第7話 それでも拾う
その場所は、
地図の上では、
ただの空白だった。
駅から離れ、
舗装された道を外れる。
人の気配は、
ほとんどなかった。
草が伸びている。
風が吹く。
音は、
それだけだった。
掲示板に書かれていた場所。
幼馴染の名前があった場所。
理由は、
はっきりしていなかった。
それでも、
来ていた。
歩き続ける。
やがて、
それは見えた。
最初は、
ただの影に見えた。
近づく。
形になる。
モノだった。
壊れた椅子。
古い電子レンジ。
割れたプラスチックの箱。
形を失ったもの。
形を保ったままのもの。
混ざっていた。
捨てられていた。
誰のものでもない形で、
そこにあった。
立ち止まる。
何も触れなかった。
触れてはいけない気がした。
振り向く前に、
そこにいると分かった。
少女だった。
すぐ隣に立っていた。
これまでで、
いちばん近かった。
赤だけが、
静かにそこにあった。
袖口から覗く、
細い赤い糸。
風もないのに、
わずかに揺れていた。
少女は、
捨てられたモノを見ていた。
何も言わなかった。
責めてはいなかった。
ただ、
見ていた。
僕も、
同じものを見た。
直せるものがある。
直せないものもある。
全部は、
無理だった。
それは、
分かっていた。
それでも、
目を逸らせなかった。
足元に、
小さなラジオがあった。
黒い外装。
擦れた角。
見覚えのある形。
以前、
直したラジオと、
よく似ていた。
壊れていた。
電源は入らなかった。
それでも、
そこにあった。
手を伸ばす。
止まる。
全部は、
救えない。
それは、
本当だった。
少女は、
何も言わなかった。
ただ、
すぐ隣にいた。
離れなかった。
手を、
伸ばす。
ラジオに触れる。
冷たかった。
捨てられたものの冷たさだった。
それでも、
手を離さなかった。
拾い上げる。
重さが、
手に残る。
誰にも持たれなかった時間の重さ。
少女は、
僕を見ていた。
とても近くで。
初めて、
迷いのない目で。
僕は、
ラジオを持ったまま、
立っていた。
風が吹く。
草が揺れる。
何も変わらなかった。
それでも、
何かが、
変わっていた。
それは、
誰かに頼まれた修理ではなかった。
誰かに渡すためでもなかった。
自分の意思だった。
少女は、
最後まで、
離れなかった。
赤だけが、
静かにそこにあった。
僕は、
ラジオを持ったまま、
歩き出した。
もう、
止まらなかった。




