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トレントになったので一万年ほど寝ていたい  作者: 佐藤アスタ


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銀閃 中編

「S級冒険者パーティ『銀閃』の護衛任務に就けて光栄です!!」


「お、おいクルス。俺達は夢でも見てるのか?」


ここはリートノルド奪還作戦の拠点、東西南北の四つの方角にそれぞれ設置されたベースキャンプの一つ。


そのベースキャンプにいるのは、俺達ことS級冒険者パーティ『銀閃』の四人。

『銀閃』のサポートをしてくれる冒険者ギルド本部のギルド員の方々。(もちろん全員顔見知り)

そして、王国近衛騎士団一個中隊の皆様。


……………………。


おかしい。どうしてこうなった。


……いや、落ち着け俺。どんな結果にも必ず原因となるきっかけがあるはずだ。

思い出せ。きっと俺の記憶の中にそのカギがあるはずなんだ。


……思えば、俺達をここまで運んでくれた馬車もおかしかった。

俺達のパーティの印の描かれた旗を立てていたから特に疑問に思わずに乗り込んだが、妙にフカフカなクッション、移動しているのかも気づきにくいほどの静かな駆動音、嘶き一つ響かせない訓練された馬と巧みな御者。

あれは、襲撃しただけで死罪が確定するとまことしやかな噂のある貴賓用……考えるのはよそう。

どう見ても、俺達に向かって近衛騎士様が整列しているこの状況とは関係なさそうだし。


なら、どこに原因が……

いや、記憶を掘り返すまでもなくわかってはいたんだけどね。

そうです。ちょっとした現実逃避です。あまりにアッサリ答えに辿り着くのが怖かっただけです。

ていうか、俺の知り合いの中で近衛騎士団を動かせる人物なんて、冒険者ギルドグランドマスターしかいないじゃん。


「ベースキャンプの守備はお任せください!依頼完了後も完璧にグランドマスターの元までお届けします!」


……確かに聞いたよ?俺達と印章の安全を確保するために影護衛をつけるって。

でもこれ、全然陰に隠れてないよね?むしろ近衛騎士以上にお日様の下を堂々と歩ける職業なんてないよね?しかも一個中隊?むしろ俺達の方がオマケみたいになってるよ。あのバ――グランドマスターは何考えてるんだ?


……いや、どうせ心の中だけの叫びだ、ここだけは言わせてもらおう。


あのバカ!!






「行ってらっしゃいませ『銀閃』の皆様!無事のお帰りをお待ちしております!」


近衛騎士団の中に何かの間違いで紛れ込んだ部外者の気持ちを味わうという、全く休めた気にならないベースキャンプでの一夜を過ごした後、俺達『銀閃』の四人はリートノルドの街を飲みこんだという森へと足を踏み入れた。


と言っても、いきなり最初から亜人魔族といった、森に潜む敵と戦うわけじゃない。

森の外周部を取り囲むように冒険者ギルドが人員を配置しているので、敵の亜人魔族は森の奥地へ戦力を集結させているからだ。

もちろん、だからといって全く敵に出くわさない保証があるというわけじゃない。俺達の行動の意味を考えることもできない、知能の低い魔物の類はこっちの事情なんてお構いなしに襲ってくるからな。


