男は守られる生き物
街には、美しい男が溢れていた。
ショーウィンドウの広告。
整えられた髪、細い顎、柔らかな笑顔。
「守られる男性は、社会の宝」
通りを歩く男たちは、よく手入れされた服を着ている。
高価な美容品の袋を持ち、鏡を見ながら髪を整える。
「今日の美容指数どうだった?」
「81。ちょっと下がった」
「肌管理ちゃんとしろよ。結婚評価落ちるぞ」
笑い声。
それが普通の会話だった。
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カフェの隣の席で、若い男たちが恋愛の話をしている。
「昨日さ、壁ドンされた」
「え、マジ?」
「うん。“あなた、私のものよ”って」
「いいなあ……」
一人が羨ましそうに言う。
「俺も壁ドンされてみたい」
周りが笑う。
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テレビのニュースが流れている。
「男性安心恋愛条例が改正されました」
女性アナウンサーが説明する。
「男性は守られる存在であるため、恋愛関係において女性が主導することが推奨されています」
「愛情表現としての“壁ドン”は、男性の精神安定にも効果があるとされています」
画面には、幸せそうなカップルの映像。
女性が男を壁に押しつける。
男は顔を赤くして笑っている。
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続けてニュース。
「来月から男性専用車両が導入されます」
アナウンサーは穏やかな声で言う。
「混雑や事件から男性を守るための取り組みです」
「安心して移動できる社会を目指します」
画面には、淡い色の車両。
「男性専用」
という文字。
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危険な仕事は女性がする。
工事現場。
運搬。
軍。
政治。
女性が社会を動かす。
男は守られる。
それが優しい社会だと、誰もが信じていた。
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その日、工場の門をくぐる男がいた。
背が高く、肩幅が広い。
整った服ではなく、作業着。
珍しい光景だった。
女性の警備員が声をかける。
「危ない仕事よ」
男は止まる。
「分かってる」
「男なんだから、無理しなくていいのに」
困ったように笑う。
悪意はない。
ただ理解できないだけだ。
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男は働く。
重い部品を運び、
油で汚れた機械を直す。
女性たちは時々、彼を見て言う。
「変わった人ね」
怒るわけでもない。
ただ少し、不思議そうに。
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昼休み。
休憩室のテレビが流れている。
ニュース。
「男性保護社会10周年」
女性大臣が笑顔で話す。
「男性は長い間、危険な労働に従事させられてきました」
「私たちは彼らを守る社会を作ったのです」
拍手。
画面には昔の写真が映る。
会議室。
政策チーム。
その端に、若い男が座っている。
真面目な目をした男。
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工場の男は、画面を見る。
ほんの一瞬だけ。
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工場の帰り道。
駅のホーム。
新しい車両が滑り込む。
淡い色。
扉の横に書かれている。
「男性専用車両」
中には、綺麗な服を着た男たち。
楽しそうに話している。
「安心だよな」
「守られてる感じする」
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男はホームに立ったまま、その車両を見る。
乗らない。
ただ、少しだけ考える。
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巨大広告が光る。
「守られる男は幸せ」
男は広告を見上げる。
街はいつも通り動いている。
きっかけを作ったのは、
俺かもしれない。




