徐々に傷は塞がり……そこに傷はなくなった。部屋に充満していた血の匂いは消え、床を染めていた血もまるでなかったのように消えた。

 ルカはゆっくりと目を開けると体を起こた。そして傷のあった脇腹に手を当てた。顔色は戻っている。もう、大丈夫だ。


「ステラ、治っている……。治したのか?」


 私は薄く微笑むと、そのまま意識を失った。翌日、家で目を覚ました。あのままずっと眠ってしまったらしい。


「ステラ。大丈夫か? 粥がある。食べられそうか?」


 心配そうに私の顔をルカがのぞき込む。


「ルカ……。ルカは大丈夫なの?」

「ああ、何ともない。助けてくれてありがとう」

「そう、よかった」

「お粥、食べるわ。お腹空いているの」

「すぐに用意するよ」


 力を使ったことで体力が失われただけなので体調に問題はない。ルカはホッとした顔でいそいそと食事の用意をしてくれた。体を起こしてもらい一口ずつ食べさせてもらう。自分でできるがルカが嬉しそうにするので甘えておこう。

 

「ステラは本当に力を持っていたのだな」

「信じていなかった?」

「そういうわけじゃないんだ。ただ、驚いた」

「それはそうよね。正直なところ、お母さんに力の存在も、その力を使うことができるのも聞いていたけど、半信半疑だった。だって使っちゃダメって言われていたから。でも不思議ね。使い方なんて知らないのにできちゃうものね」

「もしかして本能的なものかな?」

「そうかも」

「でも、もう使わないでくれ。ステラが真っ青な顔で意識を失ったのを見て、寿命が縮んだよ」

「それは私のセリフよ。ルカが元気でいてくれれば、もう使うことはないわ」

「そうだな。すまない。もう絶対に怪我をしないよ」

「お願いよ!」


 ルカが食べ終わった食器を下げると、私の隣に来て体をぎゅっと抱きしめた。私もルカの無事を確かめるように抱きしめ返した。


「ステラ。今日はゆっくり休んで何もしないで。家のことは俺がするから」

「でも、ルカの仕事は?」

「しばらく休みをもらえた」

「そう」


 ルカに落ち度はなく、客の暴挙で命を落としかけたのだから、気兼ねなく休みをもらってもいいだろう。思いがけない休みは嬉しいが、こんなことは二度とごめんだ。私は絶対にルカを失いたくない。

 私が思いつめた表情になったせいか、ルカが重くなった空気を変えるように明るい声を出した。


「ステラが元気になったら、婚姻届けを出しにいこう」

「あっ! そうよ。ルカのせいで行けなかったじゃない」

「ごめん」

「じゃあ、明日、行こう?」

「本当に体は大丈夫なのか?」

「大丈夫よ」

「わかった。じゃあ、明日行こう」


 私が小指を差し出すと、ルカが自分の小指を絡ませた。約束の儀式。ルカは愛おしげに目を細め私を見つめた。

 そのとき、家の外が急に騒めきだした。ルカが警戒するように眉を寄せ立ち上がる。


「様子を見てくるからステラは寝ていて」

「うん」


 ルカが玄関に行くとそこにいたのはとある公爵家の騎士だった。騎士は昨日私が起こした奇跡を聞きつけて来たらしい。騎士はルカの制止を躱すと、強引に私の体を荷物のように担いで馬車に放り込んだ。


「何をする。ステラを連れて行くな! 返せ!」

「ルカ、ルカ!」


 ルカの怒りを含んだ怒声が響いた。騎士はそれを無視し馬車を出した。

 馬車には侍女とおぼしき女性がいたが、何の説明もしてくれない。話しかけても首を振るだけ。それは不安を煽る。

 私はそのまま王城に連れていかれた。





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