あの日見た世界と包囲網
「今日からこのチームで共に戦う、オルガ・アーガイルとキラ・ヘルフレアだ。みんなよろしく!」
その日、俺は新たなチームのメンバーを見た。
これまで俺の見た景色とは全く違う。
「オルガ・アーガイルです。よろしくお願いします」
「俺は悪魔軍のキラ・ヘルフレアだ!よろしく!」
そのときから俺とキラの間には大きな壁ができていた。
自己紹介後の先輩との交流会。
キラの席の周りには大半の先輩方が集まった。『悪魔』という言葉が彼らの心を引き寄せたのだろう。
そんななか、俺の前に座る男が一人いた。
後に俺たちのリーダーとなる男、勅使河原だった。
ニコニコと笑い、その頃は・・・いや、その時から嫌いだった。
「君はどこから来たんだい?」
俺は本当のことを言えなかった。
自分がキラとは逆に『天使』だということを。
「言えません・・・」
「そうか。まぁ言いたくないのなら別にいいさ。俺も言いたくないからな」
勅使河原はあのときにはもう俺が天使であり、天界に居たことを知っていたらしい。
「突然だが、君には彼がどう見えてる?」
「彼って?キラのことですか?」
「そうだが」
俺はそのときの言葉を鮮明に覚えてはいないが、たぶん言ってはならない『本音』を溢したのだろう。勅使河原が笑うのをやめ、驚いた顔をしていたのは覚えている。
「・・・まぁ確かにな。じゃあ、彼に勝てると思うか?」
「それは・・・」
今はやる気になれば、すぐに殺すことは可能だ。だが、そのときは『悪魔』と聞いて少し逃げ腰だった。
「勝てません。たぶん・・・」
「じゃあどうしたら勝てると思う?」
「・・・努力ですか?」
「正解だ。じゃあ俺が今から君と彼を戦わせたらどうなるかな?」
そのときの俺はそのことに恐怖していた。
「おもしろいこと考えますね、副隊長?」
勅使河原の言葉に耳を向けたのは四津野だった。あの頃の四津野は今のような大人っぽい性格とは真逆で、小学生のような格好をしていた。
「ちなみに私はキラにかけますよ」
「じゃあ俺はオルガにかけよう。もしも君が勝ったなら君が前から欲しいと言っていた剣を買ってやろう」
「おっしゃ!キラ、ちょっと来てー」
キラは四津野の声を聞くとすぐに俺らの近くに来た。
そして戦うことが決定してしまった。
そこまでの記憶はあるが、そこから先が覚えていない。俺が勝ったのか、キラが勝ったのか・・・その勝負の勝敗すらも・・・
「隊長、どうやらまだ治癒力はありますが、抵抗力は無いみたいです」
「そうか。早かったな、オルガ」
カシラは牢屋の扉を開け、オルガに近づく。オルガの着ていた白いシャツは血で赤く染まり、銃弾の穴が開き、オルガの座る椅子の周りには血溜まりができていた。
「それでは俺たちはメンバーの応援にでもいこうじゃないか」
カシラが牢屋から出ようとしたときだった。
いきなりカシラの左腕が切れ、下に落ちる。そしてカシラの痛みによる叫びが牢屋内に響く。
「おいおい、隊長。そんな声吐くなよ、気持ち悪い」
「な、なんで生きてんだよ、オルガ!」
カシラの背後には刀を持つオルガの姿があった。
「ありがとな、部下共。銃弾を俺だけでなく、俺の腕についた錠前にまで撃ち込んでな。おかげですんなりとれたよ」
「まさか、銃弾の威力で鍵を壊したのか・・・」
「それじゃあ俺は指揮に戻らないといけないので。それといい拷問だったぜ。まぁ俺が天界にいた頃に庶民にした拷問よりは苦しくなかったけどな」
「き、・・・キサマー!」
カシラはその場に倒れ込んだ。それを見たカシラの部下はオルガのことなど見ずにカシラのところへ集まる。
「キラ、死ぬんじゃねぇぞ」
オルガは牢屋前のモニターに映るキラを見ると、すぐに指揮室へ向かった。
ニコを倒してから数分後、未だどこのチームも石像にたどり着けていないらしい。特におかしいのはチームBだ。彼らに関してはニコ以外動きを見せていないらしい。四人全員で石像を守るつもりなのだろうか?
