終点
スナイパーライフル?ハンドガン?
銃に疎い二人にはぼんやりとした名前しかわからないが、ただ一つわかっていることがあった。
窮地に立たされているということだ。
雷で弾を撃ち落とせるだろうか・・・雷帝は両手の平に雷のエネルギーを蓄積させる。
ルナは雷帝の能力を信じることしかできなかった。
リーダーと思えるウサギが手を挙げる。それと同時にビルの上に立つウサギ達は二人に銃口を向ける。
「一つ、言っていいか?」
リーダーのウサギは雷帝の言葉に耳を傾ける。
「今、俺はお前らの守るシンボルに雷のお前達に見えない線で罠を仕掛けた」
雷帝の口から出た言葉はこれまでやってきたことを水の泡にするような言葉だった。もしもそれが本気なら一秒でも早く終わらせるために起爆しているだろう。
ウサギは一瞬の思考でそれが嘘だと判断した。
「そしてお前達が俺たちに銃弾を一発でも撃った瞬間に爆弾が作動し、爆発することになっている。嘘だと思うなら、何も考えずに撃ち始めるがいい」
雷帝は左手に雷のエネルギーを集めた弾、右手にその爆弾を爆発させるためのスイッチを持つと、ウサギ達を見て、いつもの笑いを見せる。
ウサギ達はそれをどう受け取ったのか、顔が全く見えないために何とも判断できないが、たぶん危機感が少しでもあったのだろう。引き金を下ろすことはできなかった。
「そしてもう一つ。俺たちはお前らのことなんて最初から見てねぇんだよ!俺たちの今回の狙いはチームBだ」
リーダーのウサギはその言葉に堪忍袋の緒が切れたのか、すぐさま手を下ろした。
「そう来なくちゃな!」
雷帝はそれを見て、すぐに右手に握られた起爆スイッチを押し、銃弾の雨の中心に向かって左手の雷の球体を投げた。球体は中心に行くと花火のように散り、バリアのようなものを張る。
そして銃弾の雨が止んだと思ったときには、ビルの上のウサギは姿を消していた。
そのとき、ルールの一つに『チームのマークが描かれた石像が壊されたとき、そのチームのメンバーは全員再起不能とみなし、即刻退場』というのがあったことをルナは思い出した。
「石像が壊されたことにより、チームZは退場となります」
その言葉を聞き、あらためてチームZとの戦闘に勝ったことをルナは実感した。そして横でガッツポーズをする雷帝にある質問をする。
「あれって心理戦の一つじゃなかったんですか?」
「あれって?爆弾のことか?」
「はい。私はてっきりあの人数を見て、苦し紛れに心理戦を図ったのかと思いました」
「あー、ほぼ心理戦みたいなもんだ。ちなみに爆弾を仕掛けたのはあいつらが来てからすぐのことだ」
「・・・え?」
「俺があのとき欲しかったのは爆弾を仕掛けるだけの時間とあいつらの気を引くだけのことだったんだ。爆弾を仕掛けるのは簡単なことだ。酒瓶をあいつらの石像の近くに置けば高圧の電流を流すだけでドカンだからな。ただ問題はそれをいかにバレないで持っていくかだ」
電流によって電磁石と化した鉄板を地面から浮かせ、皿にして酒瓶を持っていくのはすぐに思い付く。だが、どう考えても隠せるわけがない。なぜなら目に見えているからだ。あいつらの腕ならそれを撃ち抜くことなんて容易いだろうな。そこで俺は自分の口を信じたんだ。どれだけあいつらの気を引くことができるか。
この酒屋のおっさんを騙す程度しかできない口にな。
雷帝は少し真剣な顔で説明していたが、すぐに顔をいつものにっこり顔に戻す。
「・・・でもそれってバレたら終わってましたよね?」
「そこはギャンブルだよ。賭け事さ」
やはり笑顔は絶やさない。
