強化・作成、掘り掘り2
毎日2話投稿したいな...
鉱山から戻ると、すでに日は傾き始めていた。通い慣れた街路を抜け、路地奥の鍛冶場へと続く石畳を踏みしめる。かすかに煤の香りが漂い、静かな金槌の音が風に混じる。
カーン……カーン……
いつもと変わらぬ音のはずなのに、今日はどこか“期待”の響きが含まれているように思えた。
「ただいま。戻ったぜ」
扉を開けて入ると、鍛冶屋の男は振り向きもせずに言った。
「……おう、ちょうど仕上がったところだ」
火の粉が飛び散る中、男は一歩ずつ鉄床の奥へ進み、布に包まれた長物をひとつ手に取った。シュウユの前でその布をほどくと、そこには見慣れた片手剣――いや、その“進化形”が鎮座していた。
「《深淵晶剣・ノクターナルリーパー》。お前の《フロストリーパー》を基に、死王の素材で再鍛造した」
剣身は冴えた漆黒と青の中間に揺らぎ、刃の根元には禍々しくも美しい紫紋が脈打つように浮かんでいる。形状自体はかつてのフロストリーパーと同系だが、どこか“異質な意志”すら宿しているような感触があった。
「魔力蓄積機能はそのまま。だが今回は追加ギミックがある。MPの蓄積量が最大まで達しているとき、攻撃を外すと──」
「外すと?」
「“次の魔式発動時に0.4秒の冷却状態”が発生する。行動不能になるが、逆に命中すれば爆発的な魔力増幅が発動する」
「つまり、一発必中なら強いが、外せば一瞬動けなくなると……なるほどな。緊張感あっていいじゃねぇか」
「お前みたいな“感覚派”にはちょうどいいと思ってな。――で、もうひとつある」
鍛冶屋が取り出したのは、小さな黒銀の輪だった。繊細な彫刻が施され、まるで“結界”を閉じ込めたような奇妙な重圧がある。
「アクセサリー、《黒紋の輪》。死王の骨核と呪紋石を精錬して組み上げた補助装備だ。HPは微増、MP上限は+10。だが……これにはクセがある」
「デメリット付きってことか?」
「そうだ。この輪を装備している間、“アンデッド系からの敵対感知距離”が若干拡張される。つまり、あいつらからより強く“生者”として認識されやすくなる」
「なるほど」
「そういうこった。だがその代わり、“死霊耐性”と“精神系状態異常耐性”が大幅に上がる。呪い、恐怖、混乱、眠り──全部が弾きやすくなる」
「悪くないな」
シュウユは迷うことなく、《黒紋の輪》を装着し、剣を腰に収める。
魔力の流れが変わった。
まるで、死の世界と“繋がった”かのような冷たい線が背中を通り抜けるが、不思議と嫌な感じはなかった。それよりも、ただ──
「……落ち着くな、これ」
「死の淵を覗いた奴にしか分からん感覚かもな。まあ、装備はそれで全部だ。鉱石の方はどうする?」
「今日は使わない。ちょっと集めただけだしな。鍛冶用の倉庫に預かっておいてくれ。今後のクラフトに使いたい」
「了解。じゃあ、また素材が揃ったら相談に来い」
鍛冶屋の男はいつものようにぶっきらぼうにそう言って、火床へ戻っていった。
シュウユは一礼し、路地の外へ出る。石畳に足音を落としながら、小さく笑う。
「よし……装備は整った」
空はすでにオレンジに染まり始めていた。街の中央広場から、噴水の音と子どもたちの笑い声が聞こえる。
装備を整えたシュウユは、小さく伸びをした。
「よし、じゃあ一回休んでおくか。ちょうど疲れてたしな」
陽が傾き、街の石畳が淡い赤に染まり始める。騒がしい鍛冶場から一歩離れるだけで、町はどこか静かに感じられた。暖色の灯りが差す木扉を開けた瞬間、ほのかなスパイスとパンの匂いが鼻腔をくすぐった。
ここが、ゲームの中だというのが、まだ信じられない。
「いらっしゃいませ。お食事ですか? それとも、お泊まり?」
NPCの女将がにこやかに出迎える。
シュウユは小さく頷いた。
「晩飯、お願い。あとは……部屋も」
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」
通された席に腰を下ろすと、目の前に置かれたのは、白身魚の香草グリルと、ハーブスープ、そしてパン。
湯気が立ち上るそれらは、現実そのもののような完成度で――
ナイフで切れば、皮はパリッと音を立て、スプーンですくったスープは喉の奥をほんのり温めてくれる。
「……やっぱ、すごいなこのゲーム」
思わず呟いてから、シュウユは軽く笑った。
食事を終えると、部屋に戻り、VRメニューからログアウト操作を行った。
【Do you want to log out?】
【Yes/No】
【Yes】
【Thank you for playing NeoEden. Please play again!!】
意識がふっと薄れていく。
現実世界の自室の中でゆっくりとヘッドセットを外した。
デスクの時計は、夜の11時半を回っている。
「……課題、やってねえな」
天井を仰いで5秒ほど現実逃避した後、椅子に座り直す。
「明日の一限、情報処理……だったか。まあ、サクッと終わらせるか」
そう言いながら、モニターを切り替えてレポート用のエディタを開いた。
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