チームZも何を悟ったのか、Bと同じく動こうとしない。
俺らはチームZの近くまで来たが、何の動きも見せないため、心の中でどこか不安が増していた。
「それにしても変だ。試合開始から20分。何の動きも示さない2チームはどうなっている」
石像近くにいた雷帝は二本目の酒瓶のふたを開ける。
「奇妙ですね。確か普通の場合は爆音やら何やらでうるさいはずですもんね10分前に爆音が聞こえたくらいですし」
「まぁ平和なことはいいことだ。今は準備でもしてゆっくりしてろー」
雷帝は酒をらっぱ飲みすると、近くのモニターを観る。
「静かすぎませんか?」
俺は疑問を持つ。これだけ静かな戦場は初めてだ。
「確かにやけに静かすぎる。爆音の一つすら聞こえないのはおかしいな」
「そうね。気味が悪い」
四津野は一度立ち止まると、辺りを見回す。
「どうしました?四津野さん」
「いや、ここ前に一度通らなかった?」
「え?」
俺はそれを聞き、辺りを見回した。
ひびのはいった壁、もくもくと煙の上がる煙突、どことなく人工的に置かれた大きな岩。
見覚えのある景色だ・・・。
「確かにどこかで」
「気のせいだろ。もう少し歩けば着くだろ」
キラはそう言うと、そのまま前を歩き続ける。
俺もそれについていく。
「待って、二人とも」
四津野のその声に俺とキラは振り向く。
「おかしい、おかしすぎるわ。どうしてこの道を何度も歩くのかわかったわ。ねぇさっきから後ろをついてくる、ユキムラ!」
四津野は後ろを振り向くと、近くに置かれたゴミ箱を片手で投げる。ゴミ箱は見えない壁に当たり跳ね返る。
「今お前たちは俺の監視下にいて、俺の作った幻想の中に存在している。幻は君たちに新たな世界を見せ、元の世界に戻れなくなる」
前の見えない壁に亀裂が入ったかと思うとそこから空間を裂くかのように男が現れた。
その壁の向こうからはその静寂を喰らうような工場の騒音が聞こえる。
「この戦場にいるもの、観客も何もかも全てを幻想の世界へ誘うのはとても厳しい仕事だった。そしてその壁を破壊したのは君が初めてだよ。四津野 千理」
「ユキムラ!」
ユキムラは四津野の名前を呼ぶと、ニヤリと笑う。
それを見た四津野は剣を構える。だが、前進せずにその場に立ち止まるだけだった。
「どうしたんだ?四津野」
おもわず、キラは四津野の前に出る。
「キラ君、だっけな?」
「何だよ」
ユキムラはキラを呼ぶと、キラの顔を指差した、
「君にはこの幻覚を見てもらおう」
「しまった!」
キラはその場に膝から倒れる。
「先輩二人は幻覚を見ている。さぁ君もあちらの世界へ」
ユキムラはそう言い、俺の方を見てニヤリと笑う。
「これで君も仲間入り・・・おや?」
だが、俺の目の前に写る景色は何一つ変わらなかった。変わらない景色とユキムラの顔色からして俺が幻術にかかっていないことはすぐに理解できた。
「おかしい・・・なぜお前は幻術にかからない!」
ユキムラはさっきまでの余裕の笑顔を消すと、四津野が握る剣を取り、俺に切っ先を向ける。
「クククク・・・」
耳元で何かが笑う。これも幻術か?