「さすがは魔族の領域の魔物だな。王都近くに出る雑魚とは段違いだぜ」


そう無駄口を叩きつつも、襲ってきた三体の犬の魔物の心臓を正確に貫いているのは槍使いのランディ。


「ええ、油断は禁物よ。なにしろ、短期間で急拡大したと言われている森。どんな突然変異の魔物が生息しているか分らないし」


俺達の上を飛んでいた虫型魔物を気流操作で一か所に集め、魔力の矢で効率的に倒しながらランディに応じているのが、魔法使いのミーシャ。


「わわっ、来ました来ましたよクルス!!」


「わかってる、よっと」


慌てた言葉からはとてもそうとは思えないが、挟み撃ちのように背後から来た犬の魔物を聖術障壁で完璧に足止めしているのが、回復術師のマーティン。


そして聖術障壁に阻まれて隙だらけの魔物を愛用の剣で順番に仕留めていく俺。


これが四人組冒険者パーティ『銀閃』のメンバーだ。


「それにしても、まさか近衛騎士団に護衛される日が来るとは夢にも思わなかったな」


周囲の魔物を全滅させて移動を再開してすぐ後、ランディの口からそんな言葉が漏れてきた。


「私は未だにクルスがグランドマスターに気に入られてる、って話の方が信じられないけどね」


「じゃあ代わりにギルドとの交渉役やってくれるか?いつでもリーダー交代してやるぞ」


「嫌よ。ストレスはお肌の敵なのよ」


じゃあ言うなよ、と心の中だけでミーシャに文句を言っておく。

リーダーたるもの、依頼中はメンバーの愚痴を聞くのも役割の一つなのだ。


「それにしても、この依頼が終われば僕達が王族の正式な家臣になるんですか?それって、時と場合によっては貴族並みの扱いを受けるってことですよね」


世間的に見れば、王族の家臣になれば冒険者の立身出世物語のパーフェクトエンドに見えるのかもしれない。


「「「「はあぁ~~~~」」」」


だが、俺達四人の側からしてみればそれは全くの誤解、できることなら全力でお断りしたいバッドエンディングなのだ。


「俺の親がよ、S級冒険者になったってことをどこかから聞きつけたらしくて、毎月の仕送りを今の十倍に増やしてくれって催促の手紙が三日に一通は来るんだ……このままじゃ、貯金を切り崩さなきゃいけなくなる……」


「ランディの問題は王族の家臣になれば解決するからいいじゃない。私なんか、これからは行きつけのお店に気軽に通うなんてこと、一生できなくなるのよ……」


「僕なんて治療院を開くために冒険者になったのに、これじゃ本末転倒ですよ。はあ……」


三人三様に溜息をつくが、かといってリーダーの俺を責めるような奴らでもない。

この中で、一番普通の暮らしをしたい人間が誰なのか、十分すぎるほどわかっているからだ。






この冒険者パーティ『銀閃』は、俺が決めた厳しい条件に合致した一人一人に直接声をかけ、時間をかけて説得した末に生まれた汗と苦労のの結晶だ。


その条件とは、「地味で堅実」。


冒険者のほとんどは自分の実力を試したい、一攫千金、立身出世など、野心に満ち溢れた奴らだが、ことパーティでの活動や戦闘となるとそんな奴らと組むのは自殺行為だと、俺は思ってる。

パーティの方針を理解し、常に緊張感と責任感を持ち、リーダーの指示に忠実に従って依頼に臨む。

それが俺の考える理想の冒険者パーティ像だ。


俺の実力じゃソロでは限界があるという理由もあって、膿まず弛まず続けたスカウト活動のお陰で何とかこの似た者同士を集めた『銀閃』を結成できたわけだが、それまで中の下くらいの評価しかギルドから与えられていなかった俺達が、誰もが目を見張る活躍を見せ始めたのもちょうどこの頃だった。


噂をすれば影。


そんなことを考えていたせいだろうか、これまでとは毛色の違う敵が、立ちふさがる木々をなぎ倒しながら前方から現れた。


「ビッグボア……普通はこんなに大きくないですよね?」


「全員固まれ。マーティン、障壁だ」


マーティンの言う通り、通常は人族の背くらいの高さしかないはずの猪の魔物、ビッグボアだが、今俺達の前に現れた個体は高さだけでも通常の二倍、重量はおよそ五倍のまさに突然変異種だった。