「ふぅ・・・少し安心しすぎたみたいだな。次の客が来てやがる」
雷帝は殺気を感じたのか後ろに向かって、電撃をはなつ。石像を紙一重で通った電撃はそこにいた見えない何かに当たり、向こうの壁までぶっ飛ばした。
「俺たちが戦っている間、お前はずっとこの近くで策を練っていたようだな。幽霊野郎」
そこにいたのは少し前に見たばかりの黒髪長髪の女だった。きっと銃弾の雨が降り注いだときに、銃弾の影から影へ移り動きながら石像を壊すタイミングを狙っていたのだろう。
「思い出した。確かチームBの『影食い』とか言われてる人だよな?名前は・・・」
「無月」
「そうそう、無月な」
女は自分の名を名乗ると、不気味な笑みをこちらに見せたあと影に入って二人に近づく。
「このときを待ってたぜ!」
雷帝はそう言うと、地面に向かって雷を流す。
影はそれに当たったのか、影から飛び出した。
「俺がこの何十分の間、ただただ酒を飲んでいたと思ってたろ?俺は少しもったいないが、地面に酒を染み込ませてたんだよ。今まで話を聞いてきて酒は電流を流さないからそんなことは無理だ、と思ったよな。だが、俺の飲んでいる酒は少し他の物と違う特別なものを使ってんだ。まぁ内容は企業秘密だぜ」
雷帝が少し説明している間に、女はその白い肌を黒くしてその場に倒れてしまった。
「無月。確か影使いだっけな?チームBでも低レベルな方だと思っていたが・・・。何考えてんだ、チームBは。こんなやつを戦場に出して」
雷帝は無月の顔を見ると、
「案外かわいい顔してるじゃねぇか」
と呟いた。
一方、チームZの退場を聞いた前進する俺、キラ、四津野は通路を変え、チームBの石像へ向かっていた。今のところオルガはまだ帰ってきていないらしい。
「そろそろかな」
チームOの石像のある場所と同じくらいの広さの場所が俺たちの道から一瞬で現れる。
真ん中には同じような形の石像が存在し、真ん中には重装備をした男が紫色の大鎌をかまえ、俺たちを待っていた。
「リーダーを倒してここまで来ると・・・」
男はその体躯と真逆の低く小さな声を出すと、鎌をキラに向けて大きく振る。
斬撃の渦はキラの横を通ると、後ろのビルを粉々にした。破片は紫色の炎によって焼け消えてしまう。
「魔界でもこんな炎を使うやつ見たことないぜ」
キラはその炎を見て、驚くどころか笑い始める。
「初めての力ほど、心を奮わせるな」
「チームBのやつらは今回、初見ばかりだな。まぁこの前卒業したばかりだから仕方ないか」
キラは笑うのをやめると拳を大鎌の男に向ける。四津野は切っ先を向けた。
「柊にはユキムラを倒してもらったし、二人であいつを倒すか!」
四津野の言葉にキラは「了解!」と返事をすると、一瞬で大鎌の男に近づき、拳一発で鎧を破壊する。装備は粉々になり、キラの拳から放たれた衝撃は男の体までも貫通した。
「無念・・・」
瞬殺。完全勝利・・・。
男は立ち上がることはなかった。
「さて、この勢いで石像も壊すか!」
このとき、キラには俺と違う世界が見えていたのだろう。
キラは振り向き石像へ視線を向けた瞬間、いきなり叫びだした。
「な、なんだこれは!気持ち悪い!なんでこんな気持ち悪いもんがあるんだよ!」
「キラ、どうした!」
「四津野には見えるよな!この不気味で気持ち悪くてどす黒いオーラを纏った、死んだはずのネロの姿が!」
「ネロだと!?」
ネロ・バルコ。元チームOの教官をしていた人物。一時期リアが入院していたときにチームOを指揮していた一人。教官としての能力はリアをはるかに上回り、キラとオルガの心にはとても深く残っていた。なぜなら二人に能力を教えたのはネロと言っても過言ではないからだ。