「いや、違う。赤狼だ」
何だ、赤狼か。
(今、お前が幻術にかからないのは俺のお陰だ。感謝するがいい)
「はいはい、ありがとよ」
俺と赤狼はこの何日間で昔からの親友の如く、仲良くなっていた。
そのため、どちらもタメ口で昔な堅苦しさは無かった。
(今のあいつは戦闘に集中できていない。一発腕でも切れば戦闘不能で立ち上がれないだろう)
一発でか・・・
俺は拳を見たあと、ユキムラの顔を見た。
「いけそうだな」
「よし!行くぞ、柊!」
俺は身体を獣へと変えると、赤狼によって生み出された赤い線の通り走る。
「来るな!来るな!」
「幻術師が幻術にかかっているようだな」
「く、来るなー!」
ユキムラは剣を素早く振り下ろす。だが、その斬撃は当たりそうにない。
「幻術以外にも剣術も研かないとですよ」
シナリオ通りとはならないが、俺の赤い爪はユキムラの身体直前で消え、拳のみが腕に当たる。いや、拳が当たった感触すら無かった。
「あ、あれ?」
「幻術を甘く見ていたようだな。その前にいる哀れな人間も幻覚である。最初に幻術にかかっていないと知ったときは驚いた。だが、それも長くは続かないようだな」
(どういうことだ、赤狼)
(おかしいな。俺は今も幻術にかからないようにしているはずだ。彼の力がそれ以上なのかもしれないな)
「色々と言ってくれたじゃねぇか」
ユキムラは俺の目の前に一瞬で現れると、俺を蹴り倒す。そして顔を足で踏みつけた。
「新人が!調子のってんじゃねーよ!そんな小さい拳で俺を倒せると思ったか?」
「あとは・・・」
「ん?何か言ったか?」
「あとは頼みます。先輩・・・」
俺は近くに置かれた小石を拾うと、四津野に向けて投げる。その石は四津野の足に当たるとそこから、まるで氷が砕けるかのように身体の表面に覆われた膜が割れた。
「お前!何をした!」
「石にちょっとおまじないをかけました」
赤狼から貰った力を石にこめたため、幻術を壊す能力のある魔力は石を伝わり、四津野の身体に入った。
「ありがとよ、柊。今の一瞬、昔の、私がヤンチャだった頃の記憶を思い出したよ」
四津野は剣を構えると、肉眼でとらえることのできない早さでユキムラの身体に斬撃を叩き込んだ。
「お見・・・事・・・」
ユキムラが倒れたことで、辺りの幻想は消え、キラは幻覚から解放された。
そして頭にあった違和感もきれいさっぱり消えていた。
「うお!?ユキムラは!」
「そこに倒れてるわ。ユキムラも倒したことだし、壊しに行くとでもするか」
「そ、そうだな。(このキズ・・・四津野、昔みたいに力入れたな)」
キラは何を思ったのか、鼻唄を歌うと四津野についていく。そして振り向くと、俺に
「いくぞ、柊」
と言う。
俺も立ち上がり、服についた砂を払うとついていった。
一方、石像を守るルナと雷帝はどこかから聞こえた声に反応し、戦闘体勢に入っていた。
「今の声って・・・」
「その前の爆発といい、何かあったらしいな」
雷帝は酒瓶を置くと、前を見る。
雷帝の前の通路に人影はない。
「こっちは異常ありません。雷帝は?」
「こっちもだ。指揮がいない分、圧倒的不利だ。そこは俺達がちゃんと見張らなければならな・・・い」
雷帝はルナの上に恐ろしいものを見た。
影になったところから伸びる一本の白い腕と長い髪の毛。雷帝はそれを見て昔テレビで観たホラー映画の1シーンを思い出す。
「ルナ!後ろだ!」
ルナは雷帝の声を聞くと、後ろを向く。
「きゃっ!」
ルナは腰が抜けたのか、その場に倒れる。
雷帝は座っていた場所から電撃で槍のような武器を作り、その影向けて投げる。
影はその槍を避けると、地面を這うように動き、ルナの影に入っていった。
「雷帝・・・さん・・・。体が、動きま・・・せん」
「お、落ち着け。弱音をはかず、強い信念でそいつから目を離すな」
影から現れた黒髪長髪の女は白い腕でルナの服を掴むと、少しずつ上へ、上へと登ってくるではないか。
「雷帝・・・さん。助け・・・て」
すると次の瞬間、ルナとその奇妙な女との間に電撃がはしる。
雷帝は人差し指を地面につけ、微量の電撃をルナに放ったのだ。
女は電撃をくらうと影に入る。
「くらえ!」
雷帝は大量の雷をその影向けて放つ。影はそれを避け、ビルを上ると逃げていった。
「大丈夫か!?」
「今のはいったい・・・でも敵だってことは」
二人は影の上っていった壁を凝視する。
壁には点々と残った黒いシミと血のような赤い色で書かれた『次こそは殺す』というメッセージが残されていた。それを見て、ルナは震える。
「恐らく今のやつはチームBの・・・。もうこんな前線まで来てたのか」
「ちょっと待って、あれ・・・何・・・ですか?」
ルナはビルの屋上を指差す。そこには、
大量の銃とウサギのマスクを着けた人達が、二人に銃口を向けていた。