はっきり言って強敵だ。普通に相手しようというなら、ベースキャンプで待機している近衛騎士団一個中隊を今すぐ呼ぶべきなんだろう。


だが、俺にとってその選択肢はない。逃げる間に仲間がやられてしまうリスクがあることも理由だが、そもそも戦えない相手がいるような森に自分から足を踏み入れるほど俺はバカじゃない。


「わかってるな、マーティン」


「その先のセリフは耳にタコができましたよ、クルス。盾は止めるためだけが使い道じゃない、ってね」


その時、まるで俺達の準備を待っていたかのように、蹄で地面を掘っていた特大ビッグボアが俺達に向かって突進してきた。


対する俺達の備えはマーティンの張った聖術障壁のみ。

この障壁、剣や弓、魔法などほとんどの攻撃を防ぐことのできる優れモノなんだが、受けた威力の分だけ魔力を消費するのが難点だ。

そのため、回復という替えの利かない役割の回復術師を前線に立たせて盾役をやらせるパーティは皆無だった。

俺達『銀閃』が台頭するまでは。


ブギイイイイイィ!!


俺達を轢き殺す光景を確信したビッグボアが勝利の雄たけびを上げ聖術障壁にぶつかった次の瞬間、


クイッ


手にした杖をマーティンが慣れた手つきで捻ると、呼応した聖術障壁がビッグボアの突撃を柔らかく受け止めて右手へ誘導、意図せぬ進路変更を余儀なくされたビッグボアは体勢を崩しながらその先にあった大木に盛大にその鼻を衝突させた。


「ランディ!」


「おうさ!」


その隙を見逃さずに俺とランディが疾走、弱点である横っ腹を晒したままのビッグボアに勢いそのままにそれぞれの剣と槍を突き立てた。


プギィヤアアアアアア!!


突然の腹からの痛みに絶叫を上げるビッグボア。

だが、分厚い脂肪と筋肉の鎧に守られたビッグボアの急所を貫くには、俺とランディの力じゃあと何十回突き刺せばいいのか想像すらできない。それに、この場に留まり続ければ、必ずビッグボアからの反撃に遭う。その時の俺達のダメージは腹を一突きされた程度じゃ済まない。


だから、ランディに目顔で合図しながら俺はビッグボアから離れる。


――それぞれの武器、剣と槍を残したままで。


「ミーシャ!!」


「わかってるわよ!二人こそ、巻き添えを食らわないようにね!」


そう答えた魔法使いのミーシャ。

その手にあるワンドには、バチバチと音を立てながら発光している黄色の閃光。


ミーシャはいわゆる「普通の魔法使い」だ。

バラエティ溢れる強力な攻撃魔法を使える反面、どの魔法も一定時間の詠唱が必要であり、臨機応変の対応ができる無詠唱魔法が大の苦手だ。

魔法使いとしては優秀な部類に入るそうだが冒険者としては足手まとい。それがミーシャの周りからの評価だった。

だが、俺の「地味で堅実」という条件に合致するミーシャを、その程度の噂で逃すなんて選択肢は俺にはなかった。


だから変えた。

ミーシャではなく、俺達の戦い方をだ。


俺、ランディ、マーティンの三人で敵の動きを止め、ミーシャの一撃で決めるスタイルに。


「サンダーボルトランス!!」


一際強いワンドの発光。巨体の魔物へ向かう放電現象。一瞬のフラッシュの後、現れたのは黒焦げの炭になったモノ。


マーティンの聖術障壁が張られてから開始された詠唱で威力は十分。

さらに俺とランディがビッグボアの腹に残してきた武器を媒介に、強力な雷撃魔法は奴の体内を直接暴れ回った。


普通の冒険者なら、ここで快哉を上げて強敵を倒した快感に酔いしれるんだろう。

だが、俺達はそれが無駄な行動だとちゃんと知っている。


「警戒!!」


剣士の残心の構えのように瞬時にフォーメーションを戻し、周囲の安全を確かめて、ようやく一息つく。


これが俺の理想のパーティ、『銀閃』の戦い方だ。

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