削除申請
新しい制度が始まった。
存在削除申請制度。
ニュースでは、穏やかな声で説明されていた。
「この制度は、生きづらさを抱える方のための支援です」
「本人の意思を尊重し、苦しみからの解放を提供します」
申請は自由。
審査はAIが行う。
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アプリを開くと、項目が並んでいた。
孤独指数。
社会貢献度。
幸福予測値。
すべて、自動で計算されている。
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街では、思ったより普通に受け入れられていた。
「自殺するよりいいよね」
「制度があるなら安心」
「無理して生きなくてもいいし」
誰も怒らない。
誰も反対しない。
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ある日、通知が来た。
画面に表示される。
【削除制度対象者】
少しだけ驚いた。
けれど、理由はすぐに分かった。
収入は低い。
一人暮らし。
家族なし。
数字で見れば、そうなる。
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画面には続きがあった。
【削除申請を推奨します】
その下に、小さく書かれている。
【この制度はあなたの自由意志を尊重します】
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翌日。
職場で同僚が言った。
「削除制度って知ってる?」
「知ってる」
「いい制度だよな」
彼はコーヒーを飲みながら続ける。
「無理して生きなくていいんだから」
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主人公は頷いた。
否定する理由は見つからない。
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帰り道。
小さな公園の前を通る。
子どもが転んだ。
少し迷ってから、手を差し出す。
「大丈夫?」
子どもは立ち上がり、笑った。
「ありがとう」
それだけだった。
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その夜。
スマホに通知が来る。
【社会貢献指数 更新】
数値は、ほんの少しだけ上がっていた。
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しかし、削除判定は変わらない。
画面には表示されている。
【削除申請 推奨】
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主人公は画面を見つめる。
ボタンは一つ。
【申請】
押せば終わる。
誰も責めない。
制度は優しい。
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しばらくして、画面を閉じた。
理由は分からない。
ただ、まだ押さなかった。
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翌朝。
通知が届く。
【削除申請 未実行】
その下に、小さく表示されていた。
【再評価予定:30日後】
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主人公はスマホをポケットにしまう。
街はいつも通りだった。
誰も制度を疑わない。
誰も強制していない。
ただ、
優しく言っているだけだ。
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「消えてもいいよ」




