表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/58

第58話「生存」

蒼慈を残した広間を出る前に、四人は一度だけ足を止めた。

青い花の残骸が、まだ床に残っている。

誰も、すぐに歩き出そうとはしなかった。

心桜が、菊乃の横顔を見る。

『ねぇ。

最初から、知ってたの。妹がもう一人いるって』

琥珀も、刀の柄から手を離さないまま続けた。

『紅華ちゃんの顔を見たとき、菊乃さんは……驚いてなかった。

「やはり生きていたか」って、言ってた』

菊乃は、否定しなかった。

『知っていた。

逃げる夜、母親が四人分の気配を残したまま、三人だけを外へ出した。

私は六歳だった。忘れられなかった』

『なのに、話さなかった』

『話せなかった。

生存も分からない。

仮に生きていても、里に残された以上、私たちとは違う生き方を強いられている。

期待させて、空振りさせるくらいなら、黙っていた方がいいと判断した』

心桜が、低く息を吐く。

『……あんたらしい、ひどい優しさだね』

『事実だ』

紅華は、二人のやり取りを黙って聞いていた。

槍の石突を床につき、視線を落とす。

菊乃が、紅華の方を向いた。

『紅華』

『……なに』

『生きていて、よかった』

短い言葉だった。

誇張も、感情の波も乗せない。

菊乃なりの、最大限の温度だった。

紅華の肩が、一度だけ揺れる。

『……遅いよ、それ』

『遅くても、言う』

沈黙が落ちる。

心桜も琥珀も、割り込まない。

紅華が、ゆっくりと顔を上げた。

『母親から、三人のことは聞かされてた。

逃した姉妹がいる、って。

顔も、名前も、曖昧なまま』

『それで』

『四天王になってから、偵察を出した。

独自に。上には黙って。

花の血の気配を追って、外の情報を拾ってた』

琥珀の目が、見開かれる。

『……私たちを、探してた』

『複雑な気持ちだった。

会いたいのか、会いたくないのか、自分でも分からなかった。

光の側で普通に生きてる姉妹を、影の側から見てた』

彼岸花の匂いが、遠くから薄く残っている。

『でも今は——会えて、よかったと思ってる。

斬られたあとで言うのも、なんだけど』

心桜が、小さく笑った。

『変な妹だね』

『姉さんたちの方が、よっぽどでしょ』

琥珀は紅華の袖に、そっと触れる。

『……これから、ちゃんと話そう。

知らなかった分、これから』

紅華は拒まなかった。

菊乃はそれ以上何も言わず、下り坂の方を見た。

『休めるところまで、移動する。

最深部は、まだ先だ』

四人の影が、通路に並ぶ。

知っていた側と、知らなかった側が、ようやく同じ事実の上に立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