だが、ネロは『Lost』によって殺されてしまう。
キラは「ネロがいる」と言っているが、俺や四津野
には完全に見えていなかった。
次の瞬間、キラは何かによって後ろに向かって吹っ飛ばされた。
「キラは幻覚を見ている。だが、ユキムラはもう戦闘不能で運ばれた。じゃあ誰がこれを・・・」
俺は一瞬、何か光るものを見た。向こう側の壁に刺さる光るものを・・・。
俺は四津野にそれを伝え、指を差す。
「あれは・・・鍵か?でも、なぜあんなところに」
四津野はそれを取りに近付こうとする。
次の瞬間、俺たちの前に透明な壁によって跳ね返されてしまう。
「これは・・・バリアか!」
「その通りですよ、二人とも」
聞いたことのある声。声の方向にはあのとき壊れたはずのニコが片眼から煙を出しながら立っていた。
「今、私は二人がここに入れないようにバリアを貼りました。高性能なやつをね!入るには今キラに見えている幻覚を消すしか方法はありません!あなたたちはただただキラが見えないネロに殺されるのを見るだけだ!」
ニコは最後の力を振り絞る。そして力尽きて爆発した。
「最後まで邪魔をするのか!」
「キラさんが倒さないと石像を壊すこともこの結界内に入ることもできないのか。何もできないのか」
キラはネロを見る。
「なんで・・・なんでネロがいるんだよ!」
キラはネロが死んだことを誰よりも長く悲しんでいた。悪魔は人間が死ぬことを何とも思わないらしいが、キラはそんなこと関係なく、号泣した。
ネロを勅使川原の次に誇りに思っていたからだ。
ネロの存在がキラを強くしたと言っても過言ではないからだ。
「ネロ、もう一度でいいから!」
「うるさい!黙れ!」
キラの中をその一言がぐちゃぐちゃにする。
「お前みたいなやつは嫌いなんだ。声がうるさくて耳に刺さる!」
「・・・何言ってんだよ。冗談だよな?」
「片腹痛いわ、この顔が冗談を言う顔に見えるか?最初から嫌いだった!俺の作り笑いに騙されてよ!俺を最高の師と思い、特訓を受けてたらしいが、俺が本当に戦いを教えていたのは横にいた「オルガ」だったんだよ!」
幻覚か・・・これも・・・
キラは拳をネロに向けて放つ。重りの乗った右ストレートはネロの体に穴を開ける。
「そんな心の汚れたネロはいない。この彼岸に」
ネロの血は石となる。キラの言っていたネロというのは石像だったようだ・・・。
「ネロ・・・。次に本物のネロに会えたときは、ちゃんと俺を叱ってくれ」
幻覚だからといって師を殴る俺を・・・
王座決定戦は終わった。
俺たちチームOは記念のトロフィーを貰う。
涙は無かった。感動の涙は・・・
ここに来るまでに十何人もの人や悪魔が死んだ。
そのなかに俺たちチームの誰かがいてもおかしくなかっただろう・・・。
チームZは裏での行為を知られ、反則として半年の戦闘、イベント出場の禁止を出された。
そして指揮室にオルガが座っていた。真っ赤になったシャツを着て。そのときやっと安心感が込み上げ、俺たちは泣いてしまった。
命の重さを知ったこの戦い。
でも、俺たちは次の戦いで・・・命の怖さを知ることになる・・・。
※
暗闇に光るその目は何を待つのか・・・
「柊・・・海都・・・。能力は『獣』・・・か」
「また柊を観察していたのですか?確かに面白い動きをしますが、赤狼を復活させるには弱すぎます」
「いや・・・彼は・・・きっと」
パネルに映る柊の横にはくっきりと赤い狼の形をしたオーラができていた。